artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
スティル・ムーヴィング
会期:2015/03/07~2015/05/10
元崇仁小学校[京都府]
京都駅近くの崇仁地域といえば「パラソフィア」の内覧会で見たヘフナー/ザックスの作品があったところで、ちょっと妙な雰囲気の漂う場所だが、この一帯に京都芸大が移転する計画が進んでるらしい。その地域の小学校跡で行なわれた展示。石原友明崇仁ゼミがおもしろい。レオナルド・ダ・ヴィンチが使っていたといわれるデッサン箱(カメラ・オブスクーラみたいなものか?)を復元し、崇仁地域を写生して渡り廊下に並べているのだ。デッサン箱も別の教室に展示していたが、図画工作室だろうか、額縁入りの複製画がたくさん並んでいて、それだけでもインスタレーションとして成立しそう。ところで、校内には卒業生による共同制作などが残されているのだが、なぜかモザイク作品が多い。そうか、モザイクは無数の画素から成り立つので、大勢の人たちがつくりあげていく作業に向いているんだと気づく。展覧会とはぜんぜん関係ないけどひとつ発見した気分。
2015/05/08(金)(村田真)
ディズニー美術
会期:2015/04/28~2015/05/10
クンストアルツト[京都府]
著作権にうるさいディズニー社に挑戦するかのような、ミッキーや白雪姫などのディズニーキャラクターをモチーフにした作品を紹介する意欲的な企画展。出品は入江早耶、岡本光博、ピルビ・タカラ、高須健市、福田美蘭の5人で、作田知樹も文章で参加。圧巻は福田の《誰が袖図》。着物を掛けた衣桁を描く近世の「誰が袖図屏風」の形式を借りて、見覚えのある色とりどりのドレスや帽子や靴を描いたもので、キャラクターを登場させずに小道具だけで示唆するという高度なテクニック。のみならず、画面左下には殺伐たる砂漠の風景をあしらった屏風が描かれているが、これはふたりの日本人が殺害されたというシリア砂漠というから、およそディズニーワールドとは対極の世界観をぶつけているわけだ。これは力作。入江は『白雪姫』『眠れる森の美女』『ピーターパン』の3冊の絵本を消しゴムでこすり、出たカスを色分けしてそれぞれ白雪姫と意地悪な女王、王子さまとドラゴンに姿を変えたマレフィセント、ピーターとフック船長を合体させた3体の小さなフィギュアをつくり、こすりとられた絵本の前に置いた。その超絶技巧もさることながら、ディズニー特有の善悪二元論を茶化すような批評精神が秀逸だ。一方、みずから体を張ってディズニー社に挑んだのはピルビ・タカラ。彼女自身が白雪姫に扮してパリのディズニーランドに入ろうとしたら止められ、着替えるように指図されたというビデオを公開している。しかもまだ会場の外なのに。これは人権侵害ともいえ、明らかにディズニー社にとってマイナスイメージだ。そのほか、ネズミのシルエットを天地逆にしたようなマークを商標登録した高須、バッタもんのネズミ人形を集めてガマグチをつくった岡本など、きわめて真摯で充実した展示になっている。しかしじつのところこの展覧会、ディズニー社への挑戦というより、著作権に萎縮したり自主規制に走りがちなアーティストやメディアの姿勢を問うのが目的といえるだろう。
2015/05/08(金)(村田真)
スティル・ムーヴィング@KCUA
会期:2015/03/07~2015/05/10
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]
京都・大阪へ日帰りギャラリーツアー。まずは京都芸大のギャラリーでやってる「スティル・ムーヴィング」へ。ここでは金氏徹平、唐仁原希、清田泰寛、青木陵子+伊藤存ら内外で活躍する10組が約5メートルずつ壁面を使っている。木彫のケンタウロス像の首から上だけを彫り削った金氏の《見えない場所の神話(ケンタウロス)》、複雑な形態の骨組みにテントを張るようにキャンバスを張って、表面に抽象的パターンを施した清田の大作3点、自分のテリトリーだけ壁を赤く塗り、腰板をつけ、額縁をつけた絵画を飾って個展会場に仕立てた唐仁原に注目。
2015/05/08(金)(村田真)
石塚公昭「ピクトリアリズムII」
会期:2015/04/25~2015/05/09
Gallery and Cafe Hasu no hana[東京都]
江戸川乱歩、泉鏡花、永井荷風、谷崎潤一郎ら作家の人形を作り、彼らの小説の場面にあわせてインスタレーションして撮影する作品で知られる石塚公昭は、1990年代から古典技法のオイルプリントによる写真印画を制作しはじめた。きっかけになったのは、91年に東京都渋谷区の松濤美術館で開催された「野島康三とその周辺」展のカタログをたまたま目にして、野島の写真に衝撃を受けたためだという。オイルプリントは、画像を硬化・脱色してゼラチンのレリーフを作り、そこにインク(顔料)をブラシや筆で叩き付けるようにして塗布する技法である。大正時代の技法書をひもといて、手探りで制作しはじめたのだが、画像が何とか出てくるまでに数ヶ月を要したのだという。
今回は、江戸川乱歩、村山槐多などをテーマにした「作家シリーズ」に加えて、「ピクトリアリズムII
裸婦」シリーズが展示されていた。こちらの方が、まさに野島康三の作品世界のオマージュとしてきちんと成立しているように思える。独特の粘りつくような画像の質感に加えて、モデルの女性たちの風貌やたたずまいが、いかにも大正・昭和初期らしいのだ。1990年代と比較すると、ブラシの操作(インキング)の技術もかなり進歩し、スキャニングしたデジタルデータを印刷用フィルムに出力できるようになって、より大きな作品も制作できるようになった。
このところ、デジタル化の反動なのか、古典技法に目を向ける写真作家が増えている。だが、石塚の仕事はその中でもひと味違っているのではないだろうか。彼のイマジネーションの広がりと、それを形にしていくプロセスとが、ぴったりとはまっているように思えるからだ。このオイルプリントによる作品群も、まだこの先の展開の可能性がありそうだ。
2015/05/08(金)(飯沢耕太郎)
大分県立美術館コレクション展
会期:2015/04/24~2015/06/02
大分県立美術館[大分県]
大分県立美術館のコレクション展は、宇治山哲平をはじめとして企画展と連動する地元の作家たちを紹介する。企画展の冒頭において、ヘリット・トーマス・リートフェルトが入るなら、ここに大分が生んだ世界的な建築家、磯崎新も少し入れてよかったのではないだろうか。大分出身で、彼よりも国際的な知名度が高いアーティストはいない。ちなみに、美術館を設計した坂茂は磯崎アトリエにも所属していたことがある。
2015/05/07(木)(五十嵐太郎)