artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
ソーシャルダイブ──探検する想像

会期:2011/03/18~2011/04/11
3331アーツ千代田[東京都]
ジャガイモとともにアフリカ大陸を横断したり(小鷹拓郎)、ルーマニアまで行って社会主義者を胴上げしたり(丹羽良徳)、愛の国への出入国管理を行なう「愛の大使館」を設けたり(マルクス清水)……。社会と密接に関わる若いアーティストたちの表現活動を紹介している。いや、彼らの多くは作品をつくる「アーティスト」というより、さまざまなコミュニティのなかに飛び込んで関係性を構築したり更新したりする「アクティヴィスト」と呼ぶべきかもしれない。だからこうした展覧会では彼らの活動をその場で体現することはかなわず、写真や映像、記録資料などでその一端を知るしかないのだが、実際これらのドキュメントを見て活動に興味をもつことがあっても、作品として楽しめるものは少ない。その意味では、実物は展示できないので設計図やマケットから全体を読みとるしかない建築展に近いといえる。例外は、交番の前などに貼られている指名手配者の顔写真を描き移した竹内公太の肖像画。これは絵画として(も)楽しむことができる唯一の作品だった。
2011/03/25(金)(村田真)
日野之彦──そこにあるもの

会期:2011/03/14~2011/03/30
上野の森美術館[東京都]
日野のトレードマークともいうべき目をむく人物は影をひそめ、かわりに皮を剥いだ動物の頭や内臓や肉塊やカツラや宝石や花を、またはカツラをかぶせた肉塊といった組み合わせを、達者な技法で描いている。一見モチーフは拡散しているように見えるが、アルチンボルドのだまし絵のような重層化したイメージへと進化しつつあるようにも感じられる。これからどのように変化するのか、楽しみになってきた。
2011/03/25(金)(村田真)
VOCA展2011

会期:2011/03/14~2011/03/30
上野の森美術館[東京都]
震災後、初めて展覧会に足を運ぶ。2週間も展覧会を見なかったのは、この連載が始まって以来(もう15年になるが)初めてじゃないかしら。自慢じゃない、自嘲だ。あまり見たいとも思わなかったし、見たくても開いてないところが多かったし。「VOCA」展も初日こそ開いたものの翌日から数日間お休みしたそうだ。今日、平日の午前中だというのにそこそこ人が入っているのは、みんな気持ちに余裕が出てきたせいかもしれない。さて、今年は昨年に続き、VOCA賞の中山玲佳をはじめ6人の受賞者はすべて女性。それはいいのだが、気になるのは、受賞作品の大半が人物や動物を中心にさまざまなイメージをコラージュした物語性の強い具象画で占められていること。こうした傾向は今年に限ったことではないし、また、それらのなかにもさまざまな傾向が見られるのも事実だが、もっともっと多様な作品が出てきてほしいと思う。一時に比べ写真が激減したのも気になるところ。そんななか、とくに目を引いたのが小池真奈美と青山悟のふたりだ。小池の作品は、落語のストーリーをみずから江戸町人に扮して描いたもので、物語性の強い具象画という点ではまさに「VOCA調」といえるが、アナクロな題材(推薦人の山下裕二氏いわく、21世紀に復活した「近世初期風俗画」)と卓越した技法で際立つ。一方、青山の作品は、まず第1に21×29センチの画面が2点というサイズの小ささにおいて逆に目立ち、第2に絵画ではなく刺繍という手法において異彩を放ち、そして第3に絵画の審査を揶揄するような内容において「VOCA」そのものに揺さぶりをかけていた。今回最大の震源地といえよう。全体としてもうひとつ気になったのは、大作の場合2~4枚のキャンヴァスないしパネルをつないで1点の作品とする例が多いこと。これは制作スペースの制約によるものだろうが、つなぎ目の線がとても気になる。その点、4つのイメージを4枚のキャンヴァスに描いて1点の作品とした中山玲佳の分割法は納得できるが、最善の方法は青山のように小さな作品を出す勇気を持つことだ。
2011/03/25(金)(村田真)
永瀬沙世「WATER TOWER」

会期:2011/03/25~2011/04/14
Nidi gallery[東京都]
永瀬沙世はファッションや音楽関係の雑誌で主に仕事をしている写真家だが、このところギャラリーでも意欲的に作品を発表するようになってきた。青山から渋谷に移転してきたNidi galleryで開催された今回の個展でも、面白い切り口の作品を見ることができた。
「WATER TOWER」といえば、すぐに思い出すのはドイツのベルント&ヒラ・ベッヒャーの同名の作品である。いわゆる「ベッヒャー派」の典型というべきこのシリーズでは、ドイツ各地で撮影された給水塔が整然と、あたかも標本のように並んでいる。カメラアングル、撮影条件を同じにすることで、それらのフォルムの微妙な「差異と反覆」が浮かび上がってくるのだ。このベッヒャー夫妻の作品を知っているかどうかで、永瀬の「WATER TOWER」の見え方も違ってくるのではないだろうか。こちらは大判カメラによってきっちりと撮影されたベッヒャー夫妻の「WATER TOWER」とはまったく正反対で、ブレや揺らぎを含んだカラーのスナップショットである。中央がくびれている、ちょっとユーモラスな形の給水塔は、なんだかお伽の国の建築物のようだ。そのメルヘンティックな佇まいの風景に、さりげなく女の子の後ろ姿や足の一部を配するセンスが心憎い。永瀬流のランドスケープとして、きちんと成立しているのではないかと思う。
なお、スウェーデンの出版社LIBRARYMANから刊行されたばかりの写真集『Asphalt & Chalk』も、会場で特別販売していた。こちらは、チョークで道や壁に落書きしている女の子の童話風のスナップ。作品の幅が、いい感じに広がりつつあるのがわかる。
2011/03/25(金)(飯沢耕太郎)
モトコー ART train

会期:2011/03/12~2011/03/27
元町高架通商店街[兵庫県]
JR元町駅から神戸駅にかけての高架下にある元町高架通商店街(通称モトコー)の空き店舗を舞台に、グループ展が開催された。出品作家は、水垣尚+岡本和喜、國府理、森田麻祐子、国谷隆志、WAKKUN、松井コーヘー、内藤絹子、早川季良の8組。この場所は今年秋に行なわれる「神戸ビエンナーレ2011」の会場にも選定されており、本展にはその予行演習的な意味合いもあるのだろうか。展示スタイルやジャンルはさまざまだったが、高架下ならではの暗がりを生かした国谷隆志、力士の顔を描いたタブローに胴体部分を壁画でジョイントさせた松井コーヘーなど、場の特性に応じた展示には好感が持てた。昨今は空き店舗が目立つモトコーだけに、いっそこのまま美術展会場ないしはアトリエとして大々的に売り込んでみるのも悪くないのでは。
2011/03/24(木)(小吹隆文)


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