artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
東京五美術大学連合卒業・修了制作展
会期:2010/02/18~2010/02/28
国立新美術館[東京都]
自宅療養のため2月下旬はほとんど外出できなかった。五美大展もあやうく見逃すところだったが、最終日に杖をついて美術館へ。学生から見りゃ場違いなジジイだな。大ざっぱにいって学校ごとの違いはあるが、共通するのはどこかで見たことあるような絵が多いこと。最大公約数的に描写すると、具象的イメージをベースに、筆触やかすれなどペインタリーなタッチを強調し、夢のような世界を描いた装飾的画面、といったところだ。だいたいこのあたりがいまの流行りなんだろう。そんなのも含めて印象に残った作品を名前だけ列挙すると、武蔵美では高石晃、森田夕貴、片山久瑠実、土井奈々恵、女子美では唐沢瑶子、造形では佐藤翠、岩室理沙、滝川織恵、多摩美では高木真希人、南理紗。全部で千人くらい出してるから、いい作品に出会える確率は1パーセントくらい。絵画以外で目についたのは武蔵美の彫刻。池永和代、石井太介、工藤伸ら、これまで卒展では見たことないような新鮮な作品だった。今年は武蔵美の圧勝だな。
2010/02/28(日)(村田真)
高木こずえ「MID」

会期:2010/02/17~2010/03/12
第一生命南ギャラリー[東京都]
第35回木村伊兵衛賞を受賞した高木こずえの写真展。日本橋高島屋の美術画廊XではVOCA展2009にも出品していた「GROUND」シリーズを展示していたが、ここでは「MID」というシリーズを発表した。壁面に縦横無尽に貼りつけられた写真に写し出されているのは、暗闇のなかストロボで浮かび上がった田んぼやガードレール、牛、猫。典型的な田園風景を無造作に撮影したスナップショットのようでありながら、どういうわけか、しばらく見続けていると、昔見た夢のなかを漂っているかのような錯覚を起こす。爆発的なエネルギーを体感できる「GROUND」とは対照的に、「MID」はどこまでも吸い込まれていきそうな恐ろしさが魅力だ。海面すれすれで旋回する飛行機の機影をとらえた写真など、謎めいたモチーフも観覧者の心をざわめきたてる。
2010/02/26(金)(福住廉)
シュウゾウ・アヅチ・ガリバー EX-SIGN展

会期:2010/02/27~2010/04/11
滋賀県立近代美術館[滋賀県]
昔から多くの美術業界人からエピソードを聞いていたが、実作品を見たことがないため自分のなかで伝説化していたシュウゾウ・アヅチ・ガリバー。その正体は私が勝手に妄想していた1960年代的アングラ・カルチャーの伝承者ではなく、極めてスタイリッシュかつ哲学的なコンセプチュアル・アーティストだった。特に近年の作品は簡略化された記号的表現へと昇華されている。それをもって物足りないという人もいるかもしれないが、一貫したテーマを追求しつつも過去に拘泥しない姿勢は、好む好まざるに関わらず評価されるべきものだと思う。本展は彼にとって初の回顧展。企画を実現した滋賀県立近代美術館にも高評価が与えられるべきであろう。
2010/02/26(金)(小吹隆文)
シリン・ネシャット 男のいない女たち[第2回恵比寿映像祭プログラム]

会期:2010/02/19~2010/02/28
東京都写真美術館[東京都]
シリン・ネシャットが初めて手掛けた長編映画。イラン革命前夜を背景にして揺れ動く4人の女性たちの生き方を寓話的に描き出した。それぞれの物語が断続的に紡ぎ出されながらも、最終的にはあるひとつの邸宅を舞台に一本化されるという展開に見られるように、映画的な文法を的確に押さえながらも、従来の詩的で謎めいた映像美はしっかりと描き出している。フェミニズム論者による批評が待望されるが、ベタな美しさを批判的に脱構築してきたフェミニズムが、この映画の美しさをどのように評価するのか、気になるところだ。
2010/02/25(木)(福住廉)
NUDE 和光大学卒業制作展 2010
会期:2010/02/20~2010/02/25
BankART Studio NYK[神奈川県]
美大の卒展といえば、おおよそどこでも似たような傾向が見受けられるが、どういうわけか和光大学の卒展はつねに異彩を放っている。今回注目したのは、北方沙依と星田大輔。北方の《CAN LIVE》は空き缶の表面を剥ぎ取り、360゜すべての面を使って短い物語マンガを描いた作品。言葉の使い方にまだ発展途上の感が否めないものの、空き缶を手に取ったときの軽さが物語のなかの寄る辺ない浮遊感を巧みに引き出していた。星田の《愛は慣性上に宿る》は、手塚治虫のマンガ『三つ目がとおる』の1ページにフキダシのセリフを勝手に当てはめ、そのページのなかでコマ割りを入れ換えながら物語を編み上げていく作品。だから十数頁にわたるマンガは、ほとんど同じ絵が続くことになるが、絶妙な言葉のセンスとコマ割りの工夫で、読者を決して飽きさせない。天才の絵を臆面もなく流用し、しかも同じ絵を何度も何度も使い倒すという図太さが、昔ながらのシミュレーショニズムを越えた凄みを醸し出していた。
2010/02/24(水)(福住廉)


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