artscapeレビュー

“これも自分と認めざるをえない”展

2010年11月01日号

会期:2010/07/16~2010/11/03

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

かつてのCMプランナー、いま表現研究者の佐藤雅彦がディレクションを務めた企画展。人間の属性というテーマのもと、最先端の情報工学や脳科学、生体科学などの知見と技術、そして芸術的感性によって制作された、およそ20作品を展示した。デザインエンジニアや研究者、アーティストたちによって制作された作品が立ち並んだ会場は、まさしくテーマパーク。来場者から収集した指紋や身長、体重、名前など、個人を特定するためのデータを利用しながら、ゲーム感覚で「私」の属性を体験させるところが醍醐味だ。長い行列を経て次々と作品をクリアしていくと、属性という共通項によって、「私」が見ず知らずの他者と同じグループに括られ、結果として「私」という境界がそれほど自明ではないことに気づかされる。おそらく佐藤のねらいは「私」に執着してやまない現代人の堅い肩をもみほぐすことにあるのだろうが、それを前世紀のポストモダニズムのように「構造」「相対化」「差異」「差延」「強度」などといった高踏的なジャーゴン(専門用語)によって理解させるのではなく、科学技術を動員したさまざまな装置によって体験させるところに、今世紀ならではの特徴がある。今後は、双方からそれぞれを架橋しようとするアプローチが課題となるはずだ。

2010/10/09(土)(福住廉)

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