artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
佐藤時啓「光-呼吸──そこにいる、そこにいない」
会期:2014/05/13~2014/07/13
東京都写真美術館[東京都]
東京藝大の彫刻科を出た佐藤が写真に転じたのは80年代後半のこと。以後4半世紀以上にわたり一貫して、写真というものが光と時間の相関関係で成り立っていることを写真で表現してきた。佐藤自身が企画した展覧会名を借りれば「写真で(写真を)語る」ということになるが、しかし本人はそんな「写真のための写真」にとどまるつもりがないことは、展示のプロローグとエピローグに原発をモチーフにした旧作を据えたことからも明らかだ。この原発周辺に広がる光の点は、佐藤自身が手鏡で太陽光をカメラに向かって反射させた光跡なのだが、いま見ればまるで放射能に汚染された痕跡に見えてこないか。このように、佐藤の写真は手法的には手鏡やペンライトを用いて長時間の光跡を定着させるものだが、その場所は初期のニュートラルな藝大構内から、バブル期の東京、イタリアの遺跡、いわきの海、白神山地の森などへと移り変わり、少しずつ物語性を高めてきている。遺跡の前の光跡はまるで心霊写真のようだし、木の根元の光点は森の木霊に見えないだろうか。また手鏡やペンライトだけでなく、手づくりのカメラオブスクラや24穴のピンホールカメラを用いるなど手法も多様化しており、まるでニエプス以来の写真の歴史をひとりでたどり直そうとしているかのようでもある。実際、彼の写真にはホックニー、杉本博司、山中信夫、山崎博ら先達のエッセンスがいっぱい詰まっているのだ。たっぷり見応えのある展覧会。
2014/05/16(金)(村田真)
カタログ&ブックス│2014年5月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
アンディ・ウォーホル展 永遠の15分 Andy Warhol: 15 Minutes Eternal
2014年2月1日から5月6日に森美術館で開催された「アンディ・ウォーホル展 永遠の15分」の展覧会カタログ。展覧会では、700点におよぶ初期から晩年までのウォーホルの作品と資料が包括的に紹介された。
HAMArt!vol.8
BankART schoolの講座「アートの綴り方」の講師、美術批評家の福住廉が編集長を務めるフリーペーパー「HAMArt!」のvol.8。内容は展覧会レビューを中心に、前衛美術運動「THE PLAY」の主要メンバー三喜徹雄氏へのインタビュー、横浜美術館をはじめとする4つの美術館の館長室を訪問したものなどを掲載。
trans×form──かたちをこえる
2013年度夏のアーティスト・イン・レジデンスのテーマは、「変換する、変形する」などを意味する"transform"ということばを、"trans"と"form"に解体し、再び掛け合わせ"trans×form"とした。"trans"は「超える」「変換する」などを意味する接頭語で、"form"は「外形」「形式」「構造」などを意味する。各語の意味するところを様々に交換することで「形態を変える」、「形式を超える」、「様相を転換する」など多様な解釈が可能だ。[本書より]
中崎透×青森市所蔵作品展──シュプールを追いかけて
この本は、1年間に渡って行われたワークショップ「展覧会、つくらない!?」の記録集であると共に、その結果出来あがった中崎透×青森市所蔵作品展「シュプールを追いかけて」の展覧会カタログでもある。[本書より]
Exchange 種を植える
森の木、鳥やけものの声、水面に映る月の光。あらゆる被造物が混じり合い、ACACの円形宇宙に結ばれる。「Exchangeー種を植える」展は多くの手と心と知覚の交換によって宝をのこした。[本書より]
大人が作る秘密基地 屋外、ツリーハウス、リノベーション、シェアオフィスまで
建築、まちづくりにも役立つ! 自由な発想で場所と人をデザインする、大人版・秘密基地18の方法。これからの時代を生き抜くアイデアとヒント。創造力と心の拠り所になるコミュニティづくり。自分らしく生きたいと思ったら、自分のための空間を作ろう。その手順がこの本には詰まってる[本書帯より]
2014/05/15(木)(artscape編集部)
プレビュー:藤安淳「empathize」/藤安淳、宇山聡範、福田真知 グループ展「neo-824」
会期:2014/05/27~2014/06/07
2006年より行なわれている「824」という若手支援プログラム。今月から来月にかけて藤安淳による個展とグループ展が続けて開催される。藤安は2008年に双子の弟と自身を撮った作品で第一回塩竈フォトフェスティバル写真賞・大賞を受賞。アイデンティティや他者との関係性にアプローチする作品を撮影し続けている。今展では個別に撮影したほかの双子の写真を発表。個展のあと、続いて行なわれるグループ展「neo-824」には日常で目にする何気ない風景や空間を見つめた写真作品を発表している宇山聡範、記憶をテーマにした映像や写真を制作している福田真知が出品。どのような展示空間になるのか楽しみだ。
2014/05/15(木)(酒井千穂)
プレビュー:ALLNIGHT HAPS「ミッドナイトサマーシアター」
会期:2014/05/03~2014/08/31
HAPSオフィス1F[京都府]
京都で活動する若手アーティストの「よろず相談窓口」としてさまざまな支援活動を行なっているHAPS(東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス)。オフィスの1階スペースでは19持から翌朝まで展示が行なわれ、夜間に道路から作品鑑賞ができるようになっている。今月から、向井麻理の企画による「ミッドナイトサマーシアター」という映像作品の上映プログラムが始まっている。出品作家は、荒川智雄、ひらのりょう、MARK、映像配信てれれ、fuzitama、最後の手段、山本麻紀子、伊藤存+青木陵子。各作家ごとに展示期間が割り当てられていて、いっぺんに複数の作家の作品を見られるものではないが、どれも面白そうで何度も足を運びたい。ワークショップも開催されるので今後のスケジュールをチェックしておきたい。
2014/05/15(木)(酒井千穂)
プレビュー:土田世紀全原画展──43年、18,000枚。
会期:2014/05/31~2014/08/31
京都国際マンガミュージアム[京都府]
2012年に、43歳の若さで急逝したマンガ家・土田世紀。時代とともに構成された会場で遺された18,000枚という膨大な原画をすべて展示するかつてない試み。本展に合わせて未発表作品集などが収録された記念本『SEIKI』も発売となる。「マンガミュージアム、あってよかったな」と思う瞬間。
2014/05/15(木)(松永大地)