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美術に関するレビュー/プレビュー

黄金伝説 展──古代地中海世界の秘宝

会期:2015/10/16~2016/01/11

国立西洋美術館[東京都]

地中海周辺に花開いたギリシャ、ローマ、トラキア、エトルリアなどの古代文明の金の装飾品がズラッと並ぶが、金にも装飾にも関心のない者には豚の耳に小判で、へーそーですかってなもんだ。関心があるのはギュスターヴ・モローの《イアソン》をはじめとする絵画。クリムトの《人生は戦いなり(黄金の騎士)》も出ているが、こちらは金箔が貼ってあるだけで絵としては平面的だし。どうせなら国内で調達せず、《ダナエ》か《ユディットI》か《パラス・アテナ》を取り寄せてほしかった。いや《接吻》でも《アデーレ・ブロッホバウアーの肖像I》でもいいけど。ちなみにダナエの絵も出てるが、自館所蔵のマルカントニオ・バッセッティという初耳な画家によるもので、ほとんど黄金の雨が目立たない。ティツィアーノかレンブラントみたいにハデに黄金の雨を降らせてくれよお。

2015/10/15(木)(村田真)

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淺井裕介「絵はどこから来るんだろう?」

会期:2015/10/03~2015/11/07

アラタニウラノ[東京都]

壁全面を黒く塗り、上からチョークなどで線描している。独特に様式化された動植物の装飾パターンは相変わらず。しかしこれはどうやって売るんだろう、と思ってよく見たら、その上に塗料を焼きつけたタブロー状の作品が10点ほど掛かっている。彼は売るもの(タブロー)も売らないもの(壁画)も手を抜かない。ただひたすら描く。

2015/10/13(火)(村田真)

佐藤克久「…けれど難しい事に、実はそれらすべてをすっかり忘れた時に出来るのである。このようにして描かれたものが傑作である。」

会期:2015/10/03~2015/11/07

児玉画廊[東京都]

恵比寿から徒歩徒歩と白金へ。意外に近い。白いキャンバスの四隅だけ絵具を盛り上げたり、黒地に白い線を引いたように実は白い線を残して黒く塗ったり、キャンバスの下辺と上辺を底辺として三角形を描いて重なる部分に色を重ねたり、あるいはマンガや記号のような絵もある。絵画の可能性をあらゆる方法で試そうとしている、というより、可能性を一つひとつつぶしていってるようにも見える。これは無限に楽しくてツライ作業だ。

2015/10/13(火)(村田真)

大西伸明 個展「ソノモノ Itself」

会期:2015/10/10~2015/11/07

MA2ギャラリー[東京都]

木の枝、2分割された頭蓋骨、ヤツデや睡蓮など。いずれも樹脂で型どりして白く塗り、内側を銀色というか鏡面仕立てにしたものだ。相変わらず見事な手技だが、以前のようなホンモノだと思ったらニセモノでしたみたいなトリッキーな効果は影をひそめ、よりコンセプチュアルになっている。水がいっぱい入ってるように見えるコップは透明樹脂の固まり。これはすばらしい。

2015/10/13(火)(村田真)

Prix Pictet ─ Consumption

会期:2015/10/03~2015/10/18

BA-TSU ART GALLERY[東京都]

Prix Pictetは、スイスの投資会社Pictet社が、2008年から主催している国際的な写真賞。環境問題とサステイナビリティを大きな柱として、「Water/水」「Earth/地球」「Growth/成長」「Power/力」「Consumption/消費」というテーマで受賞者を選んできた。2014年におこなわれた第5回目の「Consumption/消費」の審査には、66カ国の275名のノミネーターが推薦した700人以上の写真家が参加し、南條史生(森美術館館長)を含む8人の審査員が最終候補者を決定した。アダム・バルトス(アメリカ)、題府基之(日本)、リネケ・ダイクストラ(オランダ)、ホン・ハオ(中国)、ミシュカ・ヘナー(イギリス)、フアン・フェルナンド・エラン(コロンビア)、ボリス・ミハイロフ(ウクライナ)、アブラハム・オホバセ(ナイジェリア)、ミハエル・シュミット(ドイツ)、アラン・セクーラ(アメリカ)、ローリー・シモンズ(アメリカ)の11名である。東京・原宿のBA-TSU ART GALLERYでの今回の展示は、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館で開催された展覧会を縮小した巡回展である。
驚くべきことは、「食品」シリーズでグランプリを受賞したシュミットをはじめとして、最終候補者にダイクストラ、ミハイロフ、セクーラ、シモンズといった写真界の“ビッグネーム”が顔を揃えていることだ。彼らと題府基之やホン・ハオのような、若手の写真家たちが競い合う賞はなかなかないだろう。テーマ設定にも、「特に環境問題に世界の関心を向ける」という意図が貫かれており、ドキュメントとアートを融合するという方向性も明確である。第6回目のテーマは「Disorder/混乱」だが、今回からこれまでノミネートされた日本人のうち40歳以下の写真家を対象とする「Japan Award」も設けられ、南條史生、鈴木理策、笠原美智子、飯沢耕太郎の審査により、中国揚子江流域の「死体回収業者」をテーマとした菊池智子の「The River(河)」が同賞を受賞した。もっと注目されてよい企画だと思う。次年度以降の「Japan Award」の審査も楽しみだ。

2015/10/13(火)(飯沢耕太郎)