artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
ルーヴル美術館展「日常を描く──風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄」
会期:2015/02/21~2015/06/01
国立新美術館[東京都]
某文化センターの講座の最終回として見学。内覧会以来3カ月ぶりの訪問だ。会期終了まであと1週間なのでメチャ混みか、でも今日は特別開館日(ふだんは火曜休館)なので、そんな混んでないかも……などと思いながら着いてみると、そこそこ混んでるけど見られないほどではなかった。目玉のフェルメール《天文学者》の前に行くと鑑賞位置が2段構えになっていて、絵の前を通るので間近に見られるけど立ち止まれないというインコース、その外側からちょっと遠いけどゆっくり見られるというアウトコースの2コース制。もちろんインコースを何度回ってもかまわないし、インとアウトを行ったり来たりしてもいい。最近、このように見る人の多様なニーズに合わせ、同時に大量の観客をさばくために鑑賞方式を工夫するところが増えてきた。でもじっくり細部まで見ようと思ったらルーヴル美術館に行くのが一番。それがかなわなければ画集で見るのが二番。とくにフェルメールのような小さな作品は。
2015/05/26(火)(村田真)
百々武「海流」
会期:2015/05/20~2015/05/29
コニカミノルタプラザギャラリーC[東京都]
百々武は、2015年3月に赤々舎から写真集『草葉の陰で眠る獣』を刊行し、銀座ニコンサロンと大阪ニコンサロンで同名の個展を開催した。東京写真月間の特集「『島』 島は日本の原点」の一環として、コニカミノルタプラザギャラリーCで開催された個展「海流」はそれに続くもので、このところの彼の仕事の充実ぶりが伝わってくるものだった。
百々は2003年に訪れた鹿児島県の屋久島と種子島で、船で1時間ほどの近さなのにまったく異なる環境であることに驚き、「島」を基点にして日本列島をあらためて見直すというアイディアを思いつく。日本最南端の与那国島から北海道の利尻島、礼文島まで精力的に回って、2009年には写真集『島の力』(ブレーンセンター)を刊行した。だが、それ以後も「島」の撮影は続いている。今回の個展には、2003年3月撮影の屋久島から2014年12月撮影の大神島(沖縄県)まで、未発表の43点が並んでいた。
風景、人、モノを柔らかな眼差しで捉え、画面に配置していく百々のカメラワークは自然体で無理がない。豊かな諧調のモノクロームのプリントを見ていると、ゆったりとした空気感に包み込まれる。体内にしまい込まれていた懐かしい記憶に血が通って、少しずつうごめき出すような気がしてくるのだ。ただ、「島」はたしかにいいコンセプトだが、そろそろまとめ方を考えていく時期に来ているのかもしれない。単純に南から北へと写真を並べるだけではなく、それぞれの「島」の共通性と異質性を抽出し、新たな解釈でグルーピングしていく手続きが求められているのではないだろうか。
2015/05/26(火)(飯沢耕太郎)
高橋コレクション展 ミラー・ニューロン
会期:2015/04/18~2015/06/28
東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]
東京オペラシティアートギャラリーの高橋コレクション展「ミラー・ニューロン」へ。さすがに日本の現代美術を牽引した作家が勢ぞろいしている。ただし、この企画はすでに何度か開催しているので、高橋個人を軸に構成した内容をもっと見たかった(カタログはわりとそうなっているが)。会田誠と村上隆による屏風は、長谷川等伯が見る方向によって変わる三次元的なインスタレーションだったのに対し、平面的な作品である。
2015/05/24(日)(五十嵐太郎)
池本喜巳「近世店屋考」
会期:2015/05/20~2015/06/02
銀座ニコンサロン[東京都]
「見ること。観察すること。考えること」というのは、「20世紀の人間たち」で知られるドイツの写真家、アウグスト・ザンダーの写真家としてのモットーだが、池本喜巳の「近世店屋考」の展示を見ながら、この言葉を思い出した。優れた写真には、単純に被写体が写り込んでいるだけでなく、撮影者や観客の思考や認識をより深めていく萌芽が含まれているのではないかと思う。池本が1983年から続けている「個人商店」の店内の様子を克明に写しとっていくこのシリーズにも、時代や社会状況に押し流されながらも抗っていく人間の生の営みについて「考え」させる力がたしかに備わっている。
このシリーズは東京・虎ノ門のポラロイドギャラリーで「近世店屋考 1985~1986」と題して最初に展示され、2006年には同名の写真集(発行・合同印刷株式会社)として刊行された。だが、その後も8×10判、4×5判、デジタルカメラと機材を変えながら粘り強く撮影が続けられ、文字通り池本のライフワークになりつつある。今回の展示では、1983年撮影の「桑田洋品店」(鳥取県鳥取市)から2015年撮影の「橘泉堂山口卯兵衛薬局」(島根県松江市)まで41点の作品が並んでいた。使い込まれた店内のモノや道具の質感の描写も魅力的だが、一癖も二癖もありそうな店主たちのたたずまいには、次第に消えていこうとしているある種の人間像がくっきりとあらわれている。自分の仕事に誇りを抱き、あくまでも自分の好みを貫いて身の回りの時空間を組織していこうとした「20世紀の人間たち」の最後の輝きが、これらの写真には写り込んでいるのではないだろうか。
池本は1944年に鳥取市に生まれ、1970年代には植田正治の助手をつとめたこともあった。「近世店屋考」というタイトルは植田の示唆によるものだという。作風はかなり違うが、植田正治もまた山陰の地にあって、写真について「考え」続けた写真家だった。
2015/05/24(日)(飯沢耕太郎)
琳派四百年 古今展 細見コレクションと京の現代美術作家
会期:2015/05/23~2015/07/12
細見美術館[京都府]
琳派の祖とされる本阿弥光悦が洛北・鷹峯を拝領してから400年にあたる今年、京都市内では琳派400年にちなんだ多彩な催しが行われている。本展もその一つだが、必ずしも琳派にこだわった企画ではない。京都ゆかりの現代美術作家、近藤 弘、名和晃平、山本太郎が、細見コレクションから共演してみたい作品を選び、自作とのコラボレーションを繰り広げたのだ。近藤はセルフポートレイトの磁器オブジェを平安・鎌倉期の仏具と組み合わせるなどし、名和は鹿とカナリアをモチーフにした「Pix-Cell」を館蔵の《金銅春日神鹿御正体》や円山応挙の《若竹に小禽図》に並置させるなどした。また山本は、敬愛する神坂雪佳、中村芳中、鈴木守一といった琳派の画家たちと共演することにより、自身に内在する琳派的素養を明らかにした。「古」と「今」の共演がこれほど面白いとは。本展は、数ある琳派400年の催しのなかでもトップクラスの成功例と言えるだろう。
2015/05/23(土)(小吹隆文)