artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

川原直人「クロノスタシス」

会期:2015/09/26~2015/10/24

タカ・イシイギャラリー[東京都]

写実絵画で知られる川原の裸体画が7点ほど。写真をそのまま引き写したフォトリアリズムのようでありながら、なにか違う。どこか古典的な匂いがする。でも西洋の古典と違って泥臭く、なんとなく懐かしい感じ。解説を読むと、明治期の洋画家、原撫松を意識したらしい。なるほど、この光、このポーズ、黒田清輝以前の脂色の油絵を想起させる。撫松が現代によみがえったらきっとこんな絵を描くだろう、という絵を実際に描いてみせた。

2015/10/21(水)(村田真)

小豆島来訪──ドットアーキテクツ《UmakiCamp》ほか

[香川県小豆島]

仙台から小豆島へ。朝の5時30分に出て、12時40分頃に到着する。前回の瀬戸内芸術祭で時間がなくなり、見逃した西沢立衛の曲げた大きな鉄板を組み合わせた葦田パビリオンや福武ハウスを見学する。アートのような建築だが、人々のふるまいを誘発する空間をもっていた。島田陽が手がけた公衆トイレは、きれいに維持されており、感心する。ドットアーキテクツが手がけたUmakiCampへ。300万円の材料費で、セルフビルドを行なったものであり、そこから逆算して、構造や工法、ディテールを決定している。自主建設だが、昔のような閉鎖的な砦とはならず、開放的な空間として地域の開かれたコミュニティになるところが現代的だ。また隣には、新しく森田一弥によるカマド小屋も増えていた。続いて、前に訪れたときはなかった美井戸(ビート)神社を見学する。ヤノベケンジ×ビートたけしの作品《ANGER from the Bottom》の上に、ジャッキアップで高さを調整できる大きな切妻平入の屋根が出現した。その造形は、弥生や神明造へのレファレンスだという。そして坂手港から出発したジャンボフェリーに乗船すると、その頂部にトらやんの彫刻が載っていた。

写真:左=上から、葦田パビリオン、福武ハウス、島田陽《おおきな曲面のある小屋(公衆トイレ)》、UmakiCamp、森田一弥《カマド小屋》 右=上から、ANGER from the Bottom、美井戸(ビート)神社、ヤノベケンジ《ジャンボ・トらやん》

2015/10/21(水)(五十嵐太郎)

ポール・コイカー「ヌード アニマル シガー」

会期:2015/10/03~2015/11/22

G/P GALLERY[東京都]

オランダの写真家、ポール・コイカー(Paul Kooiker 1964~)は、以前から気になる写真家の一人だった。肥満体の女性をモデルにした写真集『Heaven』(2012)など、ユーモアと観察力が結びついた独特の世界観の持ち主だと思う。今回のG/P GALLERYでの展示は、そのコイカーの日本で最初の個展であり、ハーグ写真美術館で2014年に開催された回顧展に出品された「Nude Animal Cigar」のシリーズから抜粋した作品を見ることができた。
タイトル通り、ヌード(例によってふくよかな女性たち)、動物園で撮影された動物や鳥たち、そして愛煙家である彼にとって愛着のある品物であるシガーの吸い殻の3つのテーマが、生真面目に撮影され、やや茶色がかった色味のモノクローム写真にプリントされて、図鑑のような趣で並んでいる。「3つのオブジェを3部構成のユニットとして組み合わせて、ケミカルな反応が引き起こされるインスタレーション」として提示するという意図が、明確に伝わってくるいい展示だった。
連想したのは、マン・レイ、J.アンドレ・ボワッファール、ハンス・ベルメール、ヴォルスら、シュレアリスムとその周辺のアーティストたちが1920~30年代に撮影した写真群である。彼らは無意識の領域にうごめく性的な欲望を、ヌードやオブジェに託して隠喩的に表現したのだが、コイカーも明らかにその系譜に連なる写真家といえるだろう。プリントのやや古風な雰囲気が、シュルレアリストの末裔という彼のポジションにうまくはまっているように感じた。

2015/10/20(火)(飯沢耕太郎)

プレビュー:「咲くやこの花芸術祭2015」より、現代美術の瀧弘子と文楽のインスタレーション「曾根崎心中」天神森の段

会期:2015/11/27

大阪市中央公会堂[大阪府]

将来の大阪を担うべき概ね40歳以下の芸術家に贈られる「咲くやこの花賞」。対象ジャンルは、「美術」「音楽」「演劇・舞踊」「大衆芸能」「文芸その他」の5部門で、これまでの受賞者は160組を超える。その受賞者たちが受賞翌年に成果を披露するのが「咲くやこの花芸術祭」だ。筆者が注目しているのは「美術」の瀧弘子。彼女は2012年に成安造形大学を卒業したばかりの新鋭だが、すでに多くの活動歴を持ち、美術関係者からの評価も高い。同祭では、絵画、映像、鏡などを駆使してポートレイト作品を投影する《写身(うつしみ)》を館内の特別室など各所に展示する(11/27~29)ほか、11月27日には文楽と共演して「曾根崎心中」より天神森の段を上演する。特に文楽との共演は、彼女にとって飛躍の契機となるだろう。どのような舞台を見せてくれるのか、期待が大きく膨らむ。

「咲くやこの花芸術祭2015」公式サイト http://www.sakuya-konohana.com/sakuya2015/

2015/10/20(火)(小吹隆文)

プレビュー:学園前アートウィーク2015──イマ・ココ・カラ

会期:2015/11/07~2015/11/15

近鉄「学園前駅」南エリア[奈良県]

関西を代表するニュータウンで、高級住宅街としても知られる奈良・学園前で、地域アートのイベントが行なわれる。会場は、近鉄「学園前駅」南側の邸宅、学校、公民館、美術館、ギャラリーなど7カ所。出品作家は、安藤栄作、伊東宣明、稲垣智子、マリアーネ、三瀬夏之介など14組だ。また、帝塚山大学、東北芸術工科大学、奈良教育大学による共同制作、地域の歴史をテーマにした写真展も同時開催される。一見豊かな環境に見える学園前だが、じつは少子高齢化や空き家問題が静かに進行しつつあるという。そうした問題をあぶり出し、意識を共有するために現代アートを用いるのがこのイベントの主旨である。過疎地でも大都市でもなく、「郊外」をクローズアップした点に、これまでの地域アートイベントとは異なる目新しさを感じる。

公式サイト http://gakuenmae-art.jp/

2015/10/20(火)(小吹隆文)