2021年09月15日号
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artscapeレビュー

岡田裕子 展「翳りゆく部屋」

2009年12月01日号

会期:2009/10/21~2009/11/21

MIZUMA ART GALLERY[東京都]

美術家・岡田裕子の新作展。結婚や家庭、主婦、男性の妊娠など一貫して人間の「生」に向き合ってきた岡田が今回取り組んだのが、独居老人の極限化ともいえる「ゴミ屋敷」。ゴミとも私物とも見分けがつかないモノに囲まれて暮らす老婆に扮した岡田が、自宅内の「ゴミ」を撤去しにやってきた役人と攻防を繰り広げる映像作品を、小劇場のような舞台に並べた複数のテレビモニターで発表した。「ダメダメダメ! ゴミじゃない!」と抵抗する老婆の金切り声が鳴り響くインスタレーションは、文字どおり鬼気迫る迫力があるが、ある一点で唐突に映像が途切れ、空間の照明もいっせいに暗転する。これが人生において不意に訪れる「死」を暗示していることは明らかだ。岡田裕子といえば、コミカルな演出によって社会的主題を巧みにフレームアップするアーティストとして知られているが、これまでの作品はまさしくその「笑い」の側面によって「生」を浮き彫りにしてきた反面、その一部に含まれている「死」が見えにくくなっていた。しかし今回の作品は、あえて「笑い」の過剰な演出を控えることによって、「生」と「死」をそれぞれ同時に際立たせることに成功していたように思う。自分が大切にしているものを他者によって暴力的に奪い取られることが常態化している昨今、「ゴミ屋敷」は極端な例外などではなく、むしろ現代社会の「生」と「死」が凝縮した典型である。カメラに向って目玉をひん剥きながら「ゴミではない」ことを主張する老婆の姿を見ていると、誰もが「これは自分かもしれない」と背筋に冷たいものを感じるにちがいない。

2009/10/22(福住廉)

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