artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

東京ミッドタウン・アワード2015受賞作品展示

会期:2015/10/16~2015/11/08

プラザB1F展示エリア[東京都]

デザインとアートの2分野のコンペ。場所柄なのか、圧倒的にデザインコンペのほうがおもしろい。今年のデザインのテーマは「おもてなし」。羽根に国旗を印刷し、その国の言葉を話せる人が身につける「ことはね」、プチプチに浮世絵を印刷して包み紙にした「浮世絵プチプチ」、横書きしかなかったレシートを縦書きにした「縦書きレシート」、その上に載せればスマホや携帯に充電してくれる「充電ざぶとん」などがある。グランプリは「ことはね」(吉田貴紀+栗原里菜)、準グランプリは「浮世絵プチプチ」(でんでんたますこ)。アートはテーマなしで、ありえない超高層ビルを真上から俯瞰して描いた田島大介の《五金超大国II》や、ロッカーを地下室に見立てて小さな階段をつけ、奥に外の風景写真を貼った上坂直の《東京的遭遇:六本木》がようやく合格圏。あとは色やかたちの新奇さを狙った程度の作品だった。案の定、グランプリは田島で、準グランプリは上坂でした。

2015/10/19(月)(村田真)

杉田一弥×来田猛展「FLOWERS」

会期:2015/10/19~2015/10/24

ギャラリー白/ギャラリー白3[大阪府]

陶芸コレクターで華道家の杉田一弥が、自身が所蔵する器に花を生け、写真家の来田猛が撮影した写真作品として展示している。杉田は一昨年に同様の作品集『香玉』(青幻社)を出版しているが(写真家は木村羊一)、今回は写真家を来田猛に交代し新たなチャレンジを行なった。器の陶芸家は、鯉江良二、柳原睦夫、加藤委、熊倉順吉、滝口和男などで、杉田は彼らに挑むかのように斬新な花の造形を展開、来田は4×5の大判フィルムで撮影した後、高解像度でデジタルスキャンし、あえて大きなサイズでプリントしたものをアクリルマウントして見せている。実物より大きく引き伸ばされた作品は、その解像度と発色ゆえに新たな生命を吹き込まれており、生で見る生け花とは別種の感動があった。まさに器・花・写真が三位一体となった表現であり、きわめて上質なコラボレーションと言えるだろう。

2015/10/19(月)(小吹隆文)

ニューアート展 NEXT 2015「田中千智 展」

会期:2015/10/02~2015/10/18

横浜市民ギャラリー[神奈川県]

昨年、伊勢山に移転して初の「ニューアート展 NEXT」。今年選ばれたアーティストは、福岡の田中千智。なぜ福岡のアーティストが選ばれたかというと、もちろん才能ある作家を紹介するのに地域なんか関係ないともいえるが、それより彼女は2008年の第1回黄金町バザールのとき横浜に滞在し、2カ月間に黄金町界隈の住人107人のポートレートを制作、それを機に注目を浴びるようになったからだ。このことからもわかるように、彼女の資質のひとつは、ためらいなくサラサラッと早描きであることだ。ほかにも作品の特徴として、背景がほとんど黒く塗りつぶされていること、大半が人物画で、しかも正面から見た全身像が多いこと、そのためどこか寂しげであること、などが挙げられる。だから彼女の絵は一目見れば田中千智の絵だとわかる。これは大切なことだ。出品は《107人のポートレート》のほか、大半がここ2、3年の新作ばかり。驚くのは今年描いた100号を超える大作が13点もあること。9カ月間で、しかも出品されてない作品もあるはずだから、すごい生産力というほかない。

2015/10/18(日)(村田真)

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The Emerging Photography Artist 2015 新進気鋭のアート写真家展

会期:2015/10/13~2015/10/18

アクシスギャラリー シンポジア[東京都]

ジャパン・フォトグラフィー・アート・ディーラーズ・ソサイエティー(JPADS)が主催する第4回目の「新進気鋭のアート写真家展」が、東京・六本木のアクシスギャラリー シンポジアに会場を移して開催された。各大学の写真学科、写真専門学校の教員を中心としたノミネーターが、それぞれ参加者を推薦するというやり方も、ほぼ定着してきたようだ。今回の出品作家は浅田慧子、馬場さおり、陳程、橋岡慶嵩、岩佐・ジェームズ・スワンソン、小池莉加、今野竣介、李受津、毛宣恵、松本典子、山本圭一、吉田麻美の12名である。
既に第14回「写真ひとつぼ展」(1999年)でグランプリを受賞し、写真集『野兎の眼』(羽鳥書店、2011年)なども刊行している松本典子を除けば、現役の学生か、まだ卒業して間のない、文字通りの「新進気鋭」の写真家たちの作品が並んでいる。技術的には申し分なく、作品世界もしっかりと構築されている作品が大部分だが、はみ出していく若さやパワーはほとんど感じられない。おそらく出品者の選考法にも問題があるのではないだろうか。先生が学生を選ぶということになると、どうしても優等生が多くなるのは仕方のないことだからだ。
目についたのは陳程(チン・チェン 日本大学芸術学部卒業、中国出身)、李受津(イ・スジン 大阪芸術大学大学院在学中、韓国出身)、毛宣恵(マオ・シュアンフイ 日本大学芸術学部卒業、台湾出身)といった、アジア諸国からの留学生の作品である。表現意欲、技術、継続性において、彼らの作品は他の日本人写真家たちの多くを凌駕しているように見える。アジア各地の大学や専門学校の学生、出身者にも、選考の網を拡大していくなど、そろそろ一工夫が必要な時期に来ているのではないだろうか。

2015/10/18(日)(飯沢耕太郎)

ヴェネツィア展──魅惑の都市の500年

会期:2015/09/19~2016/02/21

名古屋ボストン美術館[愛知県]

長年にわたって美術に愛された水の都市とアートの関係をたどる。もちろん、宣伝で謳われているように、ティツィアーノ、カナレット、モネ、ブーダンらの作品をアメリカからもってきたのがウリだが、フォルトゥーニによるプリーツのファッション、小さな都市においてプライバシーを守るためのマスク、20cmありそうな高底靴、ムラーノ・ガラスのデザインにおける近代革命など、生活と風俗の展示も楽しめる。

2015/10/18(日)(五十嵐太郎)

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