artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス
会期:2014/03/21~2014/05/11
千葉県市原市南部地域[小湊鐵道上総牛久駅から養老渓谷の間]、中房総エリア[茂原市、いすみ市、勝浦市、長柄町、長南町、一宮町、睦沢町、大多喜町、御宿町][千葉県]
いちはらアート×ミックスをまわる。南端の養老渓谷駅から北上したが、小湊鉄道を積極的に使うコンセプトゆえか、クルマでまわると、駐車料金が相当かさむのが辛い。市原湖畔美術館と旧里見小学校の作品が良かった。ベストは月崎駅の木村崇人による《森ラジオ ステーション》である。駅員の詰所を改造した、緑に覆われた奇蹟の空間だ。スマイルズのわっぱやAAAのCamp!など、食も楽しめる。越後妻有に比べると、全体のエリアは小さく、思ったよりもコンパクトにまわることができる。ただ、電車とバスですべて乗り継ぐと、それはそれで大変そう。なお、各駅舎や電車はかわいらしく、見る価値はあった。
2014/05/02(金)(五十嵐太郎)
北井一夫「村へ」
会期:2014/04/25~2014/05/31
ツァイト・フォト・サロン[東京都]
欧米のアート・マーケットでは、ヴィンテージプリントの価格が高騰している。言うまでもなく、撮影されてすぐに印画紙に焼き付けられ、そのまま時を経て現存しているプリントのことだ。希少価値はもちろんだが、撮影当時の空気感を生々しく感じられるものが多く、写真作品のコレクターの間では人気が高い。日本の写真家たちの1960~70年代のヴィンテージプリントも、欧米のコレクターたちにとっては垂涎の的のようだ。ちょうど前回の橋本照嵩展に続いて、今回の北井一夫展も「全てヴィンテージプリント」の展示だったのが、ちょっと面白いと思った。僕自身はヴィンテージ絶対主義者ではないが、コレクターたちの心理も充分に理解できる。ややセピア色に褪色したりしているプリントの前に立つと、その中に強い力で引き込まれていくように感じるからだ。
もっとも、それが北井一夫の「村へ」の展示だったことも大きな要素ではあるだろう。彼が1970年代前半に『アサヒカメラ』に連載し、75年に第一回木村伊兵衛写真賞を受賞したこのシリーズは、いま見てもいぶし銀の輝きを発している。人物を突き放すように、やや距離を置いて画面の中心に置き、周囲を大きくとって村の環境を細やかに写し込んでいくスタイルは、当時多くの写真関係者を驚嘆させたものだ。一見無造作なようで、そこには北井の写真家としての周到な配慮があり、当時急速に解体しつつあった村落共同体のありようを、哀惜を込めて写しとっていくにはそのやり方しかなかったことが伝わってくる。その名作を35点のヴィンテージプリントで見ることは、他に代えがたい歓びを味わわせてくれる視覚的体験だった。
2014/05/01(木)(飯沢耕太郎)
三瀬夏之介 風土の記─かぜつちのき─
会期:2014/03/09~2014/05/11
奈良県立万葉文化館[奈良県]
本展は今年3月から行なわれていたが、気が付いたらゴールデンウイークまで見逃していた。会場へのアクセスにやや難があり敬遠していたのだが、あやうく見逃すところだった。われながら反省しきりである。本展の作品数は、《君主論》《ぼくの神さま》《だから僕はこの一瞬を永遠のものにしてみせる》などの代表作に、新作《風土の記》を加えた16点。美術館の企画展で16点は少ないと思うかもしれないが、三瀬の作品は長辺7、8メートルが普通という巨大なものであり、16点でも十分すぎるほどだった。また、彼の仕事は全体でひとつとも言え、各作品が有機的な関係性を保ったまま永遠に増殖するかのような性質を持っている。巨大な展示空間を持つ同館だからこそ、三瀬の世界を示せたと言えるだろう。筆者はデビュー時から三瀬の作品を見てきたが、彼が東北に移住して以降は機会が減っていた。本展で日頃の欲求不満を解消できたが、同時に、彼は高い所に行ってしまったと、一抹の寂しさを覚えたのも事実である。
2014/04/30(水)(小吹隆文)
中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス
会期:2014/03/21~2014/05/11
市原市南部エリア[千葉県]
なぜか吉祥寺発のバスツアーに参加。天気もよく、しかもGWの幕開けとあってアクアラインの手前で渋滞、帰りはもっとひどい渋滞に巻き込まれ、結局往復7時間かかった。まず最初に向かったのはダム湖のほとりに立つ市原湖畔美術館。リン・テンミャオは、骨格見本などを組み合わせた作品に市原市内の学校教材を加えてオブジェを制作。アルフレド&イザベル・アキリザンはダム湖に沈んだ村をイメージし、ひっくり返したボートの下に数千もの段ボール製の建物を吊るした作品を展示している。どちらも過疎化で統廃合が進む学校や生徒たちとのコラボレーションを強調している点が、先行する越後妻有や瀬戸内のプロジェクトと被っていて「またか」という感じ。バスのなかから高滝湖に浮かぶ飛行機をながめる。ボートで乗りつけて釣りもできるKOSUGE1-16の作品だが、マレーシア航空機や韓国の旅客船沈没事故が記憶に新しいだけに、タイムリーというかなんというか。
旧里見小学校へ。ここには10組ほどの作品があるが、目を引いたのは、教室をお菓子やそのパッケージで埋め尽くしたり(滝沢達史)、校長室を丸ごとマイナス30度にフリーズしたり(栗林隆)、美術室の壁や天井までびっしりと名画のコピーで埋めたり(豊福亮)、子どものころやりたくてもできなかったタブーを実現させた、いわば「学校への逆襲」ともいうべきプロジェクトだ。弁当を食べながらバスに揺られて小湊鉄道の上総牛久駅に行き、ここから養老渓谷駅までのあいだ列車内で上演する指輪ホテルの演劇『あんなに愛しあったのに──中房総小湊鐵道篇』を見る。小湊鉄道では80年代にサティ弾きの島田璃里さんが列車内にピアノを持ち込んで「演奏旅行」したことがあり、ぼくはそのとき初めて小湊鉄道に乗ったのだが、約30年ぶりに同じ鉄道内でパフォーマンスを見ることになった。演劇自体はともかく、車内照明をつけずにトンネルを走り抜けたり、ドラマに合わせて警笛を鳴らしたり、かなりムチャなことをやっていた。
上総大久保駅で下車し、旧白鳥小学校へ。ここでも複数のアーティストがインスタレーションを見せているが、注目すべきは吉田夏奈の《もぐら》。壁の穴を抜けて暗い階段を昇っていくと穴の開いた天井があり、上まで昇って振り返れば、天井の上面に菜の花畑が描いてある。つまり観客がモグラになって地中を進み、菜の花畑から顔を出すという仕掛けなのだ。菜の花もモグラも市原の名物(?)らしいが、そのふたつの要素を使い、階段という立体構造を生かしながら観客にモグラ気分を体験させ、最後にニヤッとさせる。これはいい。このあと養老渓谷で見た開発好明の《モグラTV》とともに本日のベスト作品賞だ。《モグラTV》は畑に穴を掘って地下スタジオをつくり、ゲストを呼んで生放送を配信するというプロジェクト。会期中作者はモグラの着ぐるみを着て穴のなかで待機し、人がたずねてくると顔を出す。モグラのくせに顔が日焼けしてるのはそのせいだ。モグラというあまり歓迎されない地中動物と地下放送を結びつけ、文字どおりアンダーグラウンドに徹している。
その後、古民家の室内にインスタレーションした大巻伸嗣、月崎駅前の小屋を「森の音」を聞く空間に変えた木村崇人、インドのサンタル族を招いて食を提供する岩田草平らのプロジェクトを鑑賞。大巻のインスタレーションはよくできているけど既視感がぬぐえず、木村と岩田は森やインドの民族に比重が傾いてアートを通り過ぎてしまっている。見終えてひとつ疑問に思ったのは、市原市内には30カ所を超えるゴルフ場がひしめき、グーグルマップで見ると気持ち悪いほど虫食い状態になってるのに、ぼくが見た範囲ではだれもそのことを作品にしてなかったこと。たしかに徒歩や公共交通で移動している限りゴルフ場には気づかないのだが、だからこそだれか目に見えるかたちにしてほしかった。
2014/04/27(日)(村田真)
開館30周年記念企画 現代陶芸 笹山忠保 展─反骨と才気の成せる造形─
会期:2014/04/26~2014/06/29
滋賀県立近代美術館[滋賀県]
信楽を拠点に活動するベテラン陶芸家・笹山忠保が、地元滋賀の美術館で大規模な回顧展を開催している。本展では半世紀以上にわたる彼の活動を、前半と後半の2部に分けて構成。前半(1950年代~1990年代前半)はいわば前衛時代であり、直線的な構造を持つオブジェなど、やきものらしさを拒否したかのような作品が並んでいた。後半(1991年代以降)は、幾何学的な造形はそのままに信楽焼の風合いを持たせた作品が主体で、終盤に向かうにつれ単体のオブジェから空間性を意識した組作品へと変化していく。一作家の業績が非常にわかりやすく紹介されており、回顧展はかくあるべしという充実した内容であった。前半は作品を詰め込み過ぎて狭苦しさを覚えたが、同時に学芸員と作家の情熱を感じたことも付記しておく。
2014/04/26(土)(小吹隆文)