artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

渡邊聖子「否定」

会期:2010/02/23~2010/02/28

企画ギャラリー・明るい部屋[東京都]

どちらかというと「ゆるい」写真展が多い明るい部屋の企画にしては、洗練と緊張感のバランスがほどよく保たれている展示だ。渡邊聖子は昨年の「写真新世紀」で佳作に入賞している若手女性作家だが、これまでは自分の方向性をひとつにまとめ切れていない迷いが見られた。ところが今回の展覧会では、確信を持って作品を選び、会場を構成している。自分のなかで、何か吹っ切れたところがあったのではないだろうか。
展示はテキストと写真の二つの部分に分かれる。テキスト部分では、まず「鏡を見なくてもわかる/今、あなたはうつくしいはずだ」という文章が提示され、それが二重、三重に否定されていく。それと対置されているのが、家の近くの道端でほとんど無作為に拾ってきたという石をクローズアップで撮影し、A3判くらいの大きさに引き伸ばした7点の写真で、テキストにも写真にもちょうどその大きさにカットされた板ガラスが被せられている。渡邊の意図を完全に読み解くのはむずかしいが、テキストと写真が相補うことで、モノクローム─カラー、確かさ─不確かさ、揺らぐもの─固定されているものといった対立軸が生まれ、見る者を思考の迷路に誘い込んでいく。その手つきに、迷いがないので、タイトルとは逆に「これでいいのだ」と思わされてしまう。いつのまにか否定─肯定という対立軸を含めて、その関係性がなし崩しに解体し、同じ現象の裏と表のように見えてくるのだ。
今回の展示は、彼女の飛躍のきっかけになりそうだ。そののびやかな構想力、思考力をさらに積極的に展開していってほしい。

2010/02/24(水)(飯沢耕太郎)

長谷川等伯

会期:2010/02/23~2010/03/22

東京国立博物館 平成館[東京都]

国宝《松林図屏風》をはじめ、《楓図壁貼付》《枯木猿猴図》《波濤図》など、等伯の代表作78点を公開した展覧会。信春時代の仏画から千利休や武田信玄などの肖像画、壮大なスケール感を誇る金碧画、細かくキャラクターを描き分けた涅槃図にいたるまで、等伯の幅広い筆使いを堪能できた。ライティングの妙が冴え渡った《松林図屏風》はもちろん、とりわけ目を惹いたのは《柳橋水車図屏風》。川に架けられた橋の両岸に春と夏の柳をそれぞれ描き分けた六曲一双の大作で、夏の柳は流れるような細線で描かれているものの、画面の大半は春の芽吹きで占められており、やわらかい新芽の肌を逆撫でするような触感がたまらない。生命が躍動しはじめる春のエロスを感じさせる絵だ。

2010/02/22(月)(福住廉)

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NEW WORLD

会期:2010/01/30~2010/02/28

Island[千葉県]

千葉県柏に新たにオープンしたIslandのオープン記念展。淺井裕介、板垣賢司、いちむらみさこ、岩永忠すけ、臼井良平、遠藤一郎、大田黒衣美、大庭大介、加藤愛、川染喜弘、栗原森元、栗山斉、山本努の14人(組)が参加した。倉庫のように広い贅沢な空間を、それぞれの作品が埋め尽くした。白い壁面はもちろん、天井の剥き出しの梁にまで拡張した淺井の泥絵は、マスキングテープを剥がした痕跡を絵柄に取り入れ、剥がしたテープも再利用するなど、新たな展開を見せていた。

2010/02/22(月)(福住廉)

高木こずえ「GROUND」/「MID」

日本橋高島屋6階美術画廊X/第一生命南ギャラリー[東京都]

会期:2010年2月17日~3月15日/2月17日~3月12日

1985年生まれの高木こずえの潜在能力の高さは、今回の二カ所の個展でも充分に発揮されていた。赤々舎から昨年刊行された二冊の写真集『GROUND』と『MID』に沿った展示だが、それぞれ微妙にその内容を変化させている。
日本橋高島屋6階美術画廊Xの「GROUND」では、メインになる150.4×125.4センチの大きな二枚組の作品と、それらを「更に細かく分解し、それらを構成している元素を確かめていった」小さな作品群を展示している。エレメントの一つひとつは、ヒト、モノ、動物など生命的なイメージの集合体であり、高木はその自己分裂の運動に身をまかせつつ、解体─生成のプロセスを巧みにコントロールする。細部に眼を凝らせば凝らすほど、そこから思いがけない神話的な形象がわらわらと湧き出してくるような仕掛けを作り出すことで、見る者はビッグバンのようなとてつもないエネルギーの噴出の場に立ち会うことができるのだ。今回は、そのカオス状態をさらに推し進めた新作「light」も同時に展示されていた。そこでは、目が眩むような白熱する発光体が、より細かく、鋭角的に分割されている。
第一生命南ギャラリーの「MID」でも、元の写真に大きく手を加えた作品がある。印象的なエメラルド色の眼をした「オトコ」のイメージが、炎のような背景の赤をさらに強調するようにトリミングされているのだ。もともとこの写真は、高木の夢のなかに出てきた姿をなぞって、セットアップして撮影されたものだった。今回の操作によって、悪夢めいた禍々しい雰囲気が強まり、それが展示の全体にも奇妙に歪んだ磁場が生じるように働きかけていた。フレームに入れられた20点ほどの作品の周囲には、小さくプリントされた写真が撒き散らすように貼られているのだが、それらが呪符のようにも見えてくる。
どちらも工夫を凝らしたいい展示だが、彼女の写真の世界はもう一段階スケールアップしていくのではないかと感じる。力作をこれだけ見せられても、まだ潜在的な可能性を全部出し切っているようには思えないのだ。高木にとっては、ここから先が正念場になるだろう。

2010/02/22(月)(飯沢耕太郎)

Collection/Selection 02

会期:2010/02/13~2010/03/13

ギャラリーcaption[岐阜県]

ギャラリーcaptionで開催されていたコレクション展を木藤純子さんと見に行く。岐阜は遠いイメージだったけど意外と近いとわかって新鮮だった。井田照一、伊藤慶二、伊藤正人、大岩オスカール、大嶽有一、金田実生、河田政樹、木村彩子、先間康博、寺田就子、藤本由紀夫。百合草尚子の作品展示。通路の壁にペラッと無造作に貼られているように見える、短いテキストが書かれた伊藤正人の原稿用紙の作品が空調設備の微風にふわりふわりと揺れる光景、窓の桟に展示された寺田就子の小さな作品などを見ていると、ギャラリーの作品へのまなざしが見えてくるような気がした。派手なインパクトの作品はないけれど、作品世界をそっと味わう喜びに包まれた心地よい展覧会だった。

2010/02/20(土)(酒井千穂)