artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

皇室の名宝──日本美の華

会期:2009/10/06~2009/11/29

東京国立博物館平成館[東京都]

皇室に伝わる御物や宮内庁が所蔵する名品を公開する展覧会。狩野永徳の《唐獅子図屏風》をはじめ、横山大観の《朝陽霊峰》、上村松園の《雪月花》、川之邊一朝の《菊蒔絵螺鈿棚》など名宝がずらりと並んだ展観は壮観だ。なかでも圧巻だったのが、伊藤若冲の《動植綵絵》。一挙に並べられた三十幅を立て続けに見ていくと、緻密というかむしろ執拗に描きこまれた絵にぐいぐい引き込まれていく。そうした偏執的な絵が日本美を物語っているのは間違いないのだろうが、視点を切り換えてみると、そもそも食い入るように若冲の絵を見ている群集の光景そのものがいかにも日本的であり、この雑踏のなかから日本美が生まれてくるのだろう。

2009/10/21(福住廉)

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Exhibition as media 2009「drowning room」

会期:2009/10/31~2009/11/23

神戸アートビレッジセンター[兵庫県]

1996年から2005年にかけて開催された「神戸アートアニュアル」のセカンドステージとして、一昨年より始動した企画展。神戸アートビレッジセンター主催の美術展のなかで、若手主体の「1 floor」と並ぶ中心的な催しである。その特徴は、出品アーティストが主体的に展覧会を作り上げるアーティスト・イニシアティブと、その間の活動記録をブログで発信していくワーク・イン・プログレス的なライブ感だ。今回選ばれた作家は、大﨑のぶゆき、田中朝子、冨倉崇嗣、中川トラヲ、森本絵利の5名。ジャンルと作風が異なる彼らが濃密に接触することで、どんな化学反応が起こるか要注目だ。

2009/10/20(火)(小吹隆文)

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新incubation1-ベテランと若手作家が出会う Real Life Sensibility─物とイメージの往還から

会期:2009/10/27~2009/11/23

京都芸術センター[京都府]

これまで主に新人作家の紹介を行なってきた「incubation」が、その内容を一新。若手とベテランが一対一で向き合い、その共鳴を確かめる場となる。1回目に選ばれたのは、碓井ゆいと高柳恵里。今年春に京都の元小学校で行なわれたグループ展で、壁紙付きのベニヤ板が教室に散乱する鮮烈なインスタレーションを発表した碓井と、既成品に最小限手を加えることで物事や状態が成り立つ本質を露わにする高柳。作風も世代も異なる2人が対峙することで、どのような世界が立ち現われるのか楽しみだ。

2009/10/20(火)(小吹隆文)

河崎ひろみ「あらゆるものと小さなひとつのために」

会期:2009/10/13~2009/11/01

ギャラリーモーニング[京都府]

黄色みがかった柔らかい色調が快い感覚をもたらしてくれた。目では見ることができないもの、時の経過や自然現象などを楽譜に示したようにも感じられるリズミカルな画面が螺旋状に葉をつける植物のように次々と連想がめぐるのが素敵だ。

2009/10/18(日)(酒井千穂)

GEISAI#13

会期:2009/10/18

Kaikai kiki 三芳スタジオ[埼玉県]

アーティストの村上隆が仕掛ける「GEISAI」の13回目。場所を臨海エリアの東京ビッグサイトから、埼玉県内にあるカイカイキキの倉庫に移し、規模も大幅に縮小、審査員による審査や賞の授与もなく、しかもテーマは「貧」。日本の若きアーティスト予備軍を「富」へと先導(扇動)してきた本展にも、昨年来の世界的な経済不況のあおりが直撃したということなのだろうか。とはいえ、次回は再び臨海部に立ち返るらしいので、これは根本的な方向転換などではなく、絶えず変動する経済状況にフレキシブルに対応する「戦略」の現われと考えるべきだろう。だが片田舎の会場には文字どおりどこかの美大のようなうら寂しい雰囲気が立ち込めており、等身大の原点に立ち返ったといえばそうなのかもしれないが、世界のアートシーンに打って出るという華々しい物語の片鱗はどこにも伺えず、そのあまりの開き直りぶりに愕然とせざるを得ない。世間が貧困問題に注目しているからといって、それをそのままテーマとして持ち出してみたところで、そこにいったいなんの「芸」があるのか。むしろ、そうした貧しい時代だからこそ、逆説的に「富」への夢に現を抜かしながら、やせ我慢を貫き通すことが、村上隆の強みではなかったか。「GEISAI」というプロジェクトが、表面的な印象とは裏腹に、じつに現実的で凡庸な、したがってあえて「アート」というほどでもない試みだったことが露呈したのが、本展である。

2009/10/18(日)(福住廉)