artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

田河敬太 個展 in the room─ひきこもらねば─

会期:2014/04/08~2014/04/13

KUNST ARZT[京都府]

巻貝から人間の足が露出した小さな木彫作品で知られる田河敬太。彼の作品の背景には、自身が進学のため奄美大島から関西に移り住んだ際に感じた孤独感・疎外感と、かつて彼の身近に引きこもりがいたことが挙げられる。出品作品は木彫7点と巨大な金属製の巻貝が1点で、後者に作者自身が潜り込み、会場に置かれたパソコンを介して観客とコミュニケーションを取るパフォーマンスも行なわれた。画廊オーナーから聞いたところ、巻貝の内部は意外と心地よいらしい。子どもの頃に押入れで遊んだ感覚に近いのだろうか。筆者自身は引きこもりに関して無知だが、彫刻にせよパフォーマンスにせよ、足が露出している点にある種のサインを感じた。彼らは完全に外部との接触を拒否しているわけではない。むしろ望んでいるのでは、と。

2014/04/08(火)(小吹隆文)

山の神仏──吉野・熊野・高野

会期:2014/04/08~2014/06/01

大阪市立美術館[大阪府]

紀伊半島の3つの霊場──吉野・大峯、熊野三山、高野山──の仏像、神像、絵画、工芸品など約120点が集った大規模展。同地のユネスコ世界遺産登録10周年を記念した企画展で、それぞれの地域から選りすぐりの約120点が集結した。本展では、明治時代の「神仏分離令」以前の信仰空間がテーマに掲げられており、神と仏を分け隔てなく展示する方針が取られた。なかには教義を超えた異形の作例も見られ、日本人の大らかでハイブリッドな宗教観を改めて実感できる。また、展示物のなかには痛みが目立つ品も少なからずあったが、それらには地域住民の篤い信仰心が凝縮しているように思われ、美しく立派な神仏以上に心が揺さぶられた。

2014/04/07(月)(小吹隆文)

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チェコの映画ポスター──テリー・ポスター・コレクションより

会期:2014/03/21~2014/05/11

京都国立近代美術館[京都府]

京都近代美術館の思わぬ収穫は、「チェコの映画ポスター」展だった。1960年代から80年代までのコレクションだが、びっくりするほど、アヴァンギャルドである。チェコの映画だと、もとの内容はわからないが、ハリウッド、フランス、日本映画(ゴジラや黒澤明など)の知っている作品の場合、チェコでの公開時には、こうしたデザインのポスターだったとは! と驚く。それくらい映画のイメージと切り離され、自由奔放なポスターである。

2014/04/06(日)(五十嵐太郎)

世界を魅了したやまとなでしこ──浮世絵美人帖

会期:2014/03/30~2014/06/15

芦屋市立美術博物館[兵庫県]

浮世絵美人画ばかりおよそ120点からなる展覧会。葛飾北斎、渓斎英泉、三代目歌川豊国、歌川国芳、月岡芳年、菊川英山ら、歌麿以降に活躍した絵師による作品が揃った。片岡長四郎氏によって大正時代に蒐集された「片岡家所蔵浮世絵」からの出品である。
「やまとなでしこ」といえば、たおやかでやさしい、それでいて芯の強い女性が思い浮かぶ。日本女性の理想像といったところだろうか。仕事や家事をする姿、夕涼みや化粧をする姿、物語や歌舞伎の一場面のほか、趣向をこらした連作ものなど、登場する女性たちはみな活き活きと魅力的だ。そして、丹念に緻密に描かれたきものの色や模様が彼女たちを華やかに演出する。縞や格子、花鳥風月、小紋や絣、コーディネートや着こなしを見るだけでも楽しい。それとは対照的に、顔や身体の表情はいたって控えめ。焦点の定まらない釣り上がった目、小さくすぼめられた口元、すっと筋のとおった長い鼻、細面の顔のつくりは浮世絵の特徴とはいえどれも似通っている。きものから出ているわずかな身体、手先や足先は素肌の白さが印象的だ。きものの過剰なほどの装飾性と身体の抑制のきいた表現、このめりはりが「やまとなでしこ」たちに色香を添えている。
ところで、浮世絵の究極の醍醐味は蒐集にあるのではないだろうか。名だたる浮世絵コレクションのなかではこの片岡コレクションはけっして大きな規模とはいえないが、それでもこれだけの「やまとなでしこ」たちを手元において密かに眺めることはごく限られた趣味人にのみ与えられた特権に違いない。閑静な住宅街のなかにある小さな美術館では、その気分に一時だけ浸ることができる。[平光睦子]

2014/04/06(日)(SYNK)

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野口哲哉 展─野口哲哉の武者分類図鑑─

会期:2014/02/16~2014/04/06

練馬区立美術館[東京都]

鎧武者を造形する野口哲哉の個展。古美術や参考資料もあわせて100点あまりの作品が展示された。博物館が所蔵する古来の甲冑と野口の作品を並置することで、虚実がない混ぜになった世界観を巧みに演出していた。
見どころが鎧武者を精巧に造形する超絶技巧にあることは言うまでもない。だが、それ以上に印象づけられたのは、野口の鎧武者がある種のドワーフに見えたことだ。いずれも実寸より小さく、場合によっては手に乗るほど小さなサイズだからだろう。漏れなくおじさんであることも7人の小人と重なりあうし、あるいは鎧武者でありながら、いずれも戦闘の雰囲気を微塵も感じさせず、むしろ日常のけだるい空気感を漂わせているという落差が、そうした幻想性をひときわ高めているのかもしれない。とりわけ箱の中でひとりずつ横たわる《Package of Past man》のシリーズは、まるで妖精のような儚さすら感じられる。
それゆえ野口の鎧武者は、徹頭徹尾、ファンタジーであることがさらけ出されている。どれほど甲冑が精巧につくり込まれているとしても、それらが意味する戦闘や武士、あるいはホモソサエティといった参照項と決して結びつかないのだ。武家出身の高橋由一は《甲冑図(武具配列図)》によって武家社会への断ち切れぬ郷愁と揺るぎない誇りを描いたが、野口の造形にはそうしたマッチョなノスタルジーはほとんど見受けられない。あるのは、ただ、ひそやかな幻想世界の強度である。
実在の街を塗りかえるような浸透力をもつオタク文化でもなく、きらびやかな世界を定期的に供給することで独特のコミュニティを形成するタカラヅカでもなく、あくまでもひそやかに、しかし忘れ得ない幻想性を、一時的にではあれ、垣間見せること。野口の世界観は、こうした類稀な幻想性に基づいているのであり、おそらくアートの王道もまた、この幻想性に向かっているに違いない。

2014/04/06(日)(福住廉)