artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
宮本隆司 1975-2010 フィルム&デジタル

会期:2010/09/10~2010/10/09
タロウナス[東京都]
階段を下りた正面に森を映し出すモニターが縦に置かれている。ほとんど静止画のように動かない。横の壁には同様のモニターが5点並び、こちらはそれぞれ木がざわざわ揺れている。ただそれだけで、それ以上なにも起こらない。が、見ているうちに森のざわめきが妙な動きに見え始め、コンピュータで処理したんじゃないかと思えてくるほど。裏返せば、ふだんわれわれがいかに森を見てないかということだ。その奥にはニューヨークで撮ったとおぼしき古い写真が。
2010/09/11(土)(村田真)
アクティヴィズムの詩学Vol.3 丹羽良徳

会期:2010/07/24~2010/09/11
ギャラリーαM[東京都]
ギャラリーに大きな鉢植えの植物がふたつ置かれ、そのあいだを無数の針金のハンガーが結んでいる。なんだろうとよく見ると、ところどころ枯れ葉や枝が引っかかっていて、どうやら鳥の巣のようだ。つまり、鳥の巣を屋外からギャラリー内へと引っ越しさせたのだ。そのほか、路上の水たまりの水を口で吸い取って別の水たまりに移し替えたり、自宅のゴミをもって飛行機に乗り、サンフランシスコのゴミ捨て場に捨てに行くといったパフォーマンスのビデオを上映。みんな移動とか移植がコンセプトになってるみたいな。
2010/09/11(土)(村田真)
25人のアウトサイダーアート展

会期:2010/09/10~2010/09/19
ギャラリーTEN[東京都]
サブタイトルに「獄中画の世界」とあるように、死刑囚をはじめとする塀のなかの人たちが描いた絵の展示。絵だけ見せられてもなんの感銘も受けないが、その人の境遇を知ると俄然興味がわく。たとえば永田洋子死刑囚は、金網の向こうでひとり寂しく縄跳びをする後ろ姿の女性を描いていて、あまりにストレートだ。反対に、ある有期懲役受刑者は、十字架にかけられたキリストを映画ポスターのようにリアルかつキッチュに表わしていて、いったいなにを考えているのやら。彫刻でも版画でも写真でもインスタレーションでもなく、最後に許された(選んだ)表現が絵画であるとしたら、絵画もまだまだ捨てたものではない。
2010/09/11(土)(村田真)
白川昌生 展 まえばし妄想2010年

会期:2010/09/10~2010/09/16
ノイエス朝日[群馬県]
美術家・白川昌生の個展。白川が活動の拠点としている前橋の街をモチーフとした平面作品を発表した。大きな布に描かれたのは、白川の想像力によって彩られた前橋の都市風景。他の地方都市と同じように、前橋もまた、巨大なショッピングモールの出現によってシャッター通りと化した商店街、駅前の商業施設ですら撤退を余儀なくされる厳しい経済状況にさらされている。白川の妄想は、そうした過酷な現実に対する批判的な提案である。もちろん、それが前橋に詳しくない者には通じにくいという難点は否めない。けれども、白川自身が語っているように、あらゆるアート作品は、その初発においてローカルなものだったはずであり、それはセザンヌであろうと写楽であろうと変わりはない。作品の普遍性はあくまでも事後的に付け加えられるのであって、それは作品の本質というよりその制度的・言説的な一面にすぎない。白川の批判的な提案は、つねに私たちの視界の根底を深くえぐり出すが、ローカリズムこそアートの出発点だという知見は、新しい芸術の提案というより、むしろ原点回帰の提唱であり、地方のアーティストばかりか、東京のアーティストにとっても大きな刺激となるにちがいない。アートとは現実をちがった角度から見せる技術である。
2010/09/11(土)(福住廉)
群馬青年ビエンナーレ2010

会期:2010/07/31~2010/10/11
群馬県立近代美術館[群馬県]
今回で10回目の群馬青年ビエンナーレ。16歳から29歳までを対象とした公募展で、若いアーティストの登竜門として定着して久しい。今回は審査員を美術家の伊藤存、東京都写真美術館事業企画課長の笠原美智子、インディペンデント・キュレイターの加藤義夫、同じく窪田研二、美術家の鴻池朋子の5名が務め、792人(組)から応募された1119点の作品から52人(組)による53点の作品が入選して、展示された。実際に展観を見てすぐに気づくのは、突出した作品が皆無であること、そして小粒の作品が均等に選ばれているように見えるということだ。例えば絵画の場合、細かく描きこんだ細密画や筆跡を残した厚塗りの絵画、傷つきやすく繊細な内面を吐露したナイーブな絵画など、昨今の多様な絵画の動向を確実におさえた出品構成となっている。それが審査員の総意による結果なのか、あるいは応募作に見られる一般的な傾向なのかはわからない。けれども、見る側の立場からいえば、公募展といえども、現在の動向を反映したカタログ的な展覧会を見ることは端から期待していないし、どうせ見るのであれば、ほかでは見られない非凡な作品と出会いたいものだ。凡庸な公募展が必要でないとは思わないが、地方都市という条件を考えると、もう少し特徴を際立たせるための工夫を凝らすことがあってもいいように思う。(その是非はともかく)VOCA展のように審査基準をあえて極端に偏らせたり、山口県展のように審査そのものを公開したり、できることはまだあるはずだ。
2010/09/11(土)(福住廉)


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