artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

都築響一「独居老人スタイル」展(前期)

会期:2014/04/05~2014/04/29

ナディッフアパート[東京都]

過激な暴走老人、と本人たちは思ってないはずで、ただ社会の規範から多少はみ出してしまう一人暮らしの独居老人を取材した都築響一の快著『独居老人スタイル』。そこに登場するアーティスト(と呼んでいいのか)たちのポップでキッチュな「作品」を2回に分けて紹介している。前期は、閉館して半世紀にもなる本宮映画劇場を守り続けてきた田村修司をはじめ、早稲田松竹映画劇場お掃除担当の荻野ユキ子、画家の美濃瓢吾、日曜画家の川上四郎の4人。このうち美濃は唯一プロといえるが、あとの3人は怖いもの知らずのシロート。ピンク映画をはじめとするB級映画のポスターで壁を埋め尽くした田村も、ヘタな絵だけでなく妙に生々しい女性ヌード写真を出してる川上も滋味深いが、もっとも戦慄的なのが荻野ユキ子。彼女はスーパーで売ってる食品トレイをベースに、プラスチックの笹や人形などの廃品を組み合わせ、箱庭のように仕立てたオブジェを映画館に設置してきた。そのチープでゴージャスな小宇宙を数十個テーブルにびっしりと並べている。いったいなんのために? だれのために? などと考えてはいけない。ただ創作衝動にかられてつくり続けてきた、というのが真実だろう。このたくましい創造力! その創造力が社会に与える破壊力!

2014/04/22(火)(村田真)

キトラ古墳壁画

会期:2014/04/22~2014/05/18

東京国立博物館[東京都]

7~8世紀に造営された奈良県明日香村のキトラ古墳の石室内に、壁画が発見されたのは1983年のこと。壁4面に青龍、朱雀、白虎、玄武の四神、天井には天文図が描かれているのだが、漆喰の剥離が著しいため壁面をはがして修理作業が進められている。今回公開されたのは朱雀、白虎、玄武の3面と、それぞれの下に描かれた十二支のうちの子と丑の計5点。ぶっちゃけ、墓の内壁を引っぺがして公衆の面前にさらしてるわけで、別に罰当たりとは思わないけれど、これらの壁画も一種のサイトスペシフィックワークと考えれば、やはり博物館で鑑賞するのは違和感があるなあ。もちろんそれによって実物と対面できるわけだから文句を言える立場じゃないけど。今回は陶板による壁画のレプリカも展示しているが、こうしたレプリカはひとつの解決策になるかもしれない。これから3Dプリントの技術も発達するだろうし、ますますホンモノに近づくから美術館や博物館での需要は増えるに違いない。でもそうなると贋作や著作権問題が多発するかもね。それはともかく、ちょっと不思議に思ったのは、カメとヘビが絡み合う玄武の描かれた壁面が、ちょうどカメの甲羅のかたちに剥がされてること。偶然? わざと?

2014/04/21(月)(村田真)

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星玄人「STREET PHOTO EXHIBITION 18」

会期:2014/04/11~2014/04/20

サードディストリクトギャラリー[東京都]

ストリート・スナップの面白さを、あらためて教えてくれる展示だった。星玄人はここ数年にわたって、サードディストリクトギャラリーを舞台に、「STREET PHOTO EXHIBITION」と題する連続展を開催してきた。しばらく足が遠のいているうちに、その数がすでに18回に達していたことに驚くとともに、その一貫したストリート・スナップへの執着が、独特の作品世界に成長しつつあることに感動を覚えたのだ。
今回の展示は、金沢、仙台、高崎、豊橋、熊本などの、いわゆる「地方都市」で撮影した写真を並べている。星はこれまで主に新宿歌舞伎町や大阪西成などをメイン・グラウンドにしてきたのだが、仕事の関係で地方に行く機会が増え、とりたてて気負うことなく、夜の歓楽街にカメラを向け始めたのだという。結果として、ストロボの光に照らし出されて浮かび上がってきたのは、昭和の空気感がそのままタイムカプセルに封じ込まれたような光景だった。ヤクザっぽい男たち、バーのママさん風の和服の女性、路上で仔犬と戯れる茶髪の女たち──いつもの気合いが入ったテンションの高さはあまり感じられないが、逆にうら寂しい、滅びつつあるものへの愛惜が、じわじわと目と心に食い入ってくる。
むしろ「地方都市」にこそ、現代の日本と日本人の縮図を見ることができるのではないかと思わせる、強い説得力のある写真群が形をとりつつある。この方向でもう少し掘り進めていくと、何かとんでもない鉱脈にぶつかりそうな気もする。

2014/04/20(日)(飯沢耕太郎)

プレビュー:ノスタルジー&ファンタジー 現代美術の想像力とその源泉

会期:2014/05/27~2014/09/15

国立国際美術館[大阪府]

故郷や古い友人、子ども時代の思い出など、ノスタルジー(郷愁)を創造の源泉にして、想像力の世界(ファンタジー)をつくり出す現代美術作家たちを紹介する。出品作家は、橋爪彩、横尾忠則、柄澤齊、淀川テクニック、須藤由希子、小橋陽介ら日本人作家10組。現代美術は未知の領域を開拓する表現とも言えるが、その背景に過去を志向するノスタルジーがあることが興味深い。後ろ向きで前に進むような彼らの表現に、何がしかの共通項があるのかを見極めたい。

写真:橋爪彩《Chloris》 2011年 個人蔵
courtesy of Imura art gallery 撮影:加藤健

2014/04/20(日)(小吹隆文)

東北──風土・人・くらし

会期:2014/04/19~2014/05/18

福島県立博物館[福島県]

国際交流基金の企画で、2012年3月から中国、フィリピン、イタリア、アメリカ、カナダなど世界の24都市を巡回し、今後40都市以上を回る予定の「東北──風土・人・くらし」展が、ようやく日本で公開されることになった。しかもそれが福島県会津若松市で開催されることは、キュレーションを担当した僕にとっても嬉しいことだ。もともと本展は、東日本大震災で大きな被害を受けた東北地方の「風土・人・くらし」を、日本人写真家の作品を通じて紹介することを目的とするものであり、今回はいわば「里帰り」と言うべき展示になったからだ。
出品作家は千葉禎介、小島一郎、芳賀日出男、内藤正敏、大島洋、林明輝、田附勝、仙台コレクション(伊藤トオルをリーダーとする仙台在住の写真家集団)、津田直、畠山直哉の9人+1組。1940~50年代の秋田の農村地帯を細やかに撮影した千葉から、岩手県陸前高田市を流れる気仙川の流域をプライヴェートな視点で記録し続けた畠山まで、年代、作風ともにかなり幅広い作品を選んでいる。それは東北を一枚岩ではなく、多様な視点から浮かび上がらせたいという思いの表われでもある。
もうひとつ、キュレーションにあたって強く意識したのは、4月19日に開催された、福島県立博物館館長の赤坂憲雄、出品作家のひとりである田附勝と筆者による鼎談のテーマでもあった「縄文の再生」ということだった。東北地方には、まさに日本文化の古層と言うべき縄文時代の精神が、色濃く息づいている。それらが写真家たちの作品のなかにどのように投影されているかを、しっかりと確認しておきたかったのだ。「震災後」の社会・文化を考えるときに、縄文時代の「くらし」のあり方を再考することは、大きな意味を持つのではないだろうか。
なお本展は、5月24日~6月22日に岩手県遠野市の遠野文化研究センターに巡回する。柳田國男『遠野物語』の所縁の地で、どのように受け入れられるかが楽しみだ。

2014/04/19(土)(飯沢耕太郎)