artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
セルフポートレート──私という他人

会期:2010/09/04~2010/11/28
高橋コレクション[東京都]
ウフィツィ美術館の「自画像コレクション展」に合わせたのか、こちらもセルフポートレート展だが、たとえば中山ダイスケは金属製の甲冑のような作品だし、大野智史は具象抽象さまざまなイメージを組み合わせた絵画だし、必ずしも自画像とは限らない。でもサブタイトルの「私という他人」には合致しそうだ。ほかに、草間彌生、奈良美智、森村泰昌らの出品。
2010/10/09(土)(村田真)
“これも自分と認めざるをえない”展

会期:2010/07/16~2010/11/03
21_21 DESIGN SIGHT[東京都]
かつてのCMプランナー、いま表現研究者の佐藤雅彦がディレクションを務めた企画展。人間の属性というテーマのもと、最先端の情報工学や脳科学、生体科学などの知見と技術、そして芸術的感性によって制作された、およそ20作品を展示した。デザインエンジニアや研究者、アーティストたちによって制作された作品が立ち並んだ会場は、まさしくテーマパーク。来場者から収集した指紋や身長、体重、名前など、個人を特定するためのデータを利用しながら、ゲーム感覚で「私」の属性を体験させるところが醍醐味だ。長い行列を経て次々と作品をクリアしていくと、属性という共通項によって、「私」が見ず知らずの他者と同じグループに括られ、結果として「私」という境界がそれほど自明ではないことに気づかされる。おそらく佐藤のねらいは「私」に執着してやまない現代人の堅い肩をもみほぐすことにあるのだろうが、それを前世紀のポストモダニズムのように「構造」「相対化」「差異」「差延」「強度」などといった高踏的なジャーゴン(専門用語)によって理解させるのではなく、科学技術を動員したさまざまな装置によって体験させるところに、今世紀ならではの特徴がある。今後は、双方からそれぞれを架橋しようとするアプローチが課題となるはずだ。
2010/10/09(土)(福住廉)
陰影礼賛

会期:2010/09/08~2010/10/18
国立新美術館[東京都]
谷崎潤一郎による随筆の題名を冠したコレクション展。全国に5つある国立美術館が所蔵する3万点の作品の中から170点あまりの絵画、写真、版画、映像などを展示した。それらの作品には、なるほど、地面に落ちる「影」と光が及ばない「陰」がそれぞれ表わされているのがわかる。けれども、結局のところ、それ以上でもそれ以下でもなく、きわめて大味な印象しか残らない。かねてから公立美術館では鑑賞の機会を提供するだけして、肝心の考察については鑑賞者に丸投げするような粗雑な企画展が多く見られるが、研究の成果を反映しない展覧会こそ「仕分け」の対象にしてほしいものだ。
2010/10/09(土)(福住廉)
風間サチコ個展「平成博2010」

会期:2010/10/07~2010/11/27
無人島プロダクション[東京都]
風間サチコの新作展。「ふるさと創生館」や「バブル館」など、架空の博覧会によって平成という時代を回顧する設定で、比較的小さな版画作品9点を発表した。ワールドトレードセンターの屋上で下半身を靴の中に納めながらプレッツェルをほおばるブッシュや、歴代総理大臣の顔をぶら下げた観覧車など、風間ならではのアイロニーが小気味よい。さらに今回の白眉が、風間が個人的にコレクションしてきたという万国博覧会の記念絵葉書。会場内の障子に貼りつけられた無数の絵葉書の一つひとつが、じつにおもしろい。国家の栄華を象徴するパビリオンの数々は、どれも奇妙奇天烈であり、これらの建築が実在していたことに眼を疑うほどだ。けれども、現在の都市建築も、未来の視点から見れば、同じように滑稽なのかもしれない。絵葉書というメディアが伝える戦前戦中の歴史と、版画というメディアが伝える平成の歴史のはざまで、来場者は歴史の幅と厚みを体感することができたわけだ。無名の作り手によってつくられ、無名の大衆によって楽しまれてきた絵葉書という限界芸術を、みずからの美術作品と同列に並べて発表する風間の心意気もあっぱれである。
2010/10/09(土)(福住廉)
山田周平「“アメリカの夜”[Day for Night]」

会期:2010/09/25~2010/10/23
AISHO MIURA ARTS[東京都]
滝口浩史、伊賀美和子に続いて、「写真新世紀」の出身者の展示を見ることができた。山田周平は2003年の同展で優秀賞(飯沢耕太郎選)を受賞している。僕自身もかかわったコンペの入賞者が、順調にそのキャリアを伸ばしているのを見るのはとても嬉しい。力があっても、さまざまな理由で制作活動を中断してしまう人も多いからだ。
今回の「“アメリカの夜”[Day for Night]」に出品されているのは、新作の「Untitled-park」のシリーズで、公園の風景の上半分が漆黒の闇に覆われているように見える作品である。同じ場所で昼と夜に同じ絞り、シャッタースピードで撮影した二枚の写真を合成したもので、シンプルだが、印象的で深みのあるイメージに仕上がっていた。山田はもともと、既存の眺めに何かを付け加えたり削ったりしながら、その意味合いを変換してしまう手法を展開してきた。今回は「記録した場所性の排除に加え、色、時間、までも削除の対象に」するという、徹底したミニマル化を試みた。以前に比べて、その手つきが洗練されてきているとともに、静止画像に加えて動画による作品にも意欲的に取り組んでいる。今後も、写真と映像作品の両方の分野にまたがる活動が期待できそうだ。
なお、タイトルの「“アメリカの夜”[Day for Night]」は、フランソワ・トリュフォー監督の1973年製作の映画から引用されたもの。カメラのレンズにフィルターをかけて、昼間に夜のシーンをつくり出すというトリック撮影のことだが、このシリーズの謎めいた雰囲気をより強調する効果的なタイトルだと思う。ただ、この映画のことをまったく知らない若い世代には、ちょっとわかりにくいかもしれない。
2010/10/08(金)(飯沢耕太郎)


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