artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

仏像修理100年

会期:2010/07/21~2010/09/26

奈良国立博物館[奈良県]

いま私たちがお寺で拝んでいる仏像は、明治30年(1897)に制定された古社寺保存法にもとづいて修理されたものが多い。本展は、篤い信仰心の現われというより、文化財として保存するために修理されてきた仏像の歴史を振り返る展覧会。仏像を展覧会で鑑賞することはあまり珍しくないが、その構造図や修理図、構造模型、修理前の仏像と修理後のそれを比較した写真などが立ち並んだ展観は、滅多にお目にかかれないものであり、非常に見応えがある。なかでも補修した箇所を赤色で示し、補足した箇所を青色で示した修理図の美しさは並外れている。補修によってはじめて仏像の手のひらに古銭が埋め込まれていたことや、像内に水晶の五輪塔や経巻が納入されていたことが判明するなど、驚愕のエピソードもおもしろい。思うに、昨今の現代アートに欠落しているのは、こうしたミラクルを仕込む遊び心ではないだろうか。

2010/08/25(水)(福住廉)

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横尾忠則 全ポスター

会期:2010/07/13~2010/09/12

国立国際美術館[大阪府]

文字どおり横尾忠則の全ポスター、およそ800点を一挙に発表した展覧会。50年代の高校時代に手掛けた文化祭のポスターから60年代のアングラ文化を視覚化したポスター、さらにはそれらの下絵や版下などをそろえた、その圧倒的な物量がすさまじい。土着的なイメージを極彩色で彩ったポスターを立て続けに眼にしていくと、大げさな言い方でもなんでもなく、まさしく眩暈を覚えるほどだ。それこそサイケデリックな経験なのだろうが、むしろ気になったのは60年代のポスターが「読める」ポスターだったということ。そこには出演者や演出家によるテキストが散りばめられており、それはポスターを「見る」というより雑誌を「読む」ことに近い。少なくともこの時代、ポスターは純粋に視覚的なイメージを構築するというより、読者へメッセージを確実に届けるメディアとして使われていたことが伺える。世界に情報を発信することも世界からの情報を受信することも容易になった反面、情報と接する身体感覚や生々しさが失われつつある今だからこそ、街に貼られたポスターを読むという経験には、今日的な意義があるように思う。

2010/08/25(水)(福住廉)

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美術の中の動物たち

会期:2010/07/24~2010/08/29

尼崎市総合文化センター[兵庫県]

動物をモチーフにした美術作品を集めた展覧会。池水慶一、小野養豚ん、植松琢磨、名和晃平、淀川テクニックの5組がそれぞれ作品を展示した。動物の形を造形化することに終始した作品が多いなか、そこから一歩踏み込んでいたのは池水慶一と小野養豚ん。池水は全国の動物園で飼育されているゴリラや象、ラクダなどの生態を詳しく調査して写真に収め、あわせて彼らを飼育している全国の動物園へのアンケート結果も発表した。とりわけ、ラクダが射精後に失神するほど激しい交尾をするという知られざる事実には驚かされたし、背後から撮影したゴリラの写真には背中で何かを物語る人間と同じ独特のオーラを放っているように見えた。また、つねに養豚場の豚をテーマに制作してきた小野養豚んは、FRPで形成したリアルな立体作品を発表して食肉としての豚の一面を強調していたが、あわせて展示された柔らかい色と線によるドローイングが生き物としての豚に注ぐ深い愛情を表わしていた。両者はともに、動物をテーマとしながらも、その先に人間の姿を暗示していたのである。

2010/08/25(水)(福住廉)

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長島有里枝『SWISS』

発行所:赤々舎

発行日:2010年7月2日

文章家としての長島有里枝の才能に気づいたのは、2009年に刊行された『背中の記憶』(講談社)を読んだ時だ。『群像』に連載された短編をまとめたもので、幼い頃からの家族、近親者、友人たちの記憶を、糸をたぐるように辿り直した連作である。視覚的記憶を文章として定着していく手つきの、鮮やかさと細やかさにびっくりした。思い出したのは幸田文の『みそっかす』や『おとうと』といった作品群で、はるか昔に起こった出来事に対する生理的反応や感情の起伏を、正確に、くっきりと描写していく才能には、天性のものがあるのではないだろうか。同時に、長島の文章にはどこかスナップショットのような爽快さが備わっており、彼女の写真作品と共通する感触もある。
その長島の新作写真集が赤々舎から刊行された『SWISS』。2007年に5歳の息子とともに、スイスのエスタバイエ・ル・ラックにあるVillage Nomadeという芸術家村に3週間滞在した時の記録だ。日記と写真のページが交互に現われる構成になっており、ここでも日記のパートに彼女の文章力がしっかりと発揮されている。記述そのものは、芸術家村で出会った人びととの交友や、父親と別に暮らすことを選びとったばかりの息子との、3週間の間に微妙に変化していく関係のあり方が淡々と綴られているだけだ。だが、庭に咲き乱れる花々や室内の光景を中心に撮影した写真と、重なり合ったりずれたりしながらページが進むうちに、静かな生活の中に湧き起こる感情のさざ波が、生々しい実感をともなって感じられるようになってくる。そのあたりの呼吸が実に巧みで洗練されている。これまでよりもやや抑え気味に、被写体を凝視するように撮影された写真も、しっとりとした味わいで見応えがある。写真と文章とが、さらにみずみずしい関係を構築していく可能性を感じさせる仕事といえるだろう。
なお、特筆しておきたいのは、寄藤文平による造本・デザインのアイディアの豊かさと新鮮さ。紙質やレイアウトに気を配りつつ、物語を包み込む器をダイナミックに仕上げている。表紙の色が20パターンあり、自由に選べるというのも、あまり聞いたことがない。

2010/08/25(水)(飯沢耕太郎)

10 DAYS SELECTION 赤坂有芽 展

会期:2010/08/19~2010/08/28

INAXギャラリー2[東京都]

壁に青白い映像をホワッと浮かび上がらせる赤坂だが、今回はギャラリーの中央に蚊帳を吊り、そのなかに金魚の映像を映し出している。これはおもしろい。もっとおもしろくなる可能性がある。

2010/08/23(月)(村田真)