artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

アトリエの末裔 あるいは未来

会期:2009/10/14~2009/10/25

旧平櫛田中邸+台東区立書道博物館[東京都]

これまで平櫛田中邸を舞台にしてきた藝大の彫刻展だが、今年は山手線をはさんで反対側に位置する台東区立書道博物館も会場に加わった。初めに鴬谷から書道博物館に向かうが、途中ラブホテル群が林立していて面喰らう。書道博物館としては落ちつかない環境だ。それを意識したのだろう、竹元彰吾の《ホテルニュータイシャ》は、白砂利の上に超高床式の大社建築の模型を置き、手前に鳥居を、その手前に古色ゆかしい男女のカップルを配したバチ当たりな絶品。村田真賞だ。館内にある渥美雅史の作品もいい。巨大なクモの彫刻を標本箱に入れて壁に展示してあるので、書を見に来た人が見たら驚くに違いない。平櫛邸のほうは例年のごとしで割愛。

2009/10/23(金)(村田真)

杉本博司「光の自然(じねん)」

会期:2009/10/26~2010/03/16

IZU PHOTO MUSEUM[静岡県]

新しく静岡県東郡長泉町のクレマチスの丘に開館したIZU PHOTO MUSEUMのプレス・ツアーに出かけてきた。隣接するヴァンジ彫刻庭園美術館では、2006年以来松江泰治、古屋誠一、川内倫子らの写真展が開催されてきたが、その実績を踏まえて、写真専門の美術館としてオープンしたのがIZU PHOTO MUSEUMである。建物と中庭の設計は、オープニング展の招待作家である杉本博司自身であり、展示室が二部屋しかない小ぶりな美術館だが、すっきりとまとまっていて使い心地はよさそうだ。細部まで杉本の「モンドリアン風の数寄屋造り」というコンセプトが貫かれている。
オープニング展の「光の自然」は、静電気を放電させて山水画を思わせるイメージを印画紙にフォトグラムで定着した「放電日月山水画」(長さ、15メートル)と、写真術の発明者であるW・H・F・タルボットが1830~40年代に撮影したカロタイプのネガをポジ画像として拡大した「光子的素描(フォトジェニック・ドローイング)」シリーズの二部構成。写真のオリジンというべき光そのものの生成と物質化の過程を追体験するという展示は、新しい写真美術館のスタートにふさわしいものといえるだろう。新幹線・三島駅からシャトルバスで20分ほどかかるという立地条件は、たしかにあまりいいとはいえないが、周囲の環境はとてもよく、一日をつぶしても充分お釣りが来る。これから年3回程度の企画展を開催していく予定。次回は2010年4月から、アメリカの写真史家、ジェフリー・バッチェンが企画する「時の宙吊りー生と死のあわいで」展が開催される。

2009/10/23(金)(飯沢耕太郎)

岡田裕子 展「翳りゆく部屋」

会期:2009/10/21~2009/11/21

MIZUMA ART GALLERY[東京都]

美術家・岡田裕子の新作展。結婚や家庭、主婦、男性の妊娠など一貫して人間の「生」に向き合ってきた岡田が今回取り組んだのが、独居老人の極限化ともいえる「ゴミ屋敷」。ゴミとも私物とも見分けがつかないモノに囲まれて暮らす老婆に扮した岡田が、自宅内の「ゴミ」を撤去しにやってきた役人と攻防を繰り広げる映像作品を、小劇場のような舞台に並べた複数のテレビモニターで発表した。「ダメダメダメ! ゴミじゃない!」と抵抗する老婆の金切り声が鳴り響くインスタレーションは、文字どおり鬼気迫る迫力があるが、ある一点で唐突に映像が途切れ、空間の照明もいっせいに暗転する。これが人生において不意に訪れる「死」を暗示していることは明らかだ。岡田裕子といえば、コミカルな演出によって社会的主題を巧みにフレームアップするアーティストとして知られているが、これまでの作品はまさしくその「笑い」の側面によって「生」を浮き彫りにしてきた反面、その一部に含まれている「死」が見えにくくなっていた。しかし今回の作品は、あえて「笑い」の過剰な演出を控えることによって、「生」と「死」をそれぞれ同時に際立たせることに成功していたように思う。自分が大切にしているものを他者によって暴力的に奪い取られることが常態化している昨今、「ゴミ屋敷」は極端な例外などではなく、むしろ現代社会の「生」と「死」が凝縮した典型である。カメラに向って目玉をひん剥きながら「ゴミではない」ことを主張する老婆の姿を見ていると、誰もが「これは自分かもしれない」と背筋に冷たいものを感じるにちがいない。

2009/10/22(福住廉)

速水御舟─日本画への挑戦─

会期:2009/10/01~2009/11/29

山種美術館[東京都]

日本画家・速水御舟の展覧会。40年という短い生涯のあいだに描き残した作品およそ700点の中から同館が所蔵する120点あまりの作品が公開された。《炎舞》(1925年)や《名樹散椿》(1929年)など、御舟の代表作はたしかに見応えがある。けれども、樹木の幹や枝より花を重視した描き方などを見ると、いかに古典的な技法を貪欲に取り入れたとはいえ、結局のところ御舟はそれほどうまくはなれなかったのではないかと思わずにはいられない。

2009/10/22(福住廉)

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異界の風景─東京藝大油画科の現在と美術資料

会期:2009/10/02~2009/11/23

東京藝術大学大学美術館[東京都]

東京藝術大学の油画教員による作品と同大学美術館が所蔵する作品や資料をあわせて見せる展覧会。現職の油画教員14名による作品約70点と、美術館の資料や作品約100点が展示された。「油画」というと、じつにオーソドックスで無難な油絵を連想させるが、じっさいの現役教員たちが発表した作品は映像や写真、プロジェクトなどが多く、表現形式としての油画はむしろマイノリティだった。好むと好まざるとに関わらず、それが現在の「油画」のリアルな実態ということなのだろう。

2009/10/21(福住廉)

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