artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

GEIBUN2─富山大学芸術文化学部第2回卒業制作展─

会期:2011/03/08~2011/03/23

高岡市美術館[富山県]

那覇─小松空港を経由し、高岡へ。小松駅にて、東京─仙台の新幹線をキャンセルしようとしたら、駅員に新幹線以外の鉄道なら行けるのでは? と言われ(もちろん、つながっていない)、ああ、ここは被災地と遠いのだと実感した。高岡市美術館の富山大学芸術文化学部による卒業制作展に関連して、トークショー「ヴェネチアビエンナーレ国際建築展について」を行ない、建築と映像の学生の作品を講評する。
五十嵐賞を出すということで、建築からは、一番造形力のあった谷間を横断するジグザグ建築の三上恵理華と、コートハウスのサンプルを集め、上下をばらして再度組み合わせ、バリエーションを増やした橋本千夏、そして造形芸術コースからは、感情にまつわる架空の昆虫を大量に制作した川越ゆりえの「感情標本」を選ぶ。なお、卒制展の打ち上げでは、東北大から富山市の実家に疎開した研究室の椚座くんと再会した。

2011/03/20(日)(五十嵐太郎)

新宿中村屋に咲いた文化芸術

会期:2011/02/19~2011/04/10

新宿区立新宿歴史博物館[東京都]

明治末から大正期にかけて新宿中村屋を舞台に交友していた芸術家や文化人による作品を集めた展覧会。小規模とはいえ、見応えのある展示だった。中村屋の創業者、相馬愛蔵・黒光夫妻のもとに集っていたのは、荻原碌山(守衛)をはじめ、戸張孤雁、柳敬助、中原悌二郎、社会運動家の木下尚江、演劇の松井須磨子、秋田雨雀、そしてインドの独立運動家ラス・ビハリ・ボースやロシアの盲目詩人エロシェンコなど。展示された絵画や彫刻などは、それぞれ単体として見れば、いかにも古色蒼然とした近代美術の典型にしか見えない。ただ、それらが「中村屋サロン」という物語のなかに位置づけられることで、絵だけからは決して見えてこない一面が浮上するところがおもしろい。例えばフランスでロダンから学んだ荻原碌山は、彫刻の本質を外形の写実から内的な表現へと転回させたことで知られているが、会場のはじめに展示された《女》は黒光夫人をモデルにした彫像だという。すると、この両膝で立って天を仰ぐ彫像には黒光夫人に寄せる碌山の叶わぬ想いが凝縮されていることになり、その湿度を帯びたあまりにも重たい想いが鑑賞者にじわじわと迫ってくるのである。さらに中村屋裏のアトリエを借りて夫妻の娘俊子をモデルにして絵を描いていた中村彝は、二度にわたって俊子にプロポーズするが、夫妻の猛烈な反対にあって二度とも失敗に帰している。ところが会場に展示された新聞記事を読むと、当の俊子はその後中村屋で亡命生活を送っていたボースと結婚してインドへ渡るが、不慣れな海外生活が祟って若くして亡くなってしまったのだという。同胞の絵描きより異国の亡命活動家を選んだ相馬夫妻の真意は知るよしもないが、この物語をとおして中村彝の絵を見てみると、俊子への募る想いが透けて見えるようで、なんとも痛々しい。彝は「欲望に囚われず、感傷に堕せず、神経に乱されず、人生を貫く宿命の中に神の真意を洞察すること」(「洞察」)を芸術的な信条としていたようだが、それは裏返して言えば、彝自身がことほどかように「欲望に囚われ、感傷に堕し、神経に乱され」ていたということなのだろう。そこに「芸術家」というより、ひとりの人間の生々しいリアリティがある。時を越えて、それが私たちのもとにたしかに届くからこそ、芸術はおもしろいのだ。

2011/03/20(日)(福住廉)

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プレビュー:VISUAL SENSATION vol.4

会期:2011/04/03~2011/04/23

Gallery Den mym[京都府]

1995年から2009年まで大阪市内で活動し、2010年に京都府南山城村へ移転したGallery Den(移転後にGallery Den mymと改称)。その後、住居でもある古民家をコツコツ改修していたが、ついに本格始動に至り開催されるのがこの「VISUAL SENSATION」だ。vol.4とあるとおり、大阪時代に3度開催された企画展で、今回も画廊オーナーの目に適った若手作家6名が紹介される。都会のビルの片隅とは違う、大自然の真っただなかで、若き6つの個性がどのような煌めきを見せるのかに注目したい。

2011/03/20(日)(小吹隆文)

プレビュー:新野洋 展「いきとし“いきもの”」

会期:2011/04/09~2011/05/07

YOD Gallery[大阪府]

新野は、自然界には存在しない空想の“いきもの”を樹脂で制作している。複数の節足動物の部位や植物の部分などを組み合わせた造形は、自然界に存在する美しいものを「ただただ自らの手で表現したい」というシンプルな衝動に基づくものだ。今回は、日本の生物を題材に制作した作品群をインスタレーションのスタイルで展示する。

2011/03/20(日)(小吹隆文)

A CONVERSATION WITH MATHIEU MERCIER TAKAAKI IZUMI YUKI KIMURA SOSHI MATSUNOBE KAZU OSHIRO KOKI TANAKA ABOUT ABSTRACT OBJECTS

会期:2011/03/19~2011/04/24

MUZZ[京都府]

マチュー・メルシエと泉孝昭、木村友紀、松延総司、大城カズ、田中功起の作品が並ぶ会場。作家達の作品には、ミニマル、ポップ、コンセプチュアルという要素が共通するだろうか。それぞれの作品についてもだが、「オブジェはどの時点から抽象的な概念となるのでしょうか? オブジェはそれ自身のコンセプトの裏にとけ込むことはできるのでしょうか?」という開催概要にあった問いを考えるのが面白くなってくる。うろうろと会場を徘徊してゆっくり楽しみたい展覧会。

2011/03/19(土)(酒井千穂)