artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

川内倫子+テリ・ワイフェンバック「Gift」

会期:2014/04/27~2014/06/22

IMA gallery[東京都]

川内倫子は1972年生まれ。テリ・ワイフェンバックは1957年生まれ。キャリアも違うし、活動場所も東京とワシントン・D.C.と隔たっているが、たしかにこの二人の作品には共通性がある。身近な環境を題材にしながら、それを「永遠」とか「深遠」とかいう言葉がふさわしいような眺めに変換させていく。光や空気感の微妙な変化に鋭敏に対応し、その震えをそっと定着していく姿勢もどこか似ている。実際にこの二人の写真家には2011年頃から交友があり、メールのやり取りや写真の交換などを続けてきたのだという。それを二人展という形で実現したのが、今回の「Gift」展である。
六本木のIMA CONCEPT STORE内のギャラリーでの展示の内容は、決して期待を裏切るものではなかった。二人の間で交わされた「往復書簡」にならって、交互に作品を展示するというアイディアもとてもよかったと思う。ワイフェンバックのプリントにだけ白枠をつけてあって、すぐに判別できるように工夫されていた。ただ残念なことに、二人の作品世界が共振する相乗効果のようなものはあまり感じられなかった。どちらかといえば、「優しさ」や「ゆらぎ」が強調された小さいサイズのプリントが多く、彼女たちの普段の展示から伝わってくるダイナミズムが影を潜めていたのも理由の一つかもしれない。小ぎれいなギャラリー・スペースの雰囲気も、作品に集中しにくくさせていたこともあるだろう。二人の実力は折り紙付きなのだから、もっと大胆な遊びや冒険を見せてほしかったと思う。

2014/05/09(金)(飯沢耕太郎)

網代幸介 展 SCROLL 瞬きの王国

会期:2014/05/04~2014/05/30

ondo[大阪府]

イラストレーターの網代幸介が、昨年に続き関西では2回目の個展を開催。今回は、架空の冒険家チャック・マーラーによる異世界探検記を絵画で表現。全長約6メートルの絵巻物を主軸に、物語のワンシーンや登場人物、地図、旗などを描いた補足的作品も添えられ、台座と壁面に展開した。この物語は綿密に構築されているようで、読み聞かせイベントができるぐらいのレベルだという。そんな話を聞くとアウトサイダー・アート的な狂気を感じてしまうが、どうせやるなら徹底した方が面白い。書籍化や続編など今後の展開に期待している。

2014/05/09(金)(小吹隆文)

米田拓朗「Fuefuki Channels」

会期:2014/04/23~2014/05/11

photographers’ gallery[東京都]

米田拓朗は、この所、山梨県の甲府盆地を流れる笛吹川の流域を撮影場所とする作品を発表してきた。前回の同会場での個展「笛吹川」(2012年4月3日~5月6日)に続いて、今回も川の流れによって摩滅して形をとった「丸石」を主な被写体としている。夏に上流から運ばれてきて、川筋のあちこちに点在するようになった石たちは、冬になると水が減ったり草が枯れたりしてその姿をあらわすようになる。米田はそれらの石の姿を、一つ一つ手で触るように凝視してカメラにおさめていく。会場に展示されていた14点の写真を見ると、水の中に完全に没したものもあれば、半ば姿を見せたもの、地上に顔を出したものなどさまざまな形をとっている。「丸石」は古来信仰の対象になることも多く、道祖神として土台に据えられているものまである。それらの石たちの多彩なあり様に、米田は川の流れがもたらす生活と文化の厚みを、重ね合わせて見ているように思える。
笛吹川のシリーズは、そろそろ写真集にまとめたり、より大きな会場で発表したりする時期にきているのではないかと思う。米田の凝縮した内容の個展の背景には、おそらく膨大な数の写真が撮影されていることが想像できるからだ。ただその時には、おそらく写真だけでなく、作品の成り立ちを丁寧に記述するテキストも必要になってくるだろう。

2014/05/07(水)(飯沢耕太郎)

「手負いの熊」

会期:2014/05/06~2014/05/18

TOTEM POLE PHOTO GALLERY[東京都]

甲斐啓二郎は、同じ会場で2012年10月に「Shrove Tuesday」と題する個展を開催している。イギリスの村に伝わる、作家の原型というべきボール・ゲームの様子を撮影した作品である。今回の「手負いの熊」はその続編というべきだろう。
撮影場所は長野県野沢温泉村で、そこで繰り広げられる「道祖神祭り」が今回の被写体である。「社殿」と称される櫓に火をつけようとする一団と、それを防ごうとする一団が、文字通りの肉弾戦でぶつかり合う。「Shrove Tuesday」もそうだったのだが、甲斐は祭りの全体を俯瞰するようなポジションはまったくとらず、うねりつつ形を変えていく集団の中に、呑み込まれるようにしてシャッターを切る。そのことによって、闇の中で焔が渦巻き、煙が上がり、喧騒に包み込まれる状況が、いきいきと、まさに「生身」の姿であらわれてくる。甲斐が興味を抱いているのは、この祭りがきわめて「競技的」な構造を備えているということだ。かつては神事としておこなわれていた祭礼や行事が、スポーツに転訛していくのは世の東西を問わずよくあることだ。この文脈をさらに深く掘り下げていくと、闘争=ゲームの本質が、写真を通じてくっきりと浮かびあがってくるのではないだろうか。
ただ、もう少し人類学、民族学、神話学などの知を総動員しないと、単なる物珍しい行事の記録だけに終わってしまいそうだ。また、数をこなすよりも、むしろ一つの行事に深く絞り込んでいくことも必要になってくるのではないだろうか。

2014/05/07(水)(飯沢耕太郎)

集治千晶 展

会期:2014/05/06~2014/05/11

ギャラリーヒルゲート[京都府]

落書きのような線描と鮮やかな色面のコントラストからなる、遊戯的・祝祭的作風の銅版画で知られる集治千晶。画廊の2フロアを使用した本展では、1階が新作、2階が旧作という小回顧展的な構成がとられた。注目すべきは新作の《人形遊び》シリーズで、カラフルな色合いこそいままでと同様だが、少女人形の毛髪、衣服、アクセサリーを再構成して装飾性を前面に押し出した作風に変化している。本人に聞いたところ、自身に内在する女性性を作品化するか否かで葛藤があり、2007年から13年にかけて版画制作を控えめにしていたとのこと。結局彼女は、自身の内なる声に正直に振る舞い、《人形遊び》シリーズとして結実した。その意味で本展は、集治の新章を飾る極めて重要な機会であった。

2014/05/06(火)(小吹隆文)