artscapeレビュー
A-chan「Salt’n Vinegar」
2016年12月15日号
会期:2016/11/18~2016/12/04
POST[東京都]
日本で生まれ育ったA-chanがニューヨークに渡ったのは2007年だから、もう10年近くが過ぎた。そのあいだにロバート・フランクのアシスタント兼プリンター/エディターを務めるようになり、Steidl社から写真集『VIBRANT HOME』(2012)、『OFF BEAT』(同)を刊行した。今回は、やはりSteidl社から出た新作写真集『Salt’n Vinegar』にあわせての展示で、じわじわと胸の奥に浸透してくるような写真群が並んでいた。彼女のニューヨークでの充実した日々の様子が伝わってくる。
写っているのは、主に「大きな公園」の近くに住んでいるという彼女の周辺の光景である。ベンチに置き忘れられた「Salt’n Vinegar」の表示のあるポテトチップの袋、浮遊しているようなストローハット、公園の水たまり、蛇口から流れ出る水など。モノクロームとカラーが併用されているが、その移行は滑らかで澱みがない。写真を見ているうちに、彼女が鋭敏に反応しているのがtinyなものであることに気づいた。単に見かけが小さいとか、可愛らしいというだけではなく、儚さや脆さを含み込みながら、凛とした存在感を発するtinyな事物を、積極的にコレクションしているように思えてきたのだ。
写真集には日本で撮影されたものも含まれているようだが、「アメリカ在住の日本人」という、不安定だが開放感もあるポジションをうまく活かしていくことで、さらに自分の世界を深めていけるのではないだろうか。日本でも、もう少し彼女の存在が知られてくるといいと思う。小規模だが、そのきっかけになりそうないい展示だった。
2016/11/19(飯沢耕太郎)