artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
幸福はぼくを見つけてくれるかな?──石川コレクション(岡山)からの10作家
会期:2014/04/19~2014/06/29
東京オペラシティアートギャラリー[東京都]
入口を入るといきなりスタッフに名前を聞かれたので、答えると「村田さーん」と叫ばれる。一瞬なんなんだと思ったけど、これも作品のひとつと理解する。岡山の石川康晴氏が集めたおもにコンセプチュアルな作品を紹介する展覧会。以下、ペーター・フィッシュリ+ダヴィッド・ヴァイス、ライアン・ガンダー、リアム・ギリック、島袋道浩、小泉明郎らの映像や言葉による作品(らしからぬ作品)が続く。作品そのものに感心するより、こんな作品をコレクションするほうに感心するし、それを発想するアーティストや売りつけるディーラーにも感心する。ほとんどペテン師と紙一重じゃね? 唯一笑えたのは、壁面の中央に眼球と眉毛を埋め込み、観客が近づくとキョロキョロ動くライアン・ガンダーの《マグナス・オパス》(直訳すると「偉大な作品」?)。ちなみに、入口で名前を叫ぶのはピエール・ユイグの《ネーム・アナウンサー》で、鑑賞ガイドには「パフォーマンス:入口に人、指示書」と記載されている。この場合コレクションされているのは「指示書」だけだろう。これなら倉庫も必要ない。
2014/04/26(土)(村田真)
オランダ・ハーグ派 展
会期:2014/04/19~2014/06/29
損保ジャパン東郷青児美術館[東京都]
19世紀後半、バルビゾン派の影響を受けてハーグで活動した画家たちの作品展。本家バルビゾン派のミレーから、ゴッホ、初期のモンドリアンまで幅広く集めており、また、ゴッホの伝記に出てくるマウフェとかラッパルトといった画家たちの実作にも触れられるいい機会だった。おもしろいのは、低地のオランダだけに地平線か水平線が延びる横長の風景画が多いこと。空は文字どおり空(くう)なので、大地(または海原)という面がはるか向こうまで横たわっている。それが最後のモンドリアンになると面が立ってくるような錯覚に陥る。ここには出てないが、その後のモンドリアンの抽象画は《ブロードウェイ・ブギウギ》がそうであるように、おそらく垂直に立ち上がった地面なのだ。ホントか?
2014/04/26(土)(村田真)
田中信太郎、岡崎乾二郎、中原浩大「かたちの発語」
会期:2014/04/25~2014/06/22
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
1940年生まれの田中、55年生まれの岡崎、61年生まれの中原という少しずつ世代の異なる3人の展覧会。3人展といってもひとりほぼ1フロアずつ使い、大作をドーンと置いたりしているので、三つの大個展といってもいい。カタログもひとり1冊ずつつくってるし。でも三つの個展だけど、それぞれ世代やスタイルを超えて共通するものも見えてくる。それはひとことでいえば、作品の得体の知れなさ、わかりにくさだ。とりわけわかりやすい(わかりやすすぎる)作品ばかりがはびこり、もてはやされる現代にあって、この不躾ともいえるくらいの晦渋さは懐かしさを覚えるほど貴重だ。このわかりにくさはおそらく、70-80年代に訪れたモダニズムの終焉を見届け、その荒野から(再)出発せざるをえなかった彼らの悪戦苦闘ぶりに由来するかもしれない。つまり、いったんリセットされてゼロに等しい地点に立ったときになにができるか、なにから始めればいいのかという問題。それを同展は「かたちの発語」というタイトルに込めている。赤ちゃんが生まれて初めて意味不明の音声を発語するように、彼らの「かたち」も意味が生まれる以前の限りなくゼロに近いところから発せられてるのではないかと。このような不穏ともいえる作品体験はここ20年ほど久しくなかったなあ。これは美術館級の、いや、いまどきの美術館ではとうていやれない、おそらくBankARTでしか実現できない壮挙というべきだ。
2014/04/25(金)(村田真)
勝正光「Pencil drawing exhibition #1」
会期:2014/04/12~2014/04/27
island MEDIUM[東京都]
大分県別府市の「清島アパート」で暮らしながら制作を続けている勝正光の個展。巨大な紙の上に鉛筆を走らせ一面の全体を黒く塗りつぶす作品を発表した。
その表面は漆黒の「黒」というより、むしろ光沢を放った「銀」。作品の前に立った人影を反映するほど黒鉛を支持体に強く塗り込めている。平面でありながら鋼のような硬質のマチエールが眼に沁みる。しかも同じ要領で支持体を塗りつぶしながら、その黒い画面の奥にエルメスのカレの文様が畳み込まれた作品もある。一見しただけではわかりにくいが、視点を変えて見ると有機的な模様が浮かび上がるという仕掛けがおもしろい。こうした工夫はややもすると全体の印象が図像のほうに引き寄せられがちだが、鉱物的な物資感が絵画的な図像の突出を絶妙に封じ込めている。
おそらく黒鉛を塗り込めるというシンプルな身ぶりだからこそ、あえて図像を混入させることで、その基本的な強度を試してみたくなるのではないか。自分で自分を追い込み、限界を突破していく。勝正光の黒い画面の奥には、昨今の若いアーティストには見受けられなくなった特徴も見通すことができるのである。
2014/04/24(木)(福住廉)
亀谷彩「うみつちひとそら」
会期:2014/04/15~2014/04/27
ギャラリー恵風[京都府]
「逆さまの世界」をテーマにした亀谷彩の漆芸作品。舟底に木の根がのびていたり、梯子の一番下の段に三日月があったり、展示された漆のオブジェはどれも宙に浮かぶように軽やかで、空間的な広がりを感じさせる。漆表現の奥深さもさることながら、風が吹いたら流されてしまいそうな繊細なイメージをかたちにする作家の豊かな想像力と表現力にも魅了された個展。
2014/04/24(木)(酒井千穂)