artscapeレビュー
湯沢英治『BAROCCO 骨の造形美』
2011年05月15日号
発行所:新潮社
発行日:2011年2月25日
『BONES 動物の骨格と機能美』(早川書房、2008)に続く湯沢英治の2冊目の写真集である。前作と同様に黒バックで動物、鳥類、魚類などの骨を克明に撮影しているのだが、印象はだいぶ違う。骨のシンメトリックな構造や「機能美」を中心に撮影していた前作と比較すると、この写真集では「われわれ人間には思いもよらない、歪んだ曲線の組み合わせ」が強調されている。そこにはたしかに「不規則・風変わり・不均等」を特徴とするバロック的な美意識に通じるものがありそうだ。実際に、おそらく非常に小さなものと想像される骨の断片が、われわれの常識をくつがえす液体的とでもいえそうな流動的、有機的なフォルムを備えている様が、湯沢の丁寧な撮影によって浮かび上がってきていた。
骨というテーマに新たな一石を投じるいい仕事だが、これをもう一歩先に進めたらどうなるのかとも思う。写真集全体の造りは、あくまでも学術的な研究をベースにしており、生物学的な「正しい骨の配置」の規範を踏み越えることはない。さらに「BAROCCO」的な要素を強めて、複数の骨を組み合わせてオブジェ化し、ありえない生物の骨格をつくり出すようなところまでいけないのかとつい夢想してしまうのだ。以前、湯沢に話を聞いたところ、彼のなかにもアートと生物学との境界線を引き直すことへの葛藤があるようだ。僕はもっと思い切って、アート寄りの作品に向かってもいいのではないかと思うのだが。
2011/04/02(土)(飯沢耕太郎)