artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
佐々木綾子 展

会期:2010/08/30~2010/09/04
GALERIE SOL[東京都]
スーパーマーケットや職員室など、おびただしいモノであふれる空間を緻密な線で描いた絵。球体がほとんど見られない反面、牛乳パックやファイルケースなど、直角的な物体が大きく前面化しているから、モノとモノが密集した空間を効果的に描いている。にもかかわらず、それほど圧迫感を感じさせないのは、ところどころで空間をあえて歪ませているからだろう。奇妙に歪んだ空間にあふれたモノは、どこかで重力から離れていくような浮遊感すら感じさせる。何かのきっかけでバラバラに解体してしまいそうな脆さを内側に抱えているという点に、偏執的な求心力によって画面を統合する細密画とは異なる、佐々木綾子の特質があるように思う。
2010/09/01(水)(福住廉)
田中一村 新たなる全貌

会期:2010/08/21~2010/09/26
千葉市美術館[千葉県]
「孤高の画家」として知られる田中一村の本格的な回顧展。近年新たに発見された作品や資料を含む、250点あまりの作品が一挙に展示された。大量の作品をリズムよく見せる展示構成と、堅実な研究調査によって、じつにみごとな企画展となっていた。一村といえば奄美の自然を描いた絵が代名詞になっているが、生誕の地である栃木、絵を学んだ東京と千葉、そして画業を集大成する地として移り住んだ奄美と、一村が生きた時代に沿った展観を見ていくと、一村の絵が幾度も技法的な転換を遂げていることがわかる。当初の南画から写生への転向、勢いのある筆使いと繊細で緻密な描写、写真から描きおこした肖像画や奄美の自然をとらえたモノクロ写真など、一村の創作活動のふり幅はかなり大きい。ただ、そのなかでも終始一村をとらえて離さなかったものがある。それは、陰への意識だ。中央画壇と決別するきっかけとなったといわれる《秋晴》(1948)や、同じように夕暮れの農村を描いた《黄昏》はともに木々や家屋を逆光のなかでとらえているし、奄美時代の作品にしても、印象深いのは色鮮やかな魚の絵より、むしろ墨で塗りつぶしたパパイヤやソテツの絵だ。このとりつかれたように墨に執着する一村の構えは、おそらく南画時代の粘着的な描線に由来しているとも考えられるが、一村はただたんに墨を好んで用いていたわけではないだろう。墨の暗さがあるからこそ、熱帯の花々の艶かしさや干した大根の乾いた白さが際立っているように、一村は陰と陽を同時にとらえようとしていた。そして、それを多くの画家のように中立的な立場から描くのではなく、あくまでも陰の立場に重心を置いていたところに、一村ならではの特徴がある。陰への強い意識は、光に対して正面から向き合い、それをどうにかして画面に定着させようとする構えの現われにほかならない。
2010/08/31(火)(福住廉)
PRODUCT

会期:2010/08/28~2010/09/25
ギャラリーノマル[大阪府]
クリエイティブの分野でジャンルの垣根が緩やかになりつつある状況を受けて、画廊ゆかりの6作家(稲垣元則、大西伸明、田中朝子、中川佳宣、永井英男、名和晃平)に「プロダクト」を意識した作品の制作を依頼した。それぞれのスタンスにより作品の傾向はまちまちだが、ドローイングをカレンダー形式で展示した稲垣元則のプランは、日々ドローイングを続ける彼の制作スタイルとジャストフィットしており説得力があった。名和晃平のテレビや携帯電話にガラスビーズを貼り付けた作品は、実用性はともかくオブジェとしては魅力的。永井英男のスクリーンセーバーはそのまま製品化できるクオリティで最もプロダクト寄りのプレゼンだった。しかし、6人のなかで私が最も気に入ったのは田中朝子のルービックキューブ。6つの面に作品イメージが貼り付けられており、揃っても揃わなくても楽しいイメージの遊戯が行える。田中はほかにも「田中フォント」という自筆文字をフォント化した作品を展示しており、こちらも絶妙の出来栄えだった。
2010/08/30(月)(小吹隆文)
丸山純子「けるけないの森へ」
会期:2010/08/21~2010/08/29
ムーンハウス[神奈川県]
横浜のスタジオ+レジデンスのスペース、ムーンハウスで早2度目の展示。作品は相変わらず水と油で石鹸をつくったり、プラスチックを熱で変形させているのだが、なにか研究発表の場みたいな雰囲気。もっとも今日は田中信太郎さんをゲストに迎えての対談があり、作品は隅のほうへ押しやられていたが。その信太郎さんも「作品をごちゃごちゃ置かず、ひとつに絞れ」と痛烈に指摘していた。ごもっとも。
2010/08/29(日)(村田真)
涼音堂電子音楽の夕べ

会期:2010/08/28
京都法然院・方丈[京都府]
電子音楽レーベル“涼音堂茶舖”が毎年開催している「電子音楽の夕べ」。通常は非公開である古刹法然院の方丈で行なわれる電子音楽のライブは、音楽という枠には収まりきらない魅力があり、開催のたびにできれば美術ファンにこそ知ってほしいと思うイベントでもある。そもそも会場の法然院やその庭園自体が美しいのだが、その環境を最大限に生かした粟倉久達による灯りのインスタレーション、東京食堂、OTOGRAPHによる映像インスタレーションなど、若手のアーティストたちによって演出される幻想的な空間と、外から聞こえてくる秋の虫の鳴き声までも取り込んだ音楽とのコラボレートが素晴らしい。毎回これほど来年が待ち遠しくなるイベントはほかにない。
2010/08/28(土)(酒井千穂)


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