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美術に関するレビュー/プレビュー

上野伊三郎+リチ コレクション展──ウィーンから京都へ、建築から工芸へ

会期:1/6~2/8

京都国立近代美術館[京都府]

京都市立美術大学の退任後、教育者としてふたりが活動を続けた京都インターアクト美術学校より寄贈された資料から上野伊三郎、リチの仕事を紹介。私はここで初めて二人のことを知った。特に会場を彩るリチの手がけたテキスタイルデザインや装飾品、小さな箱の作品が魅力的で目を惹く。かわいらしい鳥や花、虫など、自然のモチーフがあしらわれ、色彩にも図案にもウィーン工房で磨かれたセンスに溢れた美しい作品が並ぶ会場では、伊三郎が代表となり結成された日本インターナショナル建築会の建築誌『インターナショナル建築』にもスポットが当てられている。モダニズム建築に対する彼の考え方や、建築会についても触れられているのは興味深いのだが、資料と解説をよく読まないと解りづらいので、リチの作品の数々が可憐で絵本のように想像や目を楽しませてくれる会場では、伊三郎の活動はずいぶん地味に映ってしまう。ただ、もっと知りたいと後でカタログを熟読することになったのでかえって良かったのかも。どちらにしろ質量ともに充実した展覧会でもう一度見たいくらい。

2009/01/05(月)(酒井千穂)

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生活と芸術──アーツ&クラフツ展 ウィリアム・モリスから民芸まで

会期:1月24日~4月5日

東京都美術館[東京都]

東京展  東京都美術館 1/24(土)~4/5(日)

19世紀後半にイギリスで生まれたデザイン運動「アーツ&クラフツ」を、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館(V&A)の貴重なコレクションを中心にして、国内外の関連するコレクションも併せて展示する注目の企画展である。昨年の京都国立近代美術館での展示(9/13(土)~11/9(日))を経て、東京に巡回してくる。モリスの仕事を始め「アーツ&クラフツ」運動の模様を原作品と資料で総合的に見ることのできるまたとない機会である。もうひとつの見所は、このデザイン運動が、諸外国にどのように受容され展開したかを見せる部分にある。ヨーロッパ諸国での展開として、オーストリアのウィーン工房、また、ドイツ、ハンガリー、ロシア、デンマーク、ノルウェー、フィンランドの諸国での連動する動きが紹介されている。アーツ&クラフツの精神に繋がりながらも、それぞれの国の文化の独自性が色濃く出ている模様が鮮明に描かれている。そして、この流れのなかで日本の民芸運動が紹介され、日本の固有性も見えてくる。民芸運動の中心人物、柳宗悦は、民芸運動はアーツ&クラフツの影響下で生まれたのではなく独自の運動であるとの言を残しているが、本展の文脈のなかでは、民芸運動が19世紀から20世紀へという大きなデザイン運動のうねりと共鳴していたことが見事に見えてくる。アメリカでの展開が紹介されていないのは残念であるが、アメリカを入れるとすると膨大な展示物が想像されるので、あえて割愛したのかもしれない。さまざまな発見に満ちた貴重な展覧会である。

公式サイト:http://www.asahi.com/ac/

2008/12/31(水)

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島袋道浩 展:美術の星の人へ

会期:12/12~3/15

ワタリウム美術館[東京都]

世界中のさまざまな土地で作品を制作している島袋道浩の個展。見所はゴルフの打ちっぱなしを体験させるコーナー。たぶんこういう機会がなければ一生ゴルフなんてやらないアートの人たちは、ぜひ体験しておくべき。

2008/12/28(日)(福住廉)

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井坂幸恵/bews《kamizono place》

[東京都]

井坂幸恵さんの《kamizono place》を見る。あいにく、オープンハウスの都合がつかず、翌日だったため、外観のみ。いかにも東京らしい混み入った狭小の敷地で、針の目に糸を通すように、鉄骨の軽やかな集合住宅を挿入している。構造は佐藤淳。

2008/12/28(日)(五十嵐太郎)

山本竜基 「私 心 景」

会期:11/26~1/17

MIZUMA ART GALLERY[東京都]

自分をモチーフにしたリアルな絵を描く山本竜基の新作展。無限増殖する「わたし」の光景を描いた前回の個展から打って変わり、今回は自分の母親をモチーフにした作品が目に付いた。学生時代の母親を写した写真をもとに同時代の自分の姿を重ねて描いた大作は、たしかにマザコン魂が全開した作品といえるが、その一方で意外なことに「母親」というモチーフが現代美術のテーマとして十分に扱われてこなかった経緯を考えると、山本の試みは画期的といっていい。「自分」や「実母」という、ふつうは正面から向かい合うことを避ける対象に、真正面から対峙するたくましい心意気が、山本竜基の強さだ。

2008/12/27(土)(福住廉)