artscapeレビュー
プリズム・ラグ──手塚愛子の糸、モネとシニャックの色
2011年04月15日号
会期:2011/03/17~2011/06/12
アサヒビール大山崎山荘美術館[京都府]
そっか、織物って色糸を何本も織り交ぜてひとつの図を描いていく点で、絵具を混ぜ合わせないで線状に塗っていく印象派の描法と近いんだなあ。ていうか、織物のほうがずっと古いわけだから、印象派が織物に近いというべきかもしれないけど。その両者の近似性を刺繍という手法を使って解き明かしたのが手塚愛子だ。手塚は織物から色糸を丹念にほどき、赤糸や青糸だけをダラリと垂らす。これは、複雑な図柄の織物も単色の糸を縦横に織り込んだものにすぎない、という事実を明かすと同時に、絵画とりわけ点描法を含む印象派の画面がなぜ明るく輝いて見えるのかというナゾにも迫っている。モネをはじめとする印象派の画家たちは絵具を混色すれば彩度が落ちることを知っていたので、たとえば紫がほしいときには青と赤を混ぜないで相互に並べることで、遠くから紫色に見えるようにした。これをさらに徹底して原色を点状に配したのがスーラやシニャックらの点描派であり、もっといっちゃえば、点描派は色彩を画素にまで還元したデジタル画像の先駆者だったともいえなくはない。つまるところ手塚のやってることは単に糸を解きほぐすことではなく、いかに画像というものが成り立っているかを解きほぐすことではないかしら。モネとシニャックのある美術館ならではの好企画。
2011/03/28(月)(村田真)