artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

TOKYO FRONTLINE

会期:2011/02/17~2011/02/20

3331 Arts Chiyoda[東京都]

リノベーションした小学校を舞台とする、新しいタイプのアートフェアである。
このときだけの展示のみではなく、常時の展示も混ざり、その相乗効果が心地よい。ゆえに、同じ作家があちこちで展示される現象も起きる。今回、二階の屋内体育館に初めて入ったが、ここにも展示ブースが並び、おもしろい空間を体験できる。
ちょうど、せんだいスクール・オブ・デザインのレクチャーにおいて中村政人さんも説明したように、分断されていた隣の公園と小学校をつなぎ、ワイドなアクセスに変えた空間の操作は、思い切り開放的な雰囲気を獲得するのに、うまく機能している。展示作品としては、世界地図、あるいは地球儀レースと、g3/galleryの梶岡俊幸の墨と鉛筆による、黒い絵が印象に残った。

2011/02/18(金)(五十嵐太郎)

荒木経惟「愛の劇場」

会期:2011/02/18~2011/03/26

Taka Ishii Gallery Photography/Film[東京都]

六本木の青山ブックセンター裏手のピラミデビルに、4つの現代美術・写真ギャラリーが同時にオープンした。オオタファインアーツは勝ちどきから、ワコウ・ワークス・オブ・アートは西新宿から、Zen Foto Galleryは渋谷からそれぞれ移転し、Taka Ishii Galleryは清澄白河の本体に加えて写真・映像部門を新たに開設することになった。森美術館にも近く、絶好の立地条件なので、かなりの観客動員が期待できそうだ。
他の3つのギャラリーは、所属作家の作品を並べただけの顔見せ展でスタートしたのだが、Taka Ishii Gallery Photography/Filmは荒木経惟の個展を開催した。最近見つかったという、キャビネ判の印画紙の箱におさめられた1965年頃の写真シリーズである。65年といえば、荒木がまだ電通の広告カメラマンだった時期で、にもかかわらず会社のスタジオや機材を勝手に使って自分の作品を撮りためようとしていた。内容的にはかなり雑多なシリーズだが、ラブホテルでの二人の女の絡み、ハーフサイズのカメラを使ってひとつの画面に複数の連続場面をおさめる試み、フィルムの高温現像による画像の改変など、のちの『ゼロックス写真帖』(1970年)に通じるさまざまな実験に真面目に取り組んでいるのがわかる。若き日の陽子夫人のういういしいポートレートが含まれているのも興味深い。まさに「その頃の私の女と時代と場所が写っている」意欲作だ。荒木のこのような未発表作品は、これから先ももっとたくさん出てきそうな気がする。

2011/02/18(金)(飯沢耕太郎)

林勇気 展 あること being/something

会期:2011/02/18~2011/03/19

兵庫県立美術館[兵庫県]

兵庫県立美術館が、注目作家の紹介を目的に新たに始めた企画展「チャンネル」。その第1弾として、林勇気の個展が行なわれている。出品作品は、新作《あること》と、旧作5点。見どころはやはり新作で、天地6メートル以上、左右10メートル以上の大スクリーンに投影される映像大作となった。本作の特徴は、作中に登場する人物や素材の一般公募が行なわれたこと。延べ121人から集められたスチール画像は林の手で編集され、巨大スクリーン上で浮遊しながらゆっくりと上昇して行く。画面を見つめていると、まるで自分が世界そのものと対峙しているような気持ちになった。本作は、デジタル技術の進化により従来とは異なる質と形態でコミュニティーが構築されるようになった今日の世界観をビジュアライズしたものかもしれない。豊かな才能を持つ作家に活躍の場を与えるという美術館の狙いは、1回目から見事に的中した。

2011/02/18(金)(小吹隆文)

TOKYO FRONTLINE

会期:2011/02/17~2011/02/20

3331 Arts Chiyoda[東京都]

「ニュー・コンセプトのアートフェア」ということで、今年からスタートしたのが「TOKYO FRONTLINE」。元中学校の校舎をフルに使って、盛り沢山の展示が行なわれていた。若手アーティストたち(うつゆみこ、高木こずえを含む)の作品ショーケースとして設定された「FRONTLINE」(1F)、アート、写真、デザイン、音楽、出版などのプレゼンテーションブースが並ぶ「EXCHANGE」(同)、東京を中心に中国、韓国のギャラリーのブースも加えた「GYM」(2F)がメインの展示である。EMON PHOTO GALLERY(西野壮平)、ときの忘れもの(五味彬)、ユミコ・チバ・アソシエイツ(鷹野隆大)、ZEN FOTO GALLERY(中藤毅彦)、The Third Gallery Aya(垣本泰美、城林希里香)など、写真を中心に展示しているギャラリーも多かった。総花的で焦点が結びにくいのは、このようなアートフェアでは仕方のないことだろう。回を重ねれば、地に足がついたものになってくるのではないだろうか。
同時期に3331 Arts Chiyoda本体の企画で、「ギャラリーに属していないフリーの現代美術アーティスト」を中心とした展覧会も開催されていた。その枠で個展を開催していた西尾美也の「間を縫う」(2月11日~3月14日)がかなり面白かった。西尾は1982年奈良県生まれ。今年東京藝術大学大学院博士課程を修了予定である。衣服とコミュニケーションが彼の主なテーマで、「セルフ・セレクト」シリーズはナイロビやパリで出会った若者たちと自分が着ている服を交換するというプロジェクト。「家族の制服」は、西尾本人の家族が20年前の記念写真とそっくりの服を着て、同じ場所で同じポーズを決めるという作品である。どちらも記念写真の様式をうまく使いこなして、知的な笑いを生み出していた。

2011/02/16(水)(飯沢耕太郎)

川俣正:フィールド・スケッチ

会期:2011/02/04~2011/03/21

NADiff a/p/a/r/t[東京都]

川俣がデビューする70年代に身辺を撮ったスナップ写真。写っているのは建物の内外、郊外の風景、通路などで、人はまったくといっていいほど出てこない。1枚1枚はなんてことのないモチーフばかりだし、色もすでに褪せているが、そんな写真でも数百枚集まればなにか宝の山のように見えてくるし、現在の川俣の活動の原点をここに見出すことも難しくない。ちょうどゲルハルト・リヒターの「アトラス」みたいなもんか。目を引くのは部屋の片隅を撮った一群の写真で、白い天井と壁の境目がY字型にパースがついて妙に艶っぽい。それにしても感心するのは、こういう他人にはクズ同然のスナップ写真を何百枚も後生大事にとっておくこと。それが30数年後にはこうして日の目を見るのだから、やっぱり川俣は確信犯だ。

2011/02/15(火)(村田真)