artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
高橋宗正『津波、写真、それから──LOST&FOUND PROJECT』
発行所:赤々舎
発行日:2014/02/14
東日本大震災以後に、津波によって家々から流出した写真やアルバムを拾い集めて洗浄し、修復したり、複写・プリントしたりするというプロジェクトが、各地で一斉に立ち上がった。写真を一カ所にまとめて公開し、元の持ち主がそれらを見つけたら返却する。宮城県山元町でも、2011年5月にボランティアを募って「思い出サルベージ」という企画がスタートした。
その過程で、中心メンバーのひとりだった高橋宗正は、ダメージがひど過ぎて、修復も持ち主の同定もほぼ不可能な写真を展示・公開することを思いつく。震災の記憶の共有と、仮設住宅の自治会の資金集めが主な目的だった。「LOST & FOUND PROJECT」と名づけられたその展示は、2012年1月から開始され、東京、北海道など国内だけでなく、アメリカ、オーストラリア、イタリアなどでも展覧会が実現した。その一連の経過をまとめたのが、『津波、写真、それから』である。
ボランティアたちの善意は疑えないし、中心となって活動した高橋も「写真とは何か?」を問い直すうえで、多くのことを学んだはずだ。ただ、一読してやや疑問が残ったこともある。ひとつは、ほとんど画像の判別がつかなくても、特定の地域の誰かの所有物だった写真を、国内外の不特定多数の観客に公開していいのかということ。もうひとつは、このプロジェクトを通じて、写真が「作品化」しつつあることへの懸念だ。写真を壁一面に貼り巡らせたインスタレーションの迫力は圧倒的だが、どこか現代美術作品の展示のようでもある。本人は充分に自覚しているとは思うが、「高橋宗正の作品」としてひとり歩きしかねないようにも見えてしまう。
そのあたりの危うさを含み込んだうえで、「LOST & FOUND PROJECT」が「震災以後の写真」のあり方に一石を投じるプロジェクトだったことは間違いない。そのことは積極的に評価したい。
2014/04/10(木)(飯沢耕太郎)
プレビュー:羽鳥玲個展「Blue Beard」
会期:2014/04/30~2014/05/11
2013年11月、東京で開催した個展の巡回展。イギリスでの学生時代からテーマにしているという「おとぎ話」をさらに深く追求するものなのだとか。モノトーン、太めの線のシンプルなタッチで平面作品を制作する羽鳥玲に注目したい。
2014/04/10(木)(松永大地)
プレビュー:ZINEの神様 陣内隆展「じ、ん、な、い、た、か、し、じんないたかし 2014」展
会期:2014/04/19~2014/05/02
kara-S[京都府]
2012年から東京、金沢、盛岡などで発表されてきた陣内隆展。その実態は、画家としての活動を中心に、ブックレーベルを立ち上げるなどストリート感あふれるさまざまな活動を行なう中村譲二と、現代美術家でありSTRANGE STOREオーナー、加賀美健によるZINEの本質を問う企画。4/19、20にはパフォーマンス&トークなども行なわれる。
2014/04/10(木)(松永大地)
カンディダ・ヘイファー
会期:2014/03/07~2014/05/10
YUKA TSURUNO GALLERY[東京都]
1944年、ドイツ・ケルン生まれのカンディダ・ヘイファーは、いわゆるベッヒャー派の代表作家のひとり。同じくデュッセルドルフ芸術大学でベルント&ヒラ・ベッヒャーの教えを受けたトーマス・ルフやトーマス・シュトルートと比較しても、その厳密なスタイルをもっとも正統的に受け継いでいる写真家だ。YUKA TSURUNO GALLERYでの個展は、その彼女の作品の、日本では初めてのまとまった紹介になる。I.8×2メートルを超える作品を含む大作7点が展示されていた。
ヘイファーの写真の主なテーマは、図書館、美術館、動物園、駅、銀行などの公共建築物である。それらの内部空間を、遠近法的なパースペクティブを強調して大判カメラで撮影する。こうして見ると、ヨーロッパの建築のスケールは、われわれ日本人にとっては威圧的であり、あまりにも壮麗過ぎて馴染めないものを感じる。ヘイファーにとっては、そのような建築によって培われた空間意識が、写真家としての画面構成の基本になっているわけで、これだけ落差が大き過ぎるとむしろ快感さえ覚えてしまう。もうひとつ気づいたのは、彼女の写真に写り込んでいる光源の扱い方で、建築物の細部を緻密に描写しているために、白っぽく飛んでいることが多い。それが逆に、一見絵画的に見えがちなヘイファーの写真に、生々しさ(ライブ感)を与えているのではないだろうか。
昨年のアンドレアス・グルスキーに続いて、ベッヒャー派の写真家たちの個展が続くのはありがたいが、そろそろベッヒャー夫妻の作品を含む決定版の展覧会を企画してほしいものだ。
2014/04/09(水)(飯沢耕太郎)
内藤礼/畠山直哉「タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください)」
会期:2014/04/04~2014/05/31
GALLERY KOYANAGI[東京都]
内藤礼が2013年に広島県立美術館で展示した「タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください)」は、彼女が初めて「原爆」というテーマに取り組んだ作品である。その展示の様子を畠山直哉が撮影した。アーティスト同士の、心そそられるコラボレーションと言える。
内藤の作品は、弧を描いて吊り下げられた灯りの下にひっそりと置かれていた。広島平和記念資料館が所蔵する17個の「被爆したガラス瓶」の横に、17人の「ひと」がたたずむ。原爆の熱で溶解したガラス瓶も、木を人形のようにカービングしてアクリル絵の具で彩色した「ひと」の姿もとても小さい。その祈りを込めて丁寧につくり込んだ小さな造形が、いかにも内藤の作品らしく、愛らしいけれども、ぴんと張りつめた佇まいだ。ほかに透明なガラス容器に、生命力を暗示するかのような黄色い花を挿したオブジェも並べてあった。
畠山の撮影の仕方も、内藤の作品の繊細さに合わせるように、ごく控えめなものだ。全体の姿を捉えた写真のほかに、1点、あるいは2点のオブジェをクローズアップで撮影したカットがあるのだが、観客との無言の対話を引き出すようなアングルが注意深く選ばれている。ガラス瓶の鉱物的な質感を、どちらかと言えば有機的な柔らかい感触に置き換えているのがとても効果的だと思う。確か以前にも何度か、内藤のインスタレーションを畠山が撮影することがあったと記憶しているのだが、ぜひそれらをまとめた「写真集」も見てみたい。
2014/04/09(水)(飯沢耕太郎)