artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

高橋良「森─forest─」

会期:1/3~1/18

neutron[京都府]

和紙のような凸凹した生成りのハンガリー製の紙をつなげた大画面。人物や骸骨、動物、夢で見た光景など、さまざまなイメージが描き込まれた作品は「森」なのだそう。紙の独特の質感や、墨、膠、胡粉などの画材の風合いが、幻想的で叙情的な雰囲気をいっそう豊かにしているが、なにより作家の画力に説得力がある。高橋の死生観が織り込まれた「森」の風景は、生々しくもあり、全体的には暗い印象なので一見気が重くなりそうな気もするのだが、じっくりと細部を見ていくと、その混沌世界はすっと気持ちに染み込んできて心地悪いものではない。むしろ、画面のあちこちに視線が吸い寄せられて、目が離せなくなってくるから不思議だ。

2009/01/16(金)(酒井千穂)

むこうのさくら最終回──佐倉交流

会期:1/15

佐倉市立佐倉小学校[千葉県]

千葉県佐倉市と北海道河東郡士幌町佐倉地区という同じ地名の2カ所をアートで結ぶ、北海道在住アーティスト磯崎道佳発案の交流プロジェクト。昨年夏からそれぞれの佐倉小学校で交互に行なってきたが、最終回の今日は、一辺7メートルの巨大な風船サイコロに地元の草花のシルエットを貼った「はなサイコロ」を転がして遊ぼうというもの。最後は穴を開けて大はしゃぎ。子どもたちにとっては「交流」なんてお題目より、いま、この瞬間を楽しめばいいのかも。
関連情報:http://www.dnp.co.jp/artscape/exhibition/review/081215_03.html#t02

2009/01/15(木)(村田真)

和田守弘 展──走り去った美術家の航跡1967-2006

会期:1/13~25

神奈川県民ホールギャラリー[神奈川県]

一昨年の1月に急逝した和田さんの回顧展。ぼくは個人的には70年代末から80年代初頭にかけての数年間、多少のおつきあいがあっただけで、それ以前も以後もほとんど知らなかった。だから90年代末から再開した絵画を見たのも初めてだった。ぼくにとって和田さんといえばビデオ作家、またはビデオインスタレーション作家なので、こんな絵を描いていたのかと、ちょっと驚いた。いったいどこへ行くつもりだったんだろう。

2009/01/13(火)(村田真)

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松山淳 個展 ダイエット菩薩「翻弄」

会期:1/13~25

立体ギャラリー射手座[京都府]

雑誌のダイエット広告で見かけるビフォー・アフターの画像を、仏像のポーズを引用して立体作品にしている。手本になったのは、みかえり阿弥陀如来(永観堂)と日光・月光菩薩(薬師寺)。メディアに翻弄されるわれわれの価値観を信仰と絡めてコミカルに表現しているのが良い。彼は以前にもモデルの四天王像やグラビアアイドルの観音様を制作しており、昨年は名古屋でそれらを一堂に集めた個展も行なっている。できれば京都で、できれば寺院で、その展示を見たいものだ。さすがに罰あたりと怒られそうだが。

2009/01/13(火)(小吹隆文)

TARO賞の作家I

会期:2008/10/11~2009/1/12

川崎市岡本太郎美術館[東京都]

今井紀彰から電話があって、彼が出品している「TARO賞の作家I」展を観に行くことにした。会場の岡本太郎美術館は、川崎市の生田緑地のとても気持ちのいい場所にあるのだが、やや遠くて、足を運ぶには一日潰す覚悟がいる。この展示も行かなければと思っていたのに、ついずるずると最終日になってしまっていたのだ。
結果は行って得をした気分になった。今井は以前から写真を大画面に曼荼羅状に配置していくコラージュ作品を制作していたのだが、今回はそれがさらに進化して「ビデオコラージュ」になっていたのだ。ハイビジョン化によって画像の精度が増し、写真作品並みの細部のクォリティが実現できた。画面の分割、融合、合成などの視覚効果も簡単に使えるようになってきたのだという。とはいえデータの量は半端ではなく、10分程度の作品で、書き込みだけで40時間もかかる。デジタル機器の進化によって、逆に今井のような画像の物質性を追求する映像作家が出現してきたのはとても興味深いことだ。
内容的には、これまでの彼の「曼荼羅」作品と同様に、ブレークダンス、街の雑踏、水の輪廻、空と雲などの森羅万象が、点滅しつつ変幻していく魔術的な映像世界が構築されていた。もともと彼の中にあったシャーマン的な体質が、静止画像から動画になることで、より強化されているようにも感じる。今後の展開が大いに期待できそうだ。
「TARO賞の作家I」展の他の出品者は、えぐちりか、開発好明、風間サチコ、棚田康司、横井山泰。TARO賞も11回目を迎え、ユニークな作家が育ってきている。えぐちの増殖する卵の群れ、下着でできた食虫植物など、日常を異化する作品が面白かった。この中の何人かには、岡本太郎の作品世界のスケールの大きさまで肉迫していってもらいたいものだ。

2009/01/12(月)(飯沢耕太郎)