artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

ソーシャルダイブ 探検する想像

会期:2011/03/18~2011/04/11

3331 Arts Chiyoda[東京都]

あえて言うが、昨今の若いアーティストにとって、自らの作品に社会性を帯びさせることが、ある種の強迫観念となっているのではないだろうか。それが、不幸にも、結果として作品の魅力を著しく損なっているように思われる。本展で発表された作品の多くも、そうした論理に巻き込まれているように見えてならなかった。プロジェクトの成果を披露するのはよい。しかし、その行為なり運動なりを展覧会という場で発表する以上、必要なのは、その装置をインスタレーションとして見せることや、その過程を要約した映像をダラダラと見せることなどではなく、それらを凝縮した「作品」を見る者に突きつけることである。なぜなら、彼らが勝負しなければならないのは、そのプロジェクトの体験を共有していない、見ず知らずの鑑賞者だからだ。この当たり前の事実をないがしろにしてしまうところに、「社会性」という免罪符を手に入れさえすればよいと考えるアーティストの大きな甘えがある。「プロジェクト」と「作品」をそれぞれ自立的に分けて考えてこそ、ほんとうの意味で「社会的」になりうるはずだ。

2011/03/27(日)(福住廉)

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中島麦 展「僕は毎晩、2時間旅をする」(同時開催:中島麦(美術家)×武内健二郎(詩人)「きれはし on board」)

会期:2011/03/20~2011/04/03

GALLERY 301[兵庫県]

同じ階の空間で同時開催されていた詩人の武内健二郎氏との二人展は、ちょうどワークショップが行なわれていたようで見ることができなかったのだが、個展はゆっくりと堪能できた。筆を運ぶスピードと絵の具の盛り上がりの筆触が生き生きと感じられる絵画は、のどかな風景を想起させるものが多いのだが、その色彩の物質的な強度が空間的な広がりも感じさせる。小さな作品が多いが魅力的な個展だった。

2011/03/27(日)(酒井千穂)

始発列車「モトコーART train」

会期:2011/03/12~2011/03/27

神戸 元町高架通商店街(モトコータウン)[兵庫県]

JR元町駅西口から、神戸駅までつづく元町高架通商店街。現在ではシャッターがおりたままの商店が多く目につくこの通りの空き店舗を会場にして、松井コーヘー、国谷隆志、國府理、岡本和喜、内藤絹子、涌嶋克己、森田麻祐子、早川季良の8名のアーティストが作品展示を行なっていた。神戸には行くが「モトコータウン」と呼ばれるこの商店街を訪れたのはほとんど初めてとも言える機会だった。高架下の狭い商店街の、雑多で少し怪し気な馴染みの無い雰囲気がまずなによりも新鮮だったのだが、そのところどころにあった各作家の作品展示スペースでは、作家本人が鑑賞者を迎え、和やかに会話する光景も見られた。もはや廃墟となってしまった空間はその歴史もうかがわせ、この場所が賑わっていた頃にも思いが延びていくよう。今後も第2回、第3回とシリーズで続く予定の企画のようだ。また訪れる機会も楽しみだがその成果にも期待したい。

2011/03/27(日)(酒井千穂)

wah document÷てんとうむしプロジェクト「tightrope walking?てんとうむしのつなわたり」

会期:2011/03/08~2011/03/27

京都芸術センター[京都府]

小学校の建物を改装した芸術センターの廊下に黒い帯状のロープが張られている。たどっていくとギャラリーに行きつき、綱渡りのドキュメント映像が流れている。中庭には2階の窓から向かいの2階の窓にもロープが張られ、そこでも綱渡りが行なわれたらしい。これも震災直後のため実現か中止かで激論が交わされ、いったんは中止の決定が下されたというが、それをくつがえしたのは16年前の阪神大震災のときに痛感した「芸術の無力さ」だったという。中止するのは簡単だが、それでは芸術の無力さを認めてしまうことになるという判断だ。でも綱渡りは「芸術」か? もし事故が起きたら? 実現か中止かの判断もまさに「つなわたり」だったようだ。

2011/03/27(日)(村田真)

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風穴 もうひとつのコンセプチュアリズム、アジアから

会期:2011/03/08~2011/06/05

国立国際美術館[大阪府]

かーちゃんが子どもを連れて京都にトンヅラこいて1週間、とーちゃんが愛想を尽かされたこともあるが、なにより地震と放射能を避けての疎開だ。迎えにいくついでに、まずは大阪に寄って国立国際へ。サブタイトルのようにアジアのコンセプチュアル系の作品を集めたもの。だいたいコンセプチュアルというとモダニズムの芯だけ残ったダシガラというか、ストイックで退屈なイメージが強いが、幸か不幸かモダニズムが十分に浸透しなかったアジアではお笑いに走るゆるいコンセプチュアルアートが散見される。なかでもいちばん笑えたのが島袋道浩の《箱》。展示室の片隅に段ボール箱が置いてあり、なかから話し声が聞こえてくる。耳を澄ますと、「おれ、箱やねんけど、けっこうおもろいで」みたいな関西弁のつぶやきが。どこがコンセプチュアルやねん、とも思うけど、これこそコンセプチュアルかもと思い直す。なにしろ箱と声だけだから、ジャッドもコスースも真っ青。ちなみに島袋は生きたカメも出品していたが、こちらはひょっとして生きた馬を展示したことのあるヤニス・クネリスのパロディか。西洋の馬に対し、アジアを代表する動物がカメだとすればいかにもどんくさそうな気がするが、ウサギとカメじゃないけど最後はカメが勝つという教訓かも。もうひとつ笑えたのは、タイの農民たちにマネやゴッホらの絵(複製)を見せ、その反応を収録したアラヤー・ラートチャムルーンスックによる映像。アジアの農村風景のなかに置かれた西洋絵画という組み合わせ、正面を向く絵画と背中を向ける(絵を見てる)村民たちの対比、漫才のような彼らのパタフィジックなやりとりなど、笑えるだけでなく文化人類学的にも興味深い。その後、隣接する大阪市立近代美術館の建設予定地で、「おおさかカンヴァスプロジェクト」の一環として計画されていた西野達の作品を見に行ったら中止だと。自動車やら家電やらカップラーメンやらを大型クレーンで吊るす計画だったが、震災後なので危険がアブナイと判断したらしい。残念。

2011/03/27(日)(村田真)

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