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美術に関するレビュー/プレビュー

ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション

会期:2014/04/04~2014/05/25

Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]

19世紀ミラノの貴族ポルディ・ペッツォーリの集めた絵画、武具、タペストリー、時計、ガラス器などのコレクションを公開。こういう貴族のコレクションを邸宅ごと公開しているところでは、やっぱり壮麗な室内空間のなかに置かれた作品をその場で見るから価値も倍増するんであって、作品だけ持ってきて見せられても身ぐるみはがされたみたいでちょっと貧相に映ってしまう。ともあれ、絵画は14世紀の祭壇画から、マンテーニャ、ポッライウォーロ、ボッティチェッリなどルネサンスのイタリア絵画が中心だが、最後のほうにフォンタネージの風景画があって不思議な感じがした。いうまでもなくフォンタネージは、明治初期に日本最初の美術学校である工部美術学校で2年間教鞭をとった画家。つまりわれわれから見れば横のつながりの人なので、こうして西洋(イタリア)美術史という縦の流れのなかに組み込まれると、外国の街で唐突に日本人と出くわしたときのように、「やあこんなところで」と親しみを覚えると同時に居心地の悪さも感じるのだ。

2014/04/03(木)(村田真)

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岸田吟香・劉生・麗子 知られざる精神の系譜

会期:2014/02/08~2014/04/06

世田谷美術館[東京都]

岸田劉生と、その父吟香および娘麗子、3代をまとめて紹介した展覧会。緻密な研究に基づいた非常に充実した展観で、幕末から明治にかけて文明開化の一翼を担った吟香と、画家そして演劇人としても活躍した麗子の軌跡を、劉生の画業にそれぞれ接続した意義も大きい。
とりわけ注目したのが、吟香。尊皇攘夷の志士にはじまり、左官や泥工の助手、八百屋の荷担、湯屋の三助、芸者の箱丁、妓楼の主人、茶飯屋の主人から、初の和英辞書『和英語林集成』の編纂、液体目薬「精 水」の製造販売および「楽善堂」の開設、『東京日日新聞』の主筆、台湾への従軍記者、訓盲院の設立、中国と朝鮮の地図編集まで、その活動は町人文化とジャーナリズム、そして社会福祉事業を貫くほど多岐にわたる。美作国から江戸、そして上海まで闊歩した行動範囲の広さも考え合わせれば、吟香に明治の文明開化を体現する近代人の典型を見出すことは決して難しくない。
美術との関わりで言えば、書画を嗜み、新聞の挿図も自ら手がけた。また落合芳幾や下岡蓮杖らによって自身が描写されてもいる。さらに高橋由一や五姓田一家と親交を深めたほか、新聞記者としては第一回内国勧業博覧会の記事を29回にわたって連載し、これは本邦初の展覧会批評とされている。また浅草寺で催された下岡蓮杖の興行を「油絵茶屋」と紹介したのも吟香である。美術の近代化に一役も二役も買っていた吟香のバイタリティが伝わってくるのだ。
本展が美術史に果たした功績は大きい。だが、それを踏まえたうえで指摘したいのは、美術史を同時代に解き放つ視点の必要性である。美術に限らずどんな歴史学も自らの研究対象を限定しがちだが、とりわけ美術史はその傾向が強い。けれども、そうした分野の壁を自明視していては、その時代を解き明かすことにはならないし、そもそもいかなる時代にあっても、美術という特定の分野だけに人びとのリアリティが収まるはずもない。
たとえば吟香の活動は美術を含みながらも、大衆文化や政治、地政学、社会福祉、ジャーナリズム、衛生学など広範囲に及んでいた。あるいは吟香という名前にしても、これはもともと深川界隈で名乗っていた銀次が銀公に転じ、さらに吟香と改めた経緯がある。吟香というとなにやら知的な雰囲気があるが、本来的にはいかにも庶民的な名前だったのだ。だとすれば吟香の輪郭が上流社会に属する美術という概念を大きくはみ出すことは明らかだ。
吟香や劉生が歩いていた銀座や築地の街並みを、美術だけではなく、他の文化論や都市論、あるいは庶民のまなざしによってとらえ返すこと。具体的に言えば、それらの街並みを牛耳っていた博徒や侠客などの活動を浮き彫りにすることで、これまでにはない角度から吟香や劉生の身体を照らし出すことができるのではないか。重箱の隅を突くような美術史研究に飽き足らない者は、ぜひこうした視点からの研究を深めてほしい。

2014/04/03(木)(福住廉)

没後百年 日本写真の開拓者 下岡蓮杖

会期:2014/03/04~2014/05/06

東京都写真美術館[東京都]

日本最初の写真師のひとりで、幕末に横浜で写真館を開いた下岡蓮杖の初の本格的な回顧展。1823年生まれというから、洋画の先駆者・高橋由一や五姓田芳柳とほぼ同世代。3人とも最初は絵師を目指したが、由一や芳柳が西洋画を見て憧れたのに対し、蓮杖はたまたま目にしたダゲレオタイプに衝撃を受けて写真に転向する。こうした人生の分かれ道はほんの偶然によるものだ。とはいえようやく開港するかしないかの時代、だれも写真術なんか知らないので外国船の入る下田(出身地でもある)や浦賀をうろつき、要人に食い込んで習得したという。こうして開港まもない横浜で写真館を開業するが、明治8年に東京浅草に移転。この前後から写真館の背景画やパノラマ画を描いたり、乗合い馬車を始めたり、夫婦でキリスト教の洗礼を受けたり、洋画を展示して観客にコーヒーを振る舞う油絵茶屋を開いたり、多彩な活動を展開し、晩年は絵画制作に明け暮れたという。結局、蓮杖が写真に専念したのは90年を超す長い人生のうち、横浜ですごした10年ちょっとのあいだだけで、今回の展示の大半もその時代の写真に占められている。あとはそれ以降の水墨画や同時代の資料などだ。ヤマッ気たっぷりだったらしい蓮杖にとって、写真とはどうやらひと山当てるための商売にすぎず、人生を賭けるに足るものではなかったのかもしれない。絵画に戻り、最後まで絵を描いていたというのは示唆的だ。

2014/04/02(水)(村田真)

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田中紗樹 作品展「ソロ・オーケストラ」

会期:2014/04/02~2014/04/13

iTohen[大阪府]

ドローイングと木版画とコラージュを併用した平面作品を制作する田中紗樹。彼女の作品の魅力は、小気味よい筆さばきと鮮やかな色彩が、一種音楽的とも言うべき交響を奏でる点にある。また、ただ作品を見せるだけではなく、現場での制作を重視しているのも彼女の特徴だ。iTohenでは2010年以来の個展となる今回も、本人が会場に詰めて公開制作やライブペイントを実施。日を追うごとに作品の配置が変化する生き物のような展覧会をつくり上げた。また、公開制作を見て気づいたのは、彼女が2点ずつ作品を制作すること。2点は対の関係を持っており、交互に筆が入れられる。彼女の作品に顕著な音楽的感興は、この制作方法に由来するのかもしれない。

2014/04/02(水)(小吹隆文)

アパートメント・ワンワンワン~中之島1丁目1-1で繰り広げる111日~

会期:2014/03/29~2014/07/06

アートエリアB1[大阪府]

大阪を拠点に活動するgraf(クリエイティブ・ユニット)とIN/SECTS(編集プロダクション)が協同し、アートエリアB1内に複数の小屋と通路、グラウンド等から成る空間「アパートメント・ワンワンワン」をつくり出した。それぞれの部屋や空間にはアーティストが入居し、さまざまな表現活動の集合空間が形成される。第1期(3~4月)の入居者は、飯川雄大(美術家)、倉科直弘(写真家)、鈴木裕之(イラストレーター)、高島一精(ファッションデザイナー)、MASAGON(アーティスト)、203gow(編み師)の6組。今後、第2期(4~5月)、第3期(5~6月)と作家が入れ替わっていくが、空間には前の期の痕跡が部分的に残されるという。そういう意味で本展は、往来的なグループ展やコラボレーションとは異なる新たな試みと言えよう。

2014/04/02(水)(小吹隆文)