artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
Under35──山下拓也
会期:2014/08/08~2014/08/20
BankART Studio NYK Miniギャラリー[神奈川県]
35歳以下の若手作家に発表の場を与える「Under35」シリーズ第1弾。暗いギャラリーに鳥にも似た異形のものたちが十数体、ブラックライトに浮かび上がる。なにかと思えば、かつて横浜フリューゲルスのマスコットキャラクターだった「とび丸」を模したものらしい。版木は巨木の根元をスライスした大きな板で、その表面を彫って紙にプリントし、それを切り抜いて組み立てたそうだ。だから版画でもあり、立体でもある。これはご苦労な力作だ。しかしなんでいまさら「とび丸」なんだろう。くまモンやふなっしーだったら生臭すぎるし、アートのモチーフとしてちょうどいい距離感なのかも。
2014/08/12(火)(村田真)
札幌国際芸術祭2014 3日目
会期:2014/07/19~2014/09/28
モエレ沼公園[北海道]
札幌国際芸術祭の3日目は、モエレ沼公園へ。ガラスのピラミッドに坂本龍一、武村真一らの展示を設置する。ハイクオリティの作品だが(プロジェクションでなく、小さな画面をつなぐ大画面のシステムも驚異的)、ICCを訪れたような雰囲気で、モエレ沼公園感は少し薄い。ただ、昨年時間切れで見落としたエリアを再訪するよい機会となった。
市内に戻り、狸小路7丁目に隣接する《茶月斎》にて、中華のランチ。五十嵐淳がインテリアをデザインしたもの。内側からエッジのある水平連続窓を演出し、カーテンでやわらかく仕切る。ふわっとした空間のパーティションは、五十嵐淳の大阪現代演劇祭仮設劇場を思いだす。大洋ビルの他店も雰囲気がいい。
残った時間は、北海道大学を散策した。農学校の建築群はあいにく保存の工事中で見学できなかったが、明治期からの近代建築が残るキャンパス、建築棟、教員食堂エルムの森、図書館前の庭などの環境がうらやましい。総合博物館、大学出版会、古河記念講堂、バイオサイエンス研究棟などの近代建築は意匠的にも興味深い。
今回、札幌の家以外は国際芸術祭のすべての会場を訪れたが、初めて見た場所はなく、ほぼ予想通りの会場だったので、美術館以外の作品展開は、もっと空間のポテンシャルを引きだせると思う。逆に無名の場所を発掘するのが、あいちトリエンナーレの街なか展開の特徴かもしれない。また札幌国際芸術祭のオフィシャル・ガイドブックは、けっこうセンスのある本で感心させられた。
2014/08/11(月)(五十嵐太郎)
宝塚歌劇100年展──夢、かがやきつづけて
会期:2014/08/05~2014/09/28
兵庫県立美術館[兵庫県]
前日、中学校の同期会のため伊丹のホテルに宿泊。朝、台風が近づくなかJR伊丹駅から神戸方面に向かうが、暴風雨のため目的の灘の一駅手前の六甲道で停車、そのまま待てど暮らせど動かず2時間近く足止めを食らう。JRに平行して走る阪神と阪急は動いているのに、暴風雨でそこまで歩けないし、タクシーもほとんど走ってない。たった一駅がこんなに遠いとは。仕方なく駅の近くで昼飯食って、びしょぬれになりながらタクシー拾って美術館へ。結局カネは3倍、時間は4倍ソンした。別にそこまでして見たい展覧会ではないんだけど、それに東京にも巡回するんだけど、ここまで来て見ないで帰るのはシャクだからね。でもこういうときの美術館は狙い目、客がほとんどいないからゆっくり見られる。さすがの宝塚展も、会場にいた1時間ほどのうちにわずか3組の客しか見かけなかった(その3組はどこからどうやってきたんだ?)。その代わり監視のおばちゃんがやたら多い。展示品が細々してるうえ、熱狂的ファンが少なくないから監視の目を光らせているのだろう。まあ宝塚展に限ってはほかの美術展と違い、観客が多いほうがにぎやかで楽しいかもしれない。展覧会は、劇団創立以来100年の歩みをたどりつつ、スターのポートレート、大道具小道具、衣装、ポスターなどを展示している。大道具などは近くで見るとチャチイものだが、衣装やポスターは有名デザイナーに依頼するなど徐々に進化を遂げているのがわかる。でも展覧会としてはアートとしての宝塚というより、一般のヅカファン向けの催しといった風情だ。そのため美術館の意地を見せようとしたのか、最後に小出楢重、小磯良平、小倉遊亀、中山岩太ら阪神モダニズムの作品を特集し、面目を保っていた。
2014/08/10(日)(村田真)
札幌国際芸術祭2014 2日目
会期:2014/07/19~2014/09/28
札幌芸術の森美術館、北海道庁赤れんが、清華亭、北3条広場[北海道]
札幌国際芸術祭の2日目は、霧の立ちこめる札幌芸術の森美術館へ。静謐なイメージは共有しつつ、道立近美の展示とは対照的に、いまの作家による新しい作品を中心に展開する。きれいにまとまった内容で、方向性はICC的+土着性という感じか。平川祐樹、栗林隆、宮永愛子、カールステン・ニコライ、松江泰治らが印象に残る。札幌芸術の森では、復原移築された有島武郎旧邸の2階にて、2作品を展示していたが、もっと空間との関わりをもてたら良かったように思う。もっとも、大正初期に建設された和洋折衷の旧邸が、建築もその歴史も面白い。有島が東京に移住してからは、北海道大学の寮などに使われ、廃寮で取り壊しの危機のとき、市民の保存運動が起こり、建物が生き残ったという。
昨年は芸術の森美術館まで行きながら、時間がなくパスした野外美術館に初めて足を踏み入れる。彫刻の森において、芸術祭で新作を足すのは厳しいと思っていたが、スーザン・フィリップスによる音の作品を既存の彫刻にかぶせるのは素晴らしいアイデアだった。常設では、ダニ・カラヴァンによる幾何学式庭園の伝統を継ぐ現代的ランドアートが良かった。
市街地に戻り、北海道庁赤れんが特別展示の「伊福部昭・掛川源一郎」展へ。ともに北海道と所縁のある作曲家と写真家にフォーカスをあてつつ、アイヌや中谷宇吉郎への補助線を引き、本展を補完する内容である。二台のピアノに見立てた楽譜の展示台のデザインがカッコいい。また掛川が10代の頃に自分で制作した本が超緻密だった。3月に見学したばかりの建築だが、毛利悠子の作品があるので、清華亭を再訪する。主に和室を使い、チ・カ・ホと同系統の作品群を設置していたが、圧倒的にこちらが素晴らしい。どこかとぼけて、かわいらしい、日用品たちが小さなエネルギーのサーキットをつくり、動いたり、光ったり。空間と絶妙な相性だった。
そして北3条広場で催された大友良英らのフェスティバルFUKUSHIMA! へ。あいちトリエンナーレのオアシス21に比べて、決して好条件とは言えない会場であり、遠藤ミチロウが病気で休み、また7月22日の能舞台に続き、運悪く雨だったが、イベントは決行され、盛り上がっていた。「ええじゃないか音頭」など、多様な要素をミックスした311以降の現代音楽がとてもいいと再認識する。
2014/08/10(日)(五十嵐太郎)
「キュレトリアル・スタディズ06:ヨシダミノルの絵画 1964-1967」講演会+現代家族パフォーマンス
会期:2014/07/16~2014/08/31
京都国立近代美術館 4F コレクション・ギャラリー内[京都府]
具体のメンバーの一員・ヨシダミノルの絵画における、時代感覚を改めて考え直す小企画。地元京都だけに資料の調査などが行われているよう。この日は、ヨシダミノル一家による「現代家族」によるパフォーマンスと、藤本由紀夫による講演会。藤本氏による、ヨシダのニューヨークでのパフォーマンスの解説では、特に、当時プラスチックという素材にいち早く着目していたことに触れ、サウンドアート、パフォーマンスの分野で斬新な発想をアイデアを振りまいていた憧れの存在だった、という紹介。「現代家族」は、ヨシダの残した言葉とともに、静かに、マグマのような衝動をゆっくりと振動させるような、ヘビーなパフォーマンスだった。
2014/08/09(土)(松永大地)