artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

奈良原一高「Japanesque 禅」

会期:2015/05/11~2015/07/04

フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]

奈良原一高の「JAPANESQUE(ジャパネスク)」は、彼の作品の中でもやや特異なシリーズといえるだろう。1966年に『カメラ毎日』に連載され、1970年に田中一光のデザインによる同名の写真集(毎日新聞社刊)にまとめられたこのシリーズは、「富士」「刀」「能」「禅」「色」「角力」「連」「封」の8章によって構成されていた。日本の伝統文化が被写体であることは、章のタイトルを見ればすぐわかる。だが、単純な「日本回帰」の産物というわけではない。奈良原はこの作品を発表する前の1962~65年に、パリを中心にヨーロッパに滞在していた。つまり「JAPANESQUE 」は、堅固に打ち固められた石造りの建物に代表されるヨーロッパの文化・風土にどっぷりと浸かって帰ってきた彼が、そのフィルターを通して再構築しようとした「日本」イメージの集積だったのだ。写真集『JAPANESQUE』所載のエッセイ「近くて遥かな国への旅」では「ヨーロッパを訪れて、僕ははじめて日本という国に出会ったのである」と書いている。
それは、今回フォト・ギャラリー・インターナショナルで展示された、「JAPANESQUE 」の中でも最も印象的な章の一つである「禅」の写真群(22点)を見てもよくわかる。曹洞宗の大本山である鶴見・総持寺での厳しい修行の様子を捉えた本作でも、ドキュメンタリー的な描写のあり方は、ハイコントラスト画像、超広角レンズ、ソラリゼーション、長時間露光などの特殊技法によっていったん解体され、むしろ無国籍的といえるような時空において、幻影とも現実ともつかない「JAPAN」としてふたたび組み上げられているように見える。文字通り、日本の伝統文化の批評的な再解釈であり、このような仕事は、奈良原以前にも以後にもほとんどおこなわれてこなかったのではないだろうか
「JAPANESQUE 」の視点は、いま見ても決して古びてはいない。それどころか、よりグローバルな無国籍化が進行した現在の社会・文化の状況を踏まえた新たな「JAPANESQUE」も、充分に可能なのではないかと思える。

2015/05/20(水)(飯沢耕太郎)

プレビュー: Konohana's eye #8 森村誠「Argleton ― far from Konohana ― 」

会期:2015/06/05~2015/07/20

the three konohana[大阪府]

書籍、新聞、地図などの印刷物上の特定の文字を、修正液で消す、カッターナイフで切り取るなどした作品で知られる森村誠。作品は気が遠くなるような作業の集積であり、我々の日常がおびただしい量の情報で埋め尽くされていることを暗示している。今回発表される新作は、情報の不確かさをテーマにしたもの。大阪を中心とした関西圏の様々な地図を活用し、2008年にグーグルマップ上で発見された実在しない英国の町「Argleton(アーグルトン)」のような状況を作り出そうと試みる。紙媒体に書かれた情報やその意味を積極的に変容させる点で、彼のこれまでの活動とは一線を画した新展開となる。

2015/05/20(水)(小吹隆文)

プレビュー:水田寛「中断と再開」、新平誠洙「windows upset」

会期:2015/06/09~2015/07/18

ARTCOURT Gallery[大阪府]

京都を拠点に活動する水田寛と、京都市立芸術大学大学院に在籍中の新平誠洙。ともに1980年代生まれで進境著しい2人の画家が、大阪のギャラリーで同時に個展を開催する。水田の作品は、個人的な記憶や経験に基づくモチーフが、現実的なスケールや遠近法の枠を超えて連鎖・複合を繰り返すのが特徴。複数の作品の組み合わせたインスタレーション的な展示や、絵の一部を切り取って別の絵と縫い合わせる手法も彼の得意とするところだ。一方、新平の作品はシャープでクールな画風が持ち味。ガラスに複数の情景が写り込んだかのように、幾つものモチーフが半透明かつ断片的に重なった作品や、同一モチーフを異なる視点・時間で切り取った作品で知られている。ともに多層的な時空間を描いているが、水田の作品が私的、抒情的であるのに対し、新平の作品は硬質で、光学的、デジタル的とも言える。ほぼ同世代の2人が見せる対照的な世界観を見比べられるのが、このダブル個展の醍醐味だ。

左:水田寛「中断と再開」、右:新平誠洙「windows upset」

2015/05/20(水)(小吹隆文)

日本とアメリカ合衆国の協同制作 宮本ルリ子 キャサリン・サンドナス

会期:2015/05/19~2015/05/24

ギャラリーすずき[京都府]

日米2人の陶芸作家が、両国にまつわる歴史をテーマにした作品を発表した。出品作品は6点。うち5点は本のオブジェで、透光性の高い信楽透土で成形した本の見開き部分にさまざまな色の砂がまぶされ、「9.11」(アメリカ同時多発テロ事件)、「3.11」(東日本大震災)などの日付が打たれている。他の日付は、真珠湾攻撃、広島と長崎への原爆投下、終戦記念日、サンフランシスコ条約締結などである。オブジェの表面に付着した砂は、それぞれの事柄が起こった場所で採集したものであり、残る1点の作品(皿)に盛って観客が触れる。本作のテーマは「歴史の共有」だが、特定の政治的・歴史的メッセージを声高に叫ぶようなものではない。むしろ沈黙をもって観客の内省に訴えかけるところがあり、空間を満たす深い静寂が印象的だった。

2015/05/19(火)(小吹隆文)

赤瀬川原平の芸術原論展 1960年代から現在まで

会期:2015/03/21~2015/05/31

広島市現代美術館[広島県]

広島市現代美術館へ。ヒロシマ賞の選考委員会の後、「赤瀬川原平の芸術原論」展を見る。ハイレッド・センターの活動、千円札事件、作家としての活躍はよく知られているが、それ以外についても、彼が「原平」となる以前の作品、漫画や表紙の仕事、収集癖、美学校におけるユニークな課題、ベタな風景画、ライカ同盟などの内容も、豊富な資料を使い、多面的に触れて、そのマルチタレントぶりを振り返る。当時の社会や政治に対する批評的な態度も興味深いが、いま彼のような活動は可能なのかと考えさせられる。

2015/05/17(日)(五十嵐太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00029946.json s 10112073