artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

増山士郎 作品集 2004-2010

会期:2010/03/09~2010/03/28

現代美術製作所[東京都]

「ネットカフェ難民」ならぬ、「アーティスト難民」で知られる増山士郎の個展。昨夏の「所沢ビエンナーレ」で与えられた展覧会場を寝床にして日中睡眠をとり、深夜にアルバイトに出掛ける作品でたいへんな反響を呼んだ。今回の個展でも会場の奥に仮設小屋を設けて寝床を公開し、同じようにアルバイトの面接の様子やこまごまとした書類も展示した。通常は眼に見えない、あるいは見ようとしない暗部を反転させる鮮やかな手つきが増山の大きな特徴だが、それは他の作品でもいかんなく発揮されていた。《parky party》は、ラーメン屋の「一蘭」のように、半ば個室化したカウンターで飲食を提供する観客参加型のインスタレーションだが、これは作品を見るというより実質的に社交の場と化している展覧会のオープニング・レセプションを大いに皮肉っているし、炎がゆらめく暖炉の映像を流したモニターとソファーを設置した《暖炉》は、文字どおり寒々しい画廊の広々とした空間への強烈なカウンターパンチである。さらに、歌舞伎町の公園に「安心! 無料! 恥ずかしい姿見放題」と謳ったいかがわしい電飾看板を2日間設置し、そこに開けられた覗き穴を覗き込むと内部に仕込まれた鏡が本人の「恥ずかしい姿」を映し出すという《歌舞伎町プロジェクト》も、木箱の内部に隠しカメラを忍ばせて運送業者が荷物を移動させる行程を記録した《moving from kanagawa to hiroshima》も、それぞれ私たちのだれもがふだんは見ることのない一面をありありと浮き彫りする、すぐれて批評的な作品にほかならない。

2010/03/17(水)(福住廉)

エトリケンジ個展 VANISHING

会期:2010/03/04~2010/03/31

BAMI gallery[京都府]

人体にスチールネットを当てて成型した少女の人型オブジェ8点と、ドローイングやスケッチ類を出品。遠目には半透明に見えるオブジェははかなくも空虚で、抜け殻や陽炎が連想される。それらは都市に暮らす匿名の人間の輪郭であり、身体性を喪失した情報化社会における人間の姿を暗示しているそうだ。『攻殻機動隊』の草薙素子や『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイとリンクさせる人が多いとも聞いたが、それも納得だ。

2010/03/17(水)(小吹隆文)

霞 -kasumi- 「伊吹拓×佐野真弓:絵と音の作品展」

会期:2010/03/09~2010/03/14

SEWING GALLERY[大阪府]

昭和20年代に建てられた洋裁学校の古い校舎内にあるギャラリー。1,000坪の広大な敷地には桜をはじめさまざまな植物が生い茂っていて、なんだか絵本のように素敵なところだ。伊吹拓の絵画が展示されたこの洋裁学校の空間で、ピアノとバイオリンのコンサートが行なわれた。古い校舎に響く音色も素晴らしかったが、日々、刻々と変化する光の表情、自然の現象を描いた色彩とその抽象のイメージが会場の外の景色と重なっていくようで快感。目に見えない(見えにくい)「存在」の発見を喚起する、伊吹さんの作品はいっそう魅力を放っていた。

2010/03/17(土)(酒井千穂)

西山裕希子 展

会期:2010/03/02~2010/03/14

neutron[京都府]

ろうけつ染め、インクジェットプリントなどの技法を駆使した作品はどの要素をとってもとても繊細な印象。細い線で描かれている女性の姿はまるで背景に消え入ってしまいそうなはかなさをたたえている。透明感にも溢れたそれらは頼りなく、不安定なイメージだけに、かえってその作品世界に引き摺りこまれていくような気分。浮遊感漂うあやしさと、美しいけれど深淵な暗さも感じられる魅力的な作品だ。

2010/03/14(日)(酒井千穂)

高岡美岐 展

会期:2010/03/09~2010/03/14

アートスペース虹[京都府]

高岡の制作は、自分が歩く道のりで目にする風景を、携帯電話のカメラで数分か数十秒という短い間隔で撮影するところから始まる。その記録画像を水彩画に一枚ずつ起こし、描き溜め、さらにそれらから選びとった場面を油彩画に構成し直すのだという。初めて聞いたときは驚いたのだが、記録を事実の「イメージ」へと移し替えていくその行程が興味深い。今回の新作に描かれていたのは夜の北新地。手ぶれした画像をもとにした風景の、流星が縦に走るような街の光の描写が奇麗で、そのせわしない雰囲気や夜の街の喧噪のなかを歩く臨場感にもあふれている作品だった。画面の筆致の勢いやスピード感がうかがえるのも見ていて楽しい。次はどんな光景が描かれるのか気になる。

2010/03/14(日)(酒井千穂)