artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
松本泉 写真展「甲冑」
会期:2014/08/04~2014/08/09
コバヤシ画廊[東京都]
昆虫写真といえば自然環境の中での生態をとらえたクローズアップが多いが、松本泉のそれは黒バックの接写であるため標本のような客観性がある。躯体の形態や表面の質感、そして肉眼では見逃してしまいがちな細かい色彩。おおむね横向きの姿勢で撮影された昆虫たちの細部に眼を走らせると、そのようにして次から次へと発見があるのが楽しい。クワガタの表面があれほどざらついているとは知らなかった。まさしく肉眼を超える視覚体験である。
興味深いのは、その発見を美術との類縁性によって理解してしまうことだ。コガネムシやカナブンの光沢感のある表面は、釉薬をかけて焼いた陶磁器のようだし、カブトムシやクワガタの造形はダイナミックな彫刻のようだ。こうした結びつきは、何も美術という色眼鏡に由来するだけではないだろう。人間であれ自然であれ、世界の基本的な成り立ちには造形がある。そのことを体感できる展観であった。
2014/08/06(水)(福住廉)
ランドマーク・プロジェクトV──関本幸治
会期:2014/08/01~2014/11/03
関内周辺[神奈川県]
BankARTが企画したヨコトリの連携プログラムで、横浜市内の歴史的建造物や忘れられた場所にアートを挿入する試み。全部で8カ所あるが、今日見たのは馬車道のレトロなビルの壁に展示した関本幸治の肖像写真。和服を着た庇髪の4人の女性像だが、じつはこれ、フィギュアにキモノを着せて撮ったもので、すべて手づくりだという。これは手が込んでいる。約150年前の幕末、馬車道で下岡蓮杖が日本で最初の写真館を開いたというから、蓮杖へのオマージュにもなっている。でも風景に溶け込んでいて、注意しなければ写真作品だと気づく人は少ないんじゃないか。ましてそれがフィギュアであるなどとは。
2014/08/04(月)(村田真)
デュフィ展
会期:2014/08/05~2014/09/28
あべのハルカス美術館[大阪府]
競馬場、カジノ、音楽会、パーティー……、20世紀前半のパリや南仏ニースでのブルジョワ・ライフを、軽快な線と鮮やかな色彩で描いたのがラウル・デュフィだ。本展では彼の代表的油彩画だけでなく、テキスタイル、版画、家具、陶芸といった幅広いジャンルの仕事を展示しており、デュフィが独自の画風を構築する過程で何から影響を受けたのかを明らかにしていた。また、ペン画も多数出品されており、彼の線描の魅力を堪能できたのも収穫だった。デュフィが描いた華やかな世界といまの自分のしょぼい生活は正反対だが、人生を謳歌し肯定する彼の姿勢は見習いたいと思う。
2014/08/04(月)(小吹隆文)
七月あたりの堂東さんと桐月さんと宮田さん。
会期:2014/07/29~2014/08/03
ギャラリー恵風[京都府]
版画の3人の作品は、それぞれに個性があるし描いているものも違うのだけど、作品の並びも混ぜてあって、その境界はあいまい。似ているといったら身も蓋もないが(実際似ているのは、人柄なのだろう。たぶん)、淡水と海水が混じり合う場所のような感じで、このまとまりは、ユニットという感覚ともまた違う。ゆるいというのも安易(実際ねこがサッカーしてたりしてゆるいけど)。よく見るとタイトルも「七月あたりの」とぼんやりしてるし、じわじわくる。この感じは……ご近所さんと参加するお祭のような行事感覚に、近い。こういう行事が毎年予定されてるって、やるほうもいくほうも幸せです。来年の7月が楽しみになってきた。
2014/08/03(日)(松永大地)
加瀬才子──ドローイング展
会期:2014/05/17~2014/08/02
美術待合室[東京都]
尾山台の医院の待合室に作品を展示。10点足らずのドローイングながら1点1点緻密に描かれてることもあって、中身は濃い。画面を細かく埋めていくところは一見アウトサイダーアート風だが、狂人にはなりきれず、かといって天才にもなれず、不安定ながらもかろうじてバランスを保っているような絵。このような不穏なものを医院に飾っていいのか? 医院です。
2014/08/02(土)(村田真)