artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
LOST “number” UPDATE part.1
会期:2015/05/28~2015/06/03
ギャラリー エスパス・ビブリオ[東京都]
『number』は1972~75年にかけて、東京造形大学写真専攻の学生たちを中心にして発行されたミニマガジン(全11冊)である。学内がバリケード封鎖されて授業ができなかったので、高梨豊の乃木坂の事務所に毎週集まって「自主ゼミ」をおこない、コピー印刷(8号からはオフセット印刷)の小冊子を刊行していた。今回のギャラリー エスパス・ビブリオの展示には、川島敏生、島尾伸三、瀬野敏、西原敏弘、上松恵武、梅津秀の6人のメンバーが参加していた。
彼らの仕事は、1966年にアメリカ・ニューヨーク州ロチェスターのジョージ・イーストマンハウス国際写真美術館で開催された「コンテンポラリー・フォトグラファーズ 社会的風景に向かって」展を起点とする「コンポラ写真」の枠組みに入るように見える。当時、フォトジャーナリズム、広告写真、芸術志向の写真などの既成の写真表現のあり方を否定し、写真を撮り続ける根拠を自らの生と現実とのかかわりを「記録」していくことに求める若い写真家たちの営みが大きく広がりつつあった。たしかに、会場に並んでいるのは、「コンポラ写真」の典型といえそうな、日常をやや距離をとって見つめたスナップショット群である。だが、40年の時を隔てて見ると、一人ひとりのアプローチの違いも見えてくる。今は所在不明になってしまったという上松恵武の、群衆から特異な身振りの人物を嗅ぎ当てていく能力の高さや、グループの中で中心的な役割を果たしていた島尾伸三の、軟体動物のように伸び縮みする視覚のあり方など、若い写真家たちの中に芽生えつつあった個人的な体内感覚が、それぞれの写真の中からあぶり出されてくるように感じるのだ。彼らの仕事が、その後の写真表現とどんな風につながっていったのか、あるいは断絶したのか、より細やかな検証が必要になってくるだろう。
なお会場近くのギャラリーThe Whiteでは、川島敏生、島尾伸三、瀬野敏、西原敏弘が参加した「LOST “number”UPDATE part.2」展が開催され、彼らの現時点での写真を見ることができた。また展覧会にあわせて、5月29日には飯沢耕太郎×ホンマタカシ、31日には高梨豊×大日方欣一によるトークイベントが開催された。
2015/05/29(金)(飯沢耕太郎)
大英博物館展──100のモノが語る世界の歴史
会期:2015/04/18~2015/06/28
東京都美術館 企画棟企画展示室[東京都]
東京都美術館の「大英博物館展」へ。アーティストの自意識を見せる美術展と違い、いわばアートやデザインの境界にあるさまざまなモノたちが集合し、人類200万年の歴史をたどる壮大な企画だ。西欧中心ではなく、世界各地から100をセレクションし、それぞれに短いキャッチコピーをつけて、わかりやすく見せる工夫がなされている。なお、東京都美術館が選ぶ、独自の101番目は、坂茂による避難所で設置する紙管の間仕切りだった。
2015/05/27(水)(五十嵐太郎)
Le fil rouge(赤い糸展)
会期:2015/04/08~2015/05/31
エスパス ルイ・ヴィトン 東京[東京都]
表参道ルイヴィトンのエスパスの「赤い糸」展へ。これは圧倒的にタティアナ・トゥルヴェの作品がよかった。磁力を用い、天井から床に向かって、斜めに、かつバラバラの方向に張りつめた無数の糸の群れ。だが、糸の先端にある尖った金属は床に接触しない。宙に浮いているかのようだ。天井が高い、明るいエスパスの空間だからこそ、ダイナミックなインスピレーションとしてより魅力を増している。
2015/05/26(火)(五十嵐太郎)
ルオーとフォーヴの陶磁器
会期:2015/04/11~2015/06/21
パナソニック 汐留ミュージアム[東京都]
パナソニック汐留ミュージアムの「ルオーとフォーヴの陶磁器」展へ。第一章で鍵となる陶芸家アンドレ・メテを紹介し、第二章は画商ヴォラールの誘いで、陶磁器の絵に参加したフォーヴ(野獣)の画家(ヴラマンク、ドラン、マティス)による作品、そして第三章が同館の得意とするルオーという流れで構成されている。他のアーティストの作品と比較すると、陶磁器とルオーの作風は相性がよいことがわかる。
2015/05/26(火)(五十嵐太郎)
サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡
会期:2015/05/23~2015/08/30
原美術館[東京都]
原美術館にて、「サイ トゥオンブリー 紙の作品、50年の軌跡」展を見る。これまでに小さな企画展示は見たことはあったが、まとまった規模で半世紀の活動を振り返る展覧会は初めて。アルファベットの文字が崩れていくような線の戯れに始まり、線でとらえた世界、面の集積や重ね合わせ、華やかな色彩など、手法の展開をたどることができる。
2015/05/26(火)(五十嵐太郎)