artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

三菱が夢見た美術館

会期:2010/08/24~2010/11/03

三菱一号館美術館[東京都]

開館記念展の第2弾は、サブタイトルに「岩崎家と三菱ゆかりのコレクション」とあるように、三菱創業者の岩崎弥太郎以来の岩崎家や三菱関連企業に伝わる美術品を一挙公開するもの。モネ、ルノワールらの佳品をはじめ、古書、ポスター、工芸品までいろいろあるが、私的にもっとも興味深かったのは黒田清輝の《裸体婦人像》と、山本芳翠の「十二支」のシリーズ。前者は発表当時「ワイセツ」との理由で画面下半分を布でおおわれたいわくつきの作品(静嘉堂文庫所蔵)、後者は日本的主題を油絵で描いた明治期ならではの表現だが、三菱重工の所有でなかなか見る機会のない作品なのだ。もともとこの三菱一号館(ジョサイア・コンドルによるオリジナル)が建てられた明治期、三菱には「丸の内美術館計画」というのがあったそうで、コンドルの引いたその図面も出品されている。これが実現していたら日本の美術界はどうなっていただろう。あんまり変わってないような気がする。

2010/08/23(月)(村田真)

蝉座のぬけがら

会期:2010/08/22~2010/08/29

BankARTミニギャラリー[神奈川県]

BankARTスクールの田中信太郎ゼミのメンバーによる発表。立方体を基本とした信太郎さんの金属彫刻と、その前に置かれた卵の殻を器状につなげた阿部静の作品しか記憶にないのは、みんなそれなりに作品らしく仕上がっているのに(いるからこそ?)強烈なインパクトに欠けるからだろう。なら阿部の作品にはインパクトがあるかというとそうでもなく、ただ信太郎さんのシャープでソリッドな作品との対比で目立っただけなのだが。

2010/08/22(日)(村田真)

Kamakura Beach Stream 2004-2010

会期:2010/08/18~2010/08/22

ギャラリーヨコ[神奈川県]

近年、鎌倉の材木座海岸に「海の家」のニュー・ウェイヴが登場しているという。その仕掛人である関東学院大学建築学科による「ビーチハウス・プロジェクト」の展示。最初は小さなシャワーブースをつくることから始め、海の家の設計・施行、さらに鎌倉の海岸全体の環境デザインにまで取り組むようになったという。展示は模型や図面が中心で、毎年同じ材料を使いまわして異なるデザインの家を建ててるのがわかる。なるほど季節限定の仮設建築にはこんなに可能性があったんだと納得。ちなみにギャラリーヨコは漫画家の横山隆一の旧宅の一部を改装したもの。今回はBankARTスクールの木下直之ゼミの校外授業で訪れた。

2010/08/21(土)(村田真)

あいちトリエンナーレ2010

会期:2010/08/21~2010/10/31

愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、長者町会場、納屋橋会場ほか[愛知県]

残念ながら内覧会の日はメイン会場である愛知芸術文化センターの展示作品と納屋橋会場のヤン・フードンの映像作品を見るだけで時間いっぱいになり、他の会場に行くことが叶わなかったのだが、愛知芸術文化センターの展示には、じっくりと見たい作品も多かった。個人的にはハンス・オブ・デ・ピーク、宮永愛子、タチアナ・トゥルーヴェ、志賀理恵子のインスタレーションが印象に残っているが、この会場には映像作品も多いので見て回るのにも時間がかかる。公式ガイドブックには「一日でまわる弾丸コース」という4つの会場を駆け足でめぐるモデルコースも紹介されていたが、「都市の祝祭」という、名古屋の街全体をアート空間ととらえるテーマに基づいてみるならば、なおさら街歩きとともに堪能したいところで、一日で巡るのはやはり難しい気がする。アートの「先端性」や美術とパフォーミングアートの「複合」から生じる可能性を骨子にした大規模な国際展、今後、来場者や地元の人々からはどのような反応がかえってくるのだろうか。注目している。

2010/08/20(金)(酒井千穂)

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あいちトリエンナーレ2010

会期:2010/08/21~2010/10/31

愛知県美術館、名古屋市美術館ほか[愛知県]

横浜より後発だし、メイン会場は美術館だし、越後妻有や瀬戸内のような旅情もないし、にゃんつったってニャゴヤだし……ぜんぜん期待しないで見に行った。が、建畠さん失礼しました、すごくおもしろかったです(建畠晢氏は芸術監督)。毛皮を継ぎはぎして巨人像をつくった張洹(ジャン・ホァン)、ダジャレのようにネタを繰り出すトム・フリードマン、2階のテラスからときどき本が落ちてくる孫原+彭禹(スン・ユァン+ポン・ユゥ)、抽象表現主義絵画を映像で動かしたような小金沢健人、コンピュータの画面を手づくりで演じてみせるアーヒム・シュティーアマン&ローランド・ラウシュマイアーなど、諧謔的でユーモアに富んで視覚的インパクトも強い作品が多い。まさに「都市の祝祭」にふさわしい頽廃的作品ばかり。近ごろ越後妻有や瀬戸内でエコ系や癒し系にいささか食傷気味だったこともあって、その反動かも。長者町の空きビルを使った淺井裕介や渡辺英司らのインスタレーションも力作。ぼくの知る限り、これまで日本で開かれた国際展のなかで最良のものだといっておこう。ぜひ見に行くべし。

2010/08/20(金)(村田真)

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