artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
サミュエル・ベゲット展─ドアはわからないくらいに開いている
会期:2014/04/22~2014/08/03
早稲田大学坪内逍遥博士記念博物館[東京都]
オープンキャンパスでにぎわう早稲田大を訪れ、演劇博物館、サミュエル・ベケット展「ドアはわからないくらいに開いている」の最終日へ。『ゴドーを待ちながら』の初演、ほかの作品の記録、あいちトリエンナーレ2013のパフォーミング・アーツ部門におけるベケット関連のプログラム、また戦地・被災地や日本におけるゴドーの受容が手際良くまとめられている。音や映像も楽しめる工夫がなされており、演劇の展示手法の可能性を感じることができた。
2014/08/02(土)(五十嵐太郎)
「たよりない現実、この世界の在りか」展
会期:2014/07/18~2014/08/22
資生堂ギャラリー[東京都]
銀座の資生堂ギャラリーで開催された、目の「たよりない現実、この世界の在りか」展が面白い。普段この場所がどういう状態かを知っている人ほど、その変貌ぶりに驚愕するような空間になっていた。いつもの入り口を降りると、階段がすでに配管がむきだしの工事現場のような状態に変わり、たどりつくとホテルの廊下が出現し、我が眼を疑う。基本邸には躯体に手を加えているわけではなく、インテリア・デザインなのだが、建築と切り離して、内装と表層のもちうる力を再認識する。
2014/08/02(土)(五十嵐太郎)
高木こずえ「琵琶島」
会期:2014/07/31~2014/09/16
キヤノンギャラリーS[東京都]
高木こずえは2012年に「琵琶島」と題する高さ12メートル、約300枚の写真から成るという巨大コラージュ作品を完成させた。東京工芸大学の本館に設置されたこの「琵琶島」は、でき上がってみると「遠い過去の遺跡のような、見知らぬ物体」に思えてきたのだという。今回、東京・品川のキヤノンギャラリーSでの「琵琶島」展は、その後日譚とでもいうべきもので、コラージュ作品「琵琶島」を形成する「あらゆる写真を観察し想像し再現することで生み出された写真」である。もともと「琵琶島」を制作するきっかけになったのは、高木が長野県北部の同地にある遺跡発掘調査にかかわったことであり、今回の試みはそうやってでき上がった作品の「再発掘」の試みといえそうだ。
今回の「琵琶島」は6層の写真群を下から上に積み上げる形になっていた。「1─「琵琶島」の制作に使われた写真、2-1をコラージュしていく過程で現れた断片の写真、3-完成した「琵琶島」の部分の写真、4-1、2、3から「琵琶島」の世界を想像し、それを再現しようと試みる中で生まれたモノたちの写真、5-1、2、3から想像したイメージを再現した写真、6-1~5を、油絵の具によって写し取った絵画の写真」という6つのパートが積み重なっているのだ。つまり、今回の「琵琶島」展はあるイメージが生成、定着していくプロセスを辿り直しつつ、さらなる未知の世界を探求しようという意欲的な試みで、床から天井まで貼り巡らされた6層、約300枚の写真で構成されていた。
プリントの大きさが同一であること、グリッド状の規則正しい積み上げ方、インクジェット・プリントの生っぽい色味とペーパーのつるつるとした質感など、これでいいのかと思う所はないわけではない。だが、たとえば「観察し想像し再現する」プロセスで突然出現してきた「お面」を思わせる男女の顔のイメージなど、「再発掘」が高木に与えた衝撃を追体験することができた。2011年に東京から故郷の長野県諏訪市に拠点を移してからの高木の活動は、考古学、民俗学、人類学などの知的な探求を取り込んで拡大していった。それがいま豊かな成果を生み出しつつあることがよくわかった。
2014/08/02(土)(飯沢耕太郎)
ART SHOWER 2014─SUMMER─
会期:2014/07/29~2014/08/17(公開制作)、2014/08/19~2014/08/31(展覧会)
海岸通ギャラリー・CASO[大阪府]
3週間の公開制作と2週間の展覧会からなる公募展。今回は5名の美術家(乾美佳、齊藤華奈子、水城まどか、安里知陽、吉田達彦)と1名の服飾クリエーター(gwai.)が参加し、招待作家としてスコットランドからメリッサ・ロージー・ローソンが来日した。海岸通ギャラリー・CASOで公開制作することのメリットは、バスケットボールやテニスができるほどの広大なスペースをひとりで使用できることだが、乾、gwai.、齊藤、水城はその特性を活かしてインスタレーション、服飾、立体の大作を制作。その結果、今回の「ART SHOWER」はこれまでで最もダイナミックな展示となった。特にgwai.が制作した超巨大なジーンズは、東京のお台場に立つ某有名キャラクター(全長18メートル)が着用することを前提にした破天荒なもので、本展終了後もプロジェクト化して実現を目指してほしいと思う。
2014/08/02(土)(小吹隆文)
画廊からの発言──新世代への視点2014
会期:2014/07/21~2014/08/02
ギャラリーなつか+コバヤシ画廊+ギャラリイK+ギャラリー現+ギャルリー東京ユマニテ+藍画廊+なびす画廊+ギャラリーQ+ギャラリー58+ギャルリーSOL+gallery21yo-j+ギャラリー川船[東京都]
真夏の炎天下、銀座・京橋の画廊を見て歩く。自由が丘のギャラリー21yo-jを含め、全12画廊のうち10画廊が女性作家に占められている。作品は版画や水墨画も含めて絵画が過半数を占めるが、よしあしは別にして“正統的なペインティング”といえるのは、コバヤシ画廊の朝倉優佳の具象的抽象画(いや抽象的具象画?)か。よくあるといえばよくある絵なのだが、けっこう大胆に、でもしっかり緻密に塗りたくられた画面は、まさにペインティングの醍醐味にあふれている。藍画廊の立原真理子は絵画と呼べるかどうか微妙だが、アルミサッシの網戸に糸で刺繍し風景を立ち上げている。網戸だから向こうが透けて見えるため、何点かは壁掛けではなく天井から吊っている。サッシを額縁に見立てれば、窓と絵画のアナロジーは明らかだ。東京ユマニテの佐竹真紀子は布や木にさまざまな色の絵具を塗り重ね、表面を削って色の層を見せている。技法としては珍しくないけれど、支持体が棺桶や神棚や引出しなど強い象徴性を持つものばかり。これが身近な人の死に触発されて制作したものだと聞いたとたん、地下2階のホワイトキューブのこのギャラリーが霊安室に見えてきた。ゾーン。以下省略。
2014/08/01(金)(村田真)