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美術に関するレビュー/プレビュー

超絶技巧! 明治工芸の粋──村田コレクション一挙公開

会期:2014/04/19~2014/07/13

三井記念美術館[東京都]

「これぞ明治のクールジャパン!!」「村田コレクション一挙公開」とあるが、うちのおじいちゃんのお宝ではない。村田理如氏の収集した京都の清水三年坂美術館のコレクションだ。中身は牙彫から刀装具、自在、漆工、印籠、薩摩、刺繍絵画、七宝、金工まで多彩。牙彫とは象牙を彫って彩色したもの、自在は鉄の部品を組み合わせて自由自在に体を動かせる動物彫刻、薩摩は細密な絵付けを施した焼き物のこと。どれもこれもスゴイ。植物の蔓や葉っぱ、虫の脚や触覚まで彫り倒した牙彫や、1平方センチ内に数十の花や鳥を描き倒した七宝など、明治職人の気迫と執念に舌を巻く。芸術性やデザイン性に走るいまどきの「工芸」にはないキワモノ的ないかがわしさまで感じられる。伝統を残すなら、鯨食よりこうした超絶技巧をこそ残し伝えていくべきだ。まあ象牙を使う牙彫は鯨食と同じくなくなっても仕方ないけど。

2014/04/23(水)(村田真)

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奥村博美 展

会期:2014/04/22~2014/05/04

ギャラリーマロニエ[京都府]

ベテラン陶芸家の奥村博美が、《火焔器》と題した新作10点を発表した。燃え盛る炎のようなフォルムとメタリックな色合いを持つ本作は、ひとつまみの粘土を平たくして次々に貼り付ける手法で造形されており、無数の突起と穴を持つのが特徴だ。また、長石と錫と鉄を独自の比率で配合した釉薬と、「還元」という焼成法を用いることにより、エナメル質の光沢と土色が混じった独自の発色に成功している。本作は胴体に無数の穴があるため実用には不向きだ。彫刻的な造形性からもオブジェと見なすのが妥当かもしれない。しかし、その条件を考慮したうえで他ジャンルのクリエーター、たとえば華道家や茶道家と共演すれば、きっと面白い効果を発揮するだろう。

2014/04/22(火)(小吹隆文)

桑原甲子雄の写真──トーキョー・スケッチ60年

会期:2014/04/19~2014/06/08

世田谷美術館[東京都]

1993年に世田谷美術館で開催された桑原甲子雄と荒木経惟の二人展「ラヴ・ユー・トーキョー」は、とてもエキサイティングな展覧会だった。同じ世田谷区在住ということだけでなく、荒木の母校である都立上野高校の前身は、桑原が卒業した市立二中だったという不思議な縁もあるこの二人の写真家は、東京の街をずっと撮り続けてきた。だが彼らのスナップ写真は、似ているようでかなり肌合いが違う。荒木の能動的に仕掛けていくような写真に対して、桑原は徹底して受け身の姿勢でシャッターを切っている。その結果として、桑原の写真には、戦前から戦後の高度経済成長期、さらにバブル崩壊の次期に至る東京の空気感が、そのままリアルに写り込んでいるように思えたのだ。荒木のけれん味のある作風と比較すると一見地味だが、桑原の写真には誰もが既視感を覚えてしまうような、柔らかな包容力を感じとることができた。
今回の「桑原甲子雄の写真──トーキョー・スケッチ60年」展は、それから20年あまりを経た回顧展である。昨年末に代表作を集成した『私的昭和史』(上下巻、毎日新聞出版局)が刊行されるなど、没後7年あまりを経て、いまなお彼の写真のみずみずしい鮮度が失われていないことを確かめることができた。今回展示された約220点の作品のほとんどは、「ラヴ・ユー・トーキョー」展の前後に世田谷美術館に収蔵されたものである。だが、写真集、雑誌などの資料展示が充実しているだけでなく、ほぼ初めて公開された作品もある。そのひとつ、スライド上映された「カラーのパリ」(1978)のシリーズを見て、桑原ののびやかなカメラワークによって、出来事が、明確な形をとる前の未分化な状態のまま、生々しく写り込んでいることにあらためて驚かされた。アンリ・カルティエ=ブレッソン流の「決定的瞬間」の対極とも言えるその感触は、桑原の写真に独特のものに思える。

2014/04/22(火)(飯沢耕太郎)

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「ヨコハマトリエンナーレ2014」第4回記者会見

会期:2014/04/22

横浜美術館レクチャーホール[神奈川県]

前回、作家アーティストが7組しか発表されなかったんで心配したけど、今回新たに55組を加え、なんとか体裁を整えてきた。新たに決まったのはマレーヴィチ、マグリット、ウォーホル、松本竣介、松澤宥など物故者ばかり、ではなくもちろん現役もいる。ヴィム・デルボア、サイモン・スターリング、グレゴール・シュナイダー、やなぎみわ、笠原恵実子、大竹伸朗など。この顔ぶれから「華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」というテーマが浮かび上がったのではなく、まずテーマを設定し、それに沿って人選が進められていったようだ。だから個々のアーティストは森村がつくりあげる物語に奉仕する要素ともいえなくもない。もう展覧会全体が森村の壮大な作品になるんじゃないか。それはそれで楽しみではあるが。

2014/04/22(火)(村田真)

魅惑のニッポン木版画

会期:2014/03/01~2014/05/25

横浜美術館[神奈川県]

開館25周年を記念する展覧会……のわりに木版画だけに絞った、しかも自館のコレクションをベースにした地味な展示。だからタイトルだけでも「日本」ではなく「ニッポン」にして、おまけに「魅惑の」をつけて客を呼ぼうとしたのか、などと邪推はしない。展示は、江戸末期の歌川豊国(三代)あたりから月岡芳年、小林清親、竹久夢二、川瀬巴水、柄澤齊、風間サチコあたりまで200点以上ある。このなかで、サイズといいテーマといい見せ方といい、よくも悪くも木版画の概念を踏み外し、トリックスター的役割を果たしてるのが最後のほうの吉田亜世美と風間サチコのふたり。もはや「魅惑の木版画」という枠を破壊してしまっているのだ。ちなみにこのふたりの作品は大半が個人蔵となっているけど、横浜美術館がまとめて買っちゃえば?

2014/04/22(火)(村田真)

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