artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

高橋宗正「スカイフィッシュ」

会期:2010/03/19~2010/04/18

AKAAKA[東京都]

高橋宗正と最初に会ったのは2001年頃、まだ彼は20歳そこそこの写真学校の学生だったはずだ。その頃からセンスのよさはずば抜けていたのだが、逆に器用にまとまってしまいそうな予感もあった。その後、彼は中島弘至とSABAというユニットを組んで、2003年の「写真新世紀」で優秀賞を受賞する。だが、それからしばらくは模索の時期が続いていたようだ。今回、赤々舎から最初の写真集『スカイフィッシュ』が刊行され、同名の展覧会も開催された。しばらくぶりで彼の作品をまとめて見ることができたのだが、明らかに一皮むけて、成長の跡が刻みつけられていた。昨年やはり赤々舎から写真集を出した佐伯慎亮もそうなのだが、公募展などで受賞後、きちんと自分の世界を形にすることができた写真家たちを見ると、嬉しいだけでなくほっとさせられる。そのままどこかに消えてしまう場合も多いからだ。
今回のシリーズには、特にテーマらしきものはない。折りに触れて撮影した写真の集積だが、彼が出会った小さな奇跡のような瞬間が的確に捉えられ、みずみずしく、開放的な気分のあふれる作品に仕上がっている。つねに何かに驚きの目を見張っているような少年らしさが、消えることなく残っているのが彼の眼差しの特徴で、鉱物と液体のあいだくらいの透明感のあるイメージに特に偏愛があるようだ。最初の写真が氷の上に一歩踏み出そうとしている遠景の人物、最後の写真が水の上に立つ彼自身を思わせる若者の後ろ姿──このあたりのまとまりのつけ方もなかなかうまい。「空飛ぶ幻の魚」(スカイフィッシュ)のように世界を軽やかに滑空していく気持ちのよさを保ちつつ、さらに暗い水底の深みまでも視線を伸ばしていってほしいものだ。

2010/03/24(水)(飯沢耕太郎)

マイ・フェイバリット:とある美術の検索目録/所蔵品から

会期:2010/03/24~2010/05/05

京都国立近代美術館[京都府]

考えてみれば所蔵作品の分類と整理、系統化を重要な業務とする美術館において【その他】というカテゴリの作品資料があるのはやはり興味深い。絵画、彫刻、工芸、写真、デザインといった表現や、油彩、水彩、版画、陶芸など、技法の分類ににおさまりきらなかった【その他】の作品群を、それらと関係する資料もあわせて約300点展示した今展。分類上の名称でその位置を固定されなかったゆえの新しい物語や変化の可能性を孕んでいるという意義を示すとともに、美術作品のデータベース化が進み、分類の統合とさらなる細分化が迫られる美術館の制度と現状にも問いを投げかける、京都国立近代美術館で【その他】という項目が設けられてはじめて登録された作品は、マルセル・デュシャンの《ヴァリーズ(トランクの中の箱)》なのだそうだが、会場の展示もデュシャンから始まり、プレイベントとして講演会も開催されたK・ヴォディチコのほか、W・ティルマンス、やなぎみわ、倉俣史朗、横尾忠則、澤田知子などじつにさまざまな作品が並んでいた。関連資料を添えた展示構成は【その他】のコレクションの歴史や歩みを丁寧にたどるもので、じっくり見ると何時間もないと足りないほどのボリューム。そこに学芸員の同館への敬意と愛ががうかがえたのがなによりステキだ。

2010/03/24(木)(酒井千穂)

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プレビュー:「ロゴパグ~不思議なスパイス~」森田麻祐子・中村協子二人展

会期:2010/05/14~2010/05/30(金・土・のみ)

アトリエとも[京都府]

昨年は近鉄百貨店阿倍野本店の仮囲い約240メートルの原画を手がけるなど、ドローイングを中心に、ユーモラスな作品世界で活躍の場をひろげている中村と、コラージュや絵画に映像を重ねる手法などを用いて、“物語の風景の模様”を描く森田。まったく異なる二人の個性がどのように混ざり合うのか、会場の空間は小さいが、そこに二人ならではのワンダーランドが出現するのは間違いない。

2010/03/23(金)(酒井千穂)

平野知映 個展

会期:2010/03/23~2010/03/28

立体ギャラリー射手座[京都府]

展示室の奥には3つの球体が並び、それぞれに厚化粧をした女性の顔が投影されている。球体の周囲には皆既日食のダイヤモンドリングを思わせる光の輪が輝き、さらに中央の球体のてっぺんからは一筋の光の放射も。そして厚化粧の女性たちはスキャットでホルストの『木星』を合唱している。なんだこれは? とあっけにとられるものの、作品から放射されるパワーに感化され、徐々に楽しくなってくる。一見変てこだが淀みがなく、ポジティブなパワーに満ちた作品だった。

2010/03/23(火)(小吹隆文)

マイ・フェイバリット──とある美術の検索目録/所蔵作品から

会期:2010/03/24~2010/05/05

京都国立近代美術館[京都府]

美術館の収蔵品目録で「その他」に分類されている作品群。特定のジャンルに収まり切らないそれらにこそ、実は大きな可能性が秘められているのではないか。本展はそんな前提に立って構成された館蔵品展だ。出品作品は、オブジェ、映像、インスタレーション、写真、デザイン、絵画、版画、印刷物などバラエティー豊か。作家リストを見ると、M・デュシャン、K・ヴォディチコ、W・ケントリッジ、宮島達男、森村泰昌、やなぎみわら、過去に同館で展覧会を行なった人物がずらりと並んでいた。「観客一人ひとりがそれぞれのマイ・フェイバリットを見つけてください」。それが本展の表向きのテーマである。一方、もうひとつのメッセージはほかならぬ学芸員に向けられている。「収蔵品を分類し美術史に組み込むことで、作品本来のポテンシャルを削いではならない」と。研究者が自己批判精神をもって自らの在り方を検証することこそが本展の本質である。

2010/03/23(火)(小吹隆文)

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