artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
中山明日香「empirical garden」

会期:2011/03/01~2011/03/29
INAXギャラリー[東京都]
京都市立芸術大学の大学院に在籍中の中山明日香の個展。会場の壁面いっぱいに4枚の大きな油彩作品が展示されていた。鮮やかなピンクやブルーなどの色彩と、日常的風景のなかに描かれた肉の塊やブラジャーなどのモチーフのインパクトが強烈。一見、描かれた風景や室内の様子が幻想的で美しいのだが、その奇妙な光景は、暴力的なイメージも連想させて一抹の不安を煽るような不穏な気配。ただ、じわじわと喜怒哀楽のさまざまな記憶やイメージをひとつの世界にあぶり出していく物語の余韻を残して、他の作品にも興味がそそられる個展だった。今後も楽しみだ。
2011/03/30(水)(酒井千穂)
現代美術の展望「VOCA展2011──新しい平面の作家たち」

会期:2011/03/014~2011/03/030
上野の森美術館[東京都]
上野の森美術館は震災後、上野公園内の文化施設のなかでも一番早く再開したと聞いていたのだが訪れることができたのは結局最終日だった。入選者36名の作品が展示された今年は、関西でも活動を展開している馴染みある作家たちも多く、楽しみにしていた。VOCA賞受賞の中山玲佳の《或る惑星》は、画面に塗り重ねられた「闇」の色が想像以上に深く感じられた。空間的な奥行きもさることながら、一瞬の儚い幻影を薄い膜で被って留めようとしているかのような刹那的な印象があり、いっそう物語性を濃厚にする絵の具の透明感が美しかった。全長2メートルを超える大きな作品がほとんどだった会場では、石塚源太の漆作品や青山悟の小さな刺繍の表現は特に目を惹いた。しかし他の作品がピンとこなかったというわけではなく、全体にバラエティに富んだ内容だと感じたし、作家の意気込みやパワフルな制作態度が感じられるものがいくつもあった。なかでも、記憶のイメージや視覚の認識を揺さぶる水田寛の《マンション15》、鮮やかな色面で構成された冬耳の《永遠なんて言わないで。》は、これまで私が見たものとは異なる表現への挑戦がうかがえて新鮮だった。作品から新しい地平に立つ作家自身を想像するのは楽しい。震災後、胸がつかえるような重苦しい気持ちを引き摺っていたが、こちらも勇気づけられる気分になり、駆け込みでもやはり見に行ってよかったと思った。
2011/03/30(水)(酒井千穂)
第14回岡本太郎現代芸術賞展

会期:2011/02/05~2011/04/03
川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]
毎春恒例の岡本太郎現代芸術賞展。生誕100年にあたる今回は、818点の応募作のなかから入選した27組のアーティストによる作品が展示された。昨年よりは全体的に作品の出来がよいように見えたが、それにしても毎回思うのは、予定調和的な会場構成だ。広い会場に作品が満遍なく設置されているため、たしかに鑑賞する側にとっては非常に都合がよい。しかし、その空間を埋めるために作品が選出されている印象が否めないのも事実だ。美術館が企画したグループ展ならまだしも、新人を発掘する公募展の場合、こうした会場ありきの選出は本末転倒というほかない。何より、このような予定調和こそ、岡本太郎が徹底して侮蔑していたことを思えば、いっそ会場に奇妙な隙間が生まれたとしても、受賞に値する少数精鋭の作品だけで展示を構成することも考えるべきではないか。「展覧会」という制度をいつまでも自明視していては、岡本太郎に追従することはできても、批判的に乗り越えることなど到底かなわないだろう。
2011/03/30(水)(福住廉)
伊藤文化財団設立30年記念 寄贈作品の精華

会期:2011/03/26~2011/07/03
兵庫県立美術館[兵庫県]
1981年の設立以来、兵庫県立美術館に対し、作品や図書の寄贈、展覧会、コンサートへの援助を続けてきた伊藤文化財団。その設立30年を記念して、代表的な寄贈作品からなる展示が行なわれた。絵画、素描、立体など約160点が展示されたが(会期中に展示替えあり)、大作ばかりでなく、安井曾太郎と小出楢重の素描集など小品にも見るべきものが多かった。企業や富豪が財団を設立して地元文化を支えるのは、米国ではごく一般的だが、残念ながら日本では根付いていない。この国内では稀有な関係を顕彰する意味で、たとえ常設展示の一部とはいえ、本展には大きな意味があったと思う。
2011/03/29(火)(小吹隆文)
プリズム・ラグ──手塚愛子の糸、モネとシニャックの色

会期:2011/03/17~2011/06/12
アサヒビール大山崎山荘美術館[京都府]
そっか、織物って色糸を何本も織り交ぜてひとつの図を描いていく点で、絵具を混ぜ合わせないで線状に塗っていく印象派の描法と近いんだなあ。ていうか、織物のほうがずっと古いわけだから、印象派が織物に近いというべきかもしれないけど。その両者の近似性を刺繍という手法を使って解き明かしたのが手塚愛子だ。手塚は織物から色糸を丹念にほどき、赤糸や青糸だけをダラリと垂らす。これは、複雑な図柄の織物も単色の糸を縦横に織り込んだものにすぎない、という事実を明かすと同時に、絵画とりわけ点描法を含む印象派の画面がなぜ明るく輝いて見えるのかというナゾにも迫っている。モネをはじめとする印象派の画家たちは絵具を混色すれば彩度が落ちることを知っていたので、たとえば紫がほしいときには青と赤を混ぜないで相互に並べることで、遠くから紫色に見えるようにした。これをさらに徹底して原色を点状に配したのがスーラやシニャックらの点描派であり、もっといっちゃえば、点描派は色彩を画素にまで還元したデジタル画像の先駆者だったともいえなくはない。つまるところ手塚のやってることは単に糸を解きほぐすことではなく、いかに画像というものが成り立っているかを解きほぐすことではないかしら。モネとシニャックのある美術館ならではの好企画。
2011/03/28(月)(村田真)


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