artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
絵画の在りか
会期:2014/07/12~2014/09/21
東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]
70年代、80年代生まれの若手の作家を紹介するものだが、いつもの展示とルートを変え、空間も全然違う使い方で新鮮だった。小西紀行ほか、すでに注目していた作家も何人か参加している。絵を拡張する松原壮志朗や南川史門、ダム絵画の横野明日香らも興味深い。
2014/08/23(土)(五十嵐太郎)
オープン・スペース2014
会期:2014/06/21~2015/03/08
NTTインターコミュニケーション・センター[ICC][東京都]
常設エリアの志水児玉の水の波紋でレーザー光のリフレクションが複雑にゆらめく作品が良い。現時点では、まだその映像をコンピュータが計算するよりも、水という自然現象に委ねるほうが早く精度が高いのだろう。「ひらめきとはてなの工場」展は、岡田憲一のピクセルファクトリーがアナログ感覚で楽しい。
2014/08/23(土)(五十嵐太郎)
たよりない現実、この世界の在りか
会期:2014/07/18~2014/08/22
資生堂ギャラリー[東京都]
うっかりしていた、今日が最終日だった。荒神明香とwahドキュメントらによるチーム「目」の展示。夕方、駆けつけてみたら、地下のギャラリーにいたる入口はドアで閉ざされ(普段ドアなんてない)、その前に行列ができている! こんなこと初めて。フェイスブックで話題になってるのかしら。「点検口」と記されたドアの前に立つスタッフが5人ずつ招じ入れている。階段からギャラリーまでのアプローチには工事中のようなインスタレーションが施され、これは期待できそう。ギャラリー空間は見事にホテル(の廊下)に変容していた。コの字型の廊下の左右に客室のドアがついていて、どれもノブは回るけど開かない。突き当たりの奥の部屋だけドアが開いていて、入るとベッドからテーブルから照明から客の服や荷物まで、客室を完璧に再現している。驚いたのは、壁の姿見から人が出てきたこと。鏡だと思ったら穴が開いてるだけで、向こう側に左右対称の部屋をしつらえているのだ。これはスゴイ。いやこれだけで終わってりゃスゴイで済むんだけど、まだある。廊下の途中に数段の階段があり、上ってみると、暗闇の中空に薄ぼんやりと発光する球体が浮かんでる。これを月か土星に見立てると風流かもしれないが、幸か不幸か2、3日前に広島市上空に赤い球体が浮かぶ模型を見てきたばかりの者としては、もっと恐ろしいものを連想せざるをえない。さらにここが地下に掘られたギャラリーであることを思えば、この地下ホテルが核シェルターのように見えてこないでもない。限りなく連想が膨らむ力作でした。
2014/08/22(金)(村田真)
ランドマーク・プロジェクトV──松本秋則
会期:2014/08/01~2014/10/31
横浜市庁舎1階[神奈川県]
関内駅前に建つ横浜市庁舎の吹き抜けロビーに、松本秋則による竹と紙のサウンドオブジェが据えられている。風力ではないけど、コンピュータ制御でもない、アナログなタイマーを使った装置から発せられる音は、フォンフォンフォン、シャラララーンと風鈴のように涼しげ。デジタル音にはない癒しの効果があるのだろう。その下のベンチにはヒマそうなおっさんたちが気持ちよさげにたむろってるが、ひょっとしたら「るっせーなー」と思ってるかもしれない。
2014/08/22(金)(村田真)
太田三郎 個展「POST WAR 69 戦争遺児」
会期:2014/08/11~2014/08/23
コバヤシ画廊[東京都]
「切手」で知られる太田三郎の個展。タイトルにあるように戦争遺児たちの肖像の切手作品を発表した。
それぞれのモノクロ写真と名前、そして戦後69年の「69」が記されている点は共通している。異なっているのは、切手シートの下欄に書かれた個人的なエピソード。太田が彼らに取材した内容が短い文章で的確にまとめられている。
心ならずも戦争遺児として戦後を生き抜いてきたそれぞれの歴史。そこには陰惨な差別への憤りや親の愛への渇望、戦争への憎しみが凝縮している。なかには、現在の悪化する日中韓関係や集団的自衛権の是非について言及している者もいる。当人の顔が切手に印刷されているので、あたかも当人がこちらに語りかけているように錯覚するほどだ。戦争体験者の声が、切手に載せられて、こちらに確かに届けられているのだ。
興味深いのは、この作品において太田本人の作家性が最小限まで切り詰められている点である。太田は、特定の彼らの声を特定のあなたへ届ける媒介物としての作品をつくってはいるが、しかし、制作者としての存在を主張しているわけではない。むしろ、両者の関係性を演出しつつも、両者が交通する瞬間には身を隠す、いわば「消滅する媒介者」なのだ。
歴史という関係性は途切れやすく、傷つきやすい。戦争遺児に関わらず、戦争体験者の声が届けられる機会は希少である。そのとき、アートに可能なことは限られてはいるが、太田の作品はひとつの有効なモデルを示した。
2014/08/21(木)(福住廉)