artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
京都市立芸術大学大学院美術研究科博士課程展 第二期 五十嵐英之/馬場晋作/柳澤顕
会期:2011/01/15~2011/01/30
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]
京都市立芸術大学大学院博士課程展の二期展。油画領域の馬場晋作、柳澤顕、昨年Mori Yu Galleryで個展を開催していたのも記憶に新しい版画領域の五十嵐英之の三名。特に興味深かったのが馬場の作品。板状のステンレスに油彩やインクでレースや木などを描いていた。レースというモチーフ自体が半透明なのだが、ステンレスとレースのあいだ(?)に半透明の模様が施されているものもある。重なる模様の層を見るために作品正面に立つと、鏡面であるステンレスに自分の姿が映り込み、一瞬視界が交錯して 私はなにを見たいのか、意識が散漫になる感覚に陥る。また、ある作品では反対側の壁面に展示された作品も写り込むため、まさにミラーハウスの中のようにいっそう意識が攪乱される気分。角度を変えたり離れたりしてそこに描かれたものを見つめるが、微妙に角度がズレるとまた私の視線は鏡面に映る私の視線や空間の像にぶつかってしまう。虚実両方の世界を彷徨うような作品だが自己と他者との境界や距離について思いを巡らせる。柳澤はコンピュータで描いた線や幾何学的な形態、ドットなどを布にプリントしたりアクリル板に着彩したカッティングシートで構成した作品をスペースの壁面全体にダイナミックに展開。五十嵐は、2階のスペースで油彩画を発表していた。五十嵐は作家としての活動歴も長くその手法も多彩な人だが、他の二人の表現の模索や試みはまた新鮮で興味深い。今後の活躍にも期待している。
2011/01/29(土)(酒井千穂)
鬼塚勝也 ART展:RED CORNER「グローブを筆に変えて」
会期:2011/01/22~2011/02/12
FARM the salon for art,Tokyo[東京都]
六本木の芋洗坂を歩いてると、なにか展覧会をやってるのでのぞいてみる。縦長のキャンバスにボクシングのグローブと目がシルクスクリーンで刷られ、さまざまな色が塗られている。要するにウォーホルの絵画技法と同じ。色彩感覚は悪くないが、どこか素人っぽさを残している。作者はだれだろう、鬼塚勝也? 聞いたことあるなあ、まさかあの、元ボクサーの? 帰ってネットで調べてみたら、まさかの鬼塚でした。これは驚き。すべて自分でつくっているのかどうかわからないけど、かつてセコンドを務めた片岡鶴太郎の絵よりはるかにイイ。
2011/01/27(木)(村田真)
アイ・ウェイウェイ「キューブ・ライト」
会期:2010/11/19~2011/02/19
ミサシンギャラリー[東京都]
東京R不動産で見つけたという町工場跡の空間いっぱいに、一辺4メートルほどのパイプ仕立ての立方体が鎮座。その内部と表面に一辺2センチほどの琥珀色の正8面体を数万個、数珠つなぎにぶら下げている。内部から照明を当てると、巨大なシャンデリアだ。これは夜見たほうが美しいかも。ところでこの作品、この空間に合わせてつくったのかと思ったら、そうではなく、2008年の作品だそうだ。サイズ的にもぴったりだし、オープニングを飾るにもふさわしいし。
2011/01/27(木)(村田真)
SHIBU Culture──デパートdeサブカル
会期:2011/01/25~2011/02/06
西武渋谷店 美術画廊[東京都]
80年代には池袋店に次いでよく通ったものだが、21世紀になって入るのは初めてかもしれないと思いつつ、すっかりブランドショップ街と化した西武渋谷店B館の1階を抜けてエレベータで8階へ。ロリコン系の絵画、イラスト、写真、人形などを集めたサブカルならぬ「シブカル」展が開かれている。中身は、昨夏、森下泰輔の企画で川崎市市民ミュージアムでやった「ガーリー2010」と重なる(出品作家は松山賢らを除きほとんど重なってない)が、デパートでもいよいよこういう作品をあつかう時代になったか、さすが腐っても西武、と少し見直したのも束の間、やっぱりオチましたね。会期途中に中止の知らせ。「展示内容が百貨店にふさわしくない」との苦情が寄せられたそうだ。それじゃなにかい?「おたくは百貨店にふさわしくない」とクレームをつければ店をたたむつもりかい。そんな理不尽な苦情に応じてなにが「サブカル」だ。やっぱり西武はオチるとこまでオチたなあ。いやそんなことより気をつけなければならないのは、こうした苦情が昨年暮れに可決した東京都のいわゆる「性描写規制」条例改正案と連動しているのではないかということ。そもそも苦情を寄せたのは、西武によれば複数の個人だというが、出品作家のひとりによれば「ある公的団体」とのことで食い違っている。いずれにせよ確かなことは、とてもイヤーな流れになりつつあるということだ。
2011/01/25(火)(村田真)
秦雅則/エグチマサル「写真/物質としての可能性」
会期:2011/01/25~2011/01/30
企画ギャラリー・明るい部屋[東京都]
2009年4月にスタートした企画ギャラリー・明るい部屋の活動期間は、あらかじめ2年間ということになっているので、だいぶ終わりが近づいてきた。今回は中心メンバーのひとりの秦雅則と、何度か明るい部屋で個展や二人展を開催しているエグチマサルによる意欲的な展示である。
秦とエグチは2010年8月8日から2011年1月24日まで、写真作品のデータをインターネットでやり取りしながら、加工・改変していく作業を続けた。秦がつくった作品にエグチが変更を加え、それをまた秦に送り返す。画像の一部をかなりはっきりと活かしている作品もあれば、まったく別の画像につくり変えてしまう場合もある。そのやり取りのプロセスが、そのまま228枚の作品(壁に214枚、テーブル上に最終日に制作された作品が14枚)としてギャラリーに展示されていた。作品の一枚一枚の変幻の様子も興味深いが、それよりもプロセス全体が一挙に見えてくることに注目すべきだろう。デジタル化以降の、不安定で流動的な写真画像の「物質としての可能性」を、しっかりと確認していこうというユニークなアイディアの企画といえる。
なお、現代美術系のウェブサイトFFLLAATT(http://ffllaatt.com)では、同時期に秦雅則とエグチマサルによる「写真/仮想のイメージとしての可能性」展(2011年1月1日~2月28日)が開催されている。彼らの作品から42枚をシャッフルして取り出し、無記名でウェブ上にアップするという試みである。画像は自由にダウンロードすることができる。このような「写真の物質的価値をまったく無視する」展示をぬけぬけと並行してやってしまうあたりが、なかなか頼もしい。今のところはまだ試行錯誤の段階だが、こういう実験から何かが芽生えてきそうな気がする。
2011/01/25(火)(飯沢耕太郎)