artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

ジム・ランビー:アンノウン・プレジャーズ

会期:12月13日~3月29日

原美術館[東京都]

床にテープがストライプ状に張られているという手法は、2007年の東京オペラシティアートギャラリーでのMelting Point展や十和田市現代美術館のチケットカウンター部分の常設展示にも見られるジム・ランビーおなじみの手法。しかしここではカーブした廊下という原美術館の形態にあわせ、円弧型を組み合わせたパターンにテープを貼る。模様は展示室だけでなく、階段、踊り場なども覆い、特に階段では滝が流れているかのよう。展示室では、微妙に開いたフェイクの扉をインスタレーションし、そこにも立ち上がって円弧パターンが覆い尽くす。建築と美術がうまく絡んだ、サイト・スペシフィックな展示だといえる。

2008/12/27(土)(五十嵐太郎)

牧島如鳩 展

会期:11/8~1/12

足利市立美術館[栃木県]

今年最後に見た展覧会が本年のベスト1、とはいわないまでもベスト5には入るくらいの収穫だったから、北関東まで足を伸ばしたかいがあるというもの。如鳩(にょきゅう)はハリストス正教徒で、イコン画家として知られる山下りんの手ほどきを受けたが、一方で仏画も描き、晩年は両者が共存というか混濁したまことに奇怪な宗教画(というんだろうか)をきわめた人。キリスト教の絵と仏教画の混交は、必然的に洋画と日本画の素材・様式・表現上の混在を招き、その結果、聖母子像の掛軸や油絵による釈迦涅槃図が描かれることになる。圧巻は《魚籃観音像》。ピンクの乳首やレース越しの太股も艶かしい魚籃観音を中心に、左に聖母マリアや天使たち、右に菩薩や天女たちを配したオールスター夢の競演だ。これが小名浜港の漁業組合の依頼で大漁祈願のために描かれたというから驚く。バチ当たりな気もするが、以来この港では豊漁が続くというからもっと驚く。まったく神も仏もあったものだ。

2008/12/26(金)(村田真)

湯浅一郎 展/フランソワ・ポンポン

会期:12/13~4/5

群馬県立館林美術館[群馬県]

浅草から館林まで東武伊勢崎線の特急で1時間、そこからが遠い。最寄り駅は隣の多々良だがローカル線なので本数が少ないし、多々良駅からも歩いて20分かかるという。館林からバスも出ているが1時間に1本もない。結局タクシーで行く。なんでこんな自然豊かなというか荒野のど真ん中に美術館をつくったんだろう。1時間ほどいたが、ぼく以外たったひとりの観客にしか出会わなかった。そんなところへなぜぼくが行ったのかというと、もちろん湯浅一郎を見るため。湯浅はほぼ同年代の黒田清輝や藤島武ニらの活躍の陰に隠れがちで、作品もいまひとつ華やかさに欠けるが、どういうわけかフェルメールの絵を彷佛させるのだ。たとえば、室内の自然光を浴びた女性単身像が多いこと、彼女たちが編み物をしたり居眠りしたりしていること、背後に画中画や鏡が登場すること、そしてなにより、垂直・水平で構成される画面のなかに女性をポーズさせていること……。もちろんそんな興味で見に行くやつは約1名しかいないわけで、美術館側はこれ1本では約1名しか動員できないと思ったのか、展示室の後半はポンポンの動物彫刻のテーマ展示となっていた。湯浅とポンポン、強引な組み合わせだが、湯浅がパリに滞在していたとき、すぐ近くにポンポンのアトリエがあったという「縁」だそうだ。ムリヤリこじつけることもないけど。

2008/12/26(金)(村田真)

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石田徹也──僕たちの自画像展

会期:11/9~12/28

練馬区立美術館[東京都]

石田徹也の回顧展。時代順に作品を展示することで、石田徹也の「自画像」の変遷を丁寧に追っていく構成となっていた。一昨年の静岡県立美術館での回顧展と同様、今回も来場者が自由に書きこめるノートが会場に用意され、そこにはさまざまな思いが書き留められていた。

2008/12/26(金)(福住廉)

中村協子 展:初級英会話レッスン

会期:12月1日~12月28日

STREET GALLERY[兵庫県]

大阪でも個展を開催中だが、住吉の駅前の通りの小さなウインドウギャラリーで中村協子が発表している。顔のない人物の頭部を描いた同じ図版が21枚並び、一枚ずつに「what is this?」とか「his name is Mike.」とか、昔教科書で見た英語のフレーズが書き込まれている。必然的に言葉と絵との脈絡を掴もうとしてあれこれ考えてしまうが、それを考えるほどにイメージは掴めなくなって、わけがわからなくなってしまう。作品自体というよりも、そんな作家の目論みにまんまとハマる自分が可笑しい。馬鹿馬鹿しくて、知的なセンスがいつも光っていて、新しい発表を見に行くたびに中村協子のファンになっていく気がする。

2008/12/24(水)(酒井千穂)