artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

石上純也──建築のあたらしい大きさ

会期:2010/09/18~2010/12/26

豊田市美術館[愛知県]

午後から愛知県芸術文化センターでコンペの審査があるため、早めに家を出て午前中に豊田市美へ行く。石上は今年のヴェネツィア・ビエンナーレ建築展で金獅子賞をとり、資生堂ギャラリーでも個展を開くなど、いまもっとも旬の建築家。最初の部屋の《雲を積層する》は、細い針金を高く組み上げ、あいだに薄い布を幾層にも敷いた建築。これはアリから見た雲のイメージをスケールアップしたもの。ちゃんと自立してるからスゴイ。でも最後の大きな展示室の《雨を建てる》はもっとスゴイ。太さ0.9ミリの柱54本を太さ0.02ミリのワイヤーで支えるという超絶プランだ。が、オープニング当日にあえなく倒壊。ぼくが見に行ったときは修復中だった(その後完成したという)。ヴェネツィアでも同様の作品を組み立て、同じく倒壊したらしい。こんな建築家に設計を頼む人っているんだろうか。そもそも彼を建築家と呼んでいいのか。脱建築家とか。

2010/10/02(土)(村田真)

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ニューアート展2010「描く─手と眼の快」

会期:2010/09/30~2010/10/19

横浜市民ギャラリー[神奈川県]

2006年から横浜市民ギャラリーが毎年企画している「ニューアート展」。今年は、1984年生まれの赤羽史亮と1921年生まれの石山朔の作品をそれぞれ展示した。一見して分かるのは、双方の作品が好対照だということ。赤羽が暗い色と厚みのあるマチエールでアニメキャラクターなどを描くのに対し、石山は強烈な色彩によってダイナミックな抽象画を描く。陰鬱で抑圧された若者と爆発的に解放された老人ということなのか。たしかに石山の初期作を見ると、赤羽ほど黒いわけではないが、色彩はいずれも淀んでおり、筆致の運動性は見られるものの、現在のような重層性は見出せないから、若年の暗さから老年の明るさという図式は、ある程度妥当するように思える。とはいえ、石山の最新作は画面の構成も色の重なりや発色も、以前と比べて若干トーンダウンしているように見えたので、必ずしも無限に明度を高めていくわけでもないようだ。繊細で傷つきやすい内面を外側に表出するという点では、実年齢にかかわらず、どんなアーティストにも通底しているのだろうが、石山がすぐれているのは、それを絵画のみならず小説、フラメンコ、そしてカンツォーネといったさまざまなアートで表現しているからだ。石山の抽象画に感じられる音楽的な律動には、カンツォーネが内側に抱える哀しみがある。

2010/10/02(土)(福住廉)

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三瀬夏之介 展「肘折幻想」

会期:2010/10/02~2010/10/23

イムラアートギャラリー[京都府]

以前は奈良県在住で、関西で頻繁に展覧会を行っていた三瀬だが、山形県に移住してからはとんと御無沙汰。最近は「東北画は可能か?」なんて言い始めて、ますます実態が分からなくなっていた。それだけに本展は、彼の現在を知る貴重な機会となった。山形の肘折温泉で制作した《肘折幻想》は、十曲一隻の大作屏風。作風は一見以前と変わらないが、無軌道すれすれの混沌というよりは、沈静な趣をたたえた作品だった。会期初日に本人と話す機会を得たが、キーワードの「東北画」とは、独自の様式ではなく、自分が乗り越えるべき壁として設定されているように感じた。三瀬は今までもずっと自分で課題を設定し、それを乗り越える過程で進化を続けてきた作家だ。山形という新たな環境、「東北画」という新たな課題を得た三瀬が、今後どのように展開して行くのか、期待が募る。

2010/10/02(土)(小吹隆文)

キャラバン隊・美術部 第三回展覧会 JIROX かなもりゆうこ二人展「BANG A GONG! トーキョー/キョート」

会期:2010/10/01~2010/10/10

MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w[京都府]

美術と出版で活動する「キャラバン隊」が企画した展覧会。映像作家のかなもりゆうこと、パフォーマー&オブジェ作家のJIROXが共演した。展示は、かなもりの映像(3画面で1点の作品)と、JIROXのオブジェからなる。JIROXは終日会場にいて、自作楽器で即興演奏をしたり、頭部を叩いて打楽器代わりにしていた。かなもりの作品は普段とは少し様子が異なり、JIROXの世界がそのまま引っ越して来たかのよう。一見アンバランスな取り合わせの本展だが、見れば見るほど馴染んできて、やがて絶妙のコラボだとわかる。それにしてもJIROXは、まるで仙人のようだ。彼を知っただけでも、本展に出かけた価値があった。

2010/10/02(土)(小吹隆文)

飛田英夫「静かな生活」

会期:2010/09/24~2010/10/18

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

珍しく、伊賀美和子「悲しき玩具」に続いて人形(ミニチュア)を使った写真作品を見ることができた。飛田英夫は15年以上にわたり、人形や建物、植物などを配置したミニチュアの場面を制作し、それを大判カメラにセットしたインスタントフィルムで撮影するという仕事を続けてきた。今回の個展には「シネフィルと写真」「日々のサンプル─ミニチュアによる─」「In a Lonely Place」「静かな生活」の4シリーズが展示されている。
ミニチュアのディテールを精密につくり上げ、ライティングに工夫を凝らしてあえてややソフトフォーカス気味に撮影する技術は完璧で、小品だがなかなか見応えがある。基調になっているトーンは、古い映画を見る時に感じるようなノスタルジアであり、失われてしまった状況だからこそ、わざわざミニチュアで再現する意味があるのだろう。この種の作品には職人芸的なこだわりが大事だと思うが、その点においては文句のつけようがない。
ただ、このまま制作を続けていくと同工異曲のくり返しになってしまう怖れがある。もう少し作品相互の関連性、物語性を強め、それこそ伊賀美和子がかつて試みたような連作を制作してみるのも面白そうだ。ドゥエイン・マイケルズのように何枚かの作品がセットになったシークエンス(連続場面)というのもひとつのアイディアだろう。この手法には、まだいろいろな可能性が潜んでいそうだ。

2010/10/01(金)(飯沢耕太郎)