artscapeレビュー
幕末明治の写真家が見た富士山 この世の桃源郷を求めて
2017年06月15日号
会期:2017/04/13~2017/06/30
フジフイルムスクエア写真歴史博物館[東京都]
入江泰吉、牛腸茂雄、奈良原一高など、主に日本の写真家たちの企画展を開催しているフジフイルムスクエア写真歴史博物館で、「幕末明治の写真家」の作品をフィーチャーしたユニークな展覧会が開催された。富士山はいうまでもなく古来日本人の心を強く捉え、詩歌や絵画の題材としても繰り返し取り上げられてきたテーマだが、幕末に日本に渡来した写真も例外ではない。今回の展示は、フェリーチェ・ベアト、日下部金兵衛、ハーバード・ポンティングが撮影した富士山の写真を中心に、水野半兵衛の珍しい「蒔絵写真」、小川一真、渡辺四郎らの作品を加えて構成されていた。
イタリア生まれで、幕末から明治初期にかけて横浜にスタジオを構えて活動したベアトは、その優れた撮影技術を駆使して、エキゾチックな富士山の眺めを巧みに捉えている。外国人のための土産物として販売されていた「横浜写真」の代表的なつくり手であった日下部撮影の富士山の写真は、隅々まで気を配って彩色された工芸品だ。1901年からたびたび日本を訪れ、何度も富士山を撮影しているポンティングは、むしろそのダイナミックで雄大な自然美を強調した。幕末から明治期にかけての「富士写真」に絞り込むことで、よくまとまった、中身の濃い展示になっていた。
ただ、いつも思うことだが、クオリティの高い企画が多いにもかかわらず、歴史博物館の展示スペースがあまりにも狭すぎる。今回の展覧会も、骨格を提示しただけで終わってしまった印象が強い。もう少し展示会場の面積を拡張できないのだろうか。なお、本展を監修したのは、2015年に『絵画に焦がれた写真 日本写真史におけるピクトリアリズムの成立』(森話社)を上梓した気鋭の写真史家、打林俊である。リーフレットに掲載された、彼の「いざ写し継がん、幕末・明治の写真家と不尽の富士」は行き届いた内容の解説文だった。
2017/05/04(木)(飯沢耕太郎)