artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
横浜市民ギャラリーをかけぬけたアヴァンギャルドたち

会期:2010/03/02~2010/03/23
横浜市民ギャラリー[神奈川県]
「全日本アンデパンダン」や「今日の作家展」など、1964年以来さまざまな前衛美術に発表の場を提供してきた横浜市民ギャラリーのコレクション展。池田龍雄、岡本太郎、草間彌生、斎藤義重、菅木志雄など、戦後の日本美術を代表する美術家たちによる作品、およそ40点が展示された。なかでもとりわけ鮮やかな魅力を放っていたのが、吉仲太造の《碑》(1964)。新聞の株式欄や不動産欄を切り貼りした大きなコラージュ作品で、眼を凝らして見ると、現在とは比べものにならないほどの低廉な価格に驚かされる。一見すると乱雑に貼り重ねられているようだが、全体を見通してみれば、新聞紙の断片が規則的に並んでおり、美しい模様を描いていることに気づかされる。株式と不動産という記号から、この作品は「資本主義経済そのもののデスマスク」(大岡信)とか「戦後日本の鎮魂のモニュメント」(光田由里)などといかにも大袈裟に評価されているが、それほど話を高尚なレベルに飛躍させなくても、これは誰がどう見ても、明らかに地図である。それは、貼りつけられた新聞紙が江戸切絵図のように上下左右バラバラな方向に向けられているからであり、なおかつ全体的には吉仲が生まれ育った京都の街並みを彷彿させるからだ。規則正しい模様は、御所を中心に碁盤目状に路地が行き交う京都の都市構造と明らかに対応している。数字と記号が充溢したこの街の中で、おまえはいったいどこに立っているのか? 吉仲の作品は静かにそう問い掛けているのだ。
2010/03/02(火)(福住廉)
林大作 展「GAME画面物」

会期:2010/02/16~2010/02/28
neutron kyoto[京都府]
テレビゲームの映像画面を3次元に再現した陶製の作品が並んでいた。登場キャラクター、ドクロマークのビンや武器などのアイテム類、敵と戦う場面のジオラマといった、ゲームのシンボリックなモチーフを立体化した作品は、どれもそれぞれの状況イメージを即座に誘発する既視感がある。表面の仕上げの荒さが目につくのが惜しいが、すべて林自身が架空の物語を設定し、制作したものだという点が面白い。物語の脈絡に興味が湧いて、質問もつぎつぎと湧いてくる。なかでも、行動の選択肢を表示したメニュー画面や、登場人物の会話画面など、たんに文字情報だけの画面を再現したシンプルな箱型の作品が良い。ただ限られた選択肢や情報を示すという一種のサインにすぎないとも言えるが、それらはつくり手の豊かなイマジネーションをもっとも示しているものに思えた。観る者にコミュニケーションを喚起するチャーミングな要素をもっている。あえて陶芸という手法で表現することについて林自身まだ未消化な部分を抱えている様子だったが、言葉と陶の質感や色など、独自の作品世界の魅力を強めていた。今後の活動展開も楽しみだ。
2010/02/28(日)(酒井千穂)
東京五美術大学連合卒業・修了制作展
会期:2010/02/18~2010/02/28
国立新美術館[東京都]
国立新美術館を舞台とした五美大展。多摩美術大学・武蔵野美術大学・東京造形大学・日本大学芸術学部・女子美術大学から選抜された作品が一挙に展示された。昨年に比べると、全体的に中庸で、そこそこおもしろいものもなくはなかったけれど、飛び抜けて突出した作品は少なかった。そうしたなか、あえて一点だけ挙げるとすれば、「プラグマ型」など女性を類型化しながら裸と情念を剥き出しにしたペン画を描きこんだ森田夕貴。まだ質に量が追いついていない点が否めないにせよ、もっと見てみたいと思わせる作品だった。
2010/02/28(日)(福住廉)
京都オープンスタジオ2010:田中英行展「空宙の∞~忘却の果ての歴史α~」
会期:2010/02/11~2010/02/28
AAS[京都府]
こちらも最終日の駆け込みになってしまった。京都オープンスタジオ2010の参加スタジオのひとつAAS。Antennaというグループがたちあげたアートスペースなのだが、制作だけでなく企画展を開催するスペースとしても使用している場所なのだとこの時初めて知った。今回はAntennaのメンバー、田中英行の個展を開催。1階には、森の大木の周りに集まる動物たちをイメージした、廃材を用いたインスタレーション。飛行機と思われる過去の立体作品を破壊するパフォーマンスの映像も合わせて上映されていた。定かではないが、作品の素材はこの旧作の破片で構成されているようだった。増殖するイメージ、そして破壊と再生のプロセスを見ていると切ない気分にもなっていくが、その果敢なさまにも打たれる気分。見に行ってよかった。
2010/02/28(日)(酒井千穂)
小泉明郎 展「A LOVE SUPREME 至上の愛」

会期:2010/02/12~2010/02/28
《男たちのメロドラマ#3》という作品は、シリーズで展開している作品らしい。ドローイング作品や展示のための構想スケッチなどもあったが、主に会場は個展初日に行なわれたパフォーマンスの記録映像とその時の舞台装置のインスタレーションで構成されていた。三島由紀夫の『金閣寺』の主人公をモチーフにしていると紹介されていたが、彼がパフォーマンスでかぶっていたマスクは三島自身がモデルのようだった。儀式的に切腹が行なわれるパフォーマンスなのだが、それが自慰行為のイメージでとにかく強烈。その最中ずっと聞こえるノイズ音も耳に焼き付くよう。別室では過去に発表された映像3作品も上映されていた。いずれも、消費社会の構造やそのなかでの権力構造、そこで翻弄される人々(われわれの)心理に鋭く切り込むような作品。この作家の作品は、見ると不愉快に感じる人もきっといるだろうな。だけど、個人的にはその鋭い考察と批判性を、軽々と切なさを孕んだコメディに換えてみせるセンスや強い態度がとても魅力的に映った。なにしろ今年見た展覧会のなかでも、もっとも過激で印象に残る個展だった。
2010/02/28(日)(酒井千穂)


![DNP Museum Information Japanartscape[アートスケープ] since 1995 Run by DNP Art Communications](/archive/common/image/head_logo_sp.gif)