artscapeレビュー

書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー

カタログ&ブックス│2019年4月

展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
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「百年の編み手たち──流動する日本の近現代美術」図録

編集:関直子、藪前知子、森山朋絵、北澤ひろみ、八巻香澄
執筆:関直子、藪前知子、加藤弘子
デザイン:中西要介、根津小春(STUDIO PT.)
発行:美術出版社
発行日:2019年3月25日
定価:2,600円(税別)
サイズ:A5判、352ページ

本展は、1910年代から現在までの百年にわたる日本の美術について、編集的な視点で新旧の表現を捉えて独自の創作を展開した編み手である作家たちの実践として、当館(東京都現代美術館)のコレクションを核に再考するものです。岸田劉生が活躍した大正時代から現在まで、それぞれの時代の「編み手たち」は、その時々の課題と向き合い、「日本の美術のありよう」をめぐって批評的に制作してきました。本展で試みる日本の近現代美術をめぐる語りは、揺るがぬ史観に基づくものというより、さまざまな要素の選択的な「編集」を通して主体を揺るがせつつ制作を行う作家たちの活動に着目し、その背景を探っていくものです。さらに、時代とともに変化してきた、当館が位置する木場という地域をめぐる創造も紹介します。

Magazine for Document & Critic:AC2 No.20

編集・発行:青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)
デザイン:小枝由紀美
発行日:2019年3月22日
定価:非売品
サイズ:256×167mm、126ページ

国際芸術センター青森が、2001年の開館以来、およそ毎年1冊刊行している報告書を兼ねた「ドキュメント&クリティック・マガジン エー・シー・ドゥー」の第20号(通巻21号)。2018年度の事業報告とアーティストインタビューのほか、特集の「ACACの海外美術団体との交流」では、ACACの主任学芸員・金子由紀子やサンタカタリーナ美術館チーフキュレーターのジョズエ・マトスによるテキストを掲載。


これからの文化を「10年単位」で語るために──東京アートポイント計画 2009-2018

企画・編集:大内紳輔・佐藤李青・坂本有理(アーツカウンシル東京)
アートディレクション・デザイン:TAKAIYAMA inc.
発行:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)
発行日:2019年3月29日
定価:2,800円(税別)
サイズ:246×170mm、270ページ

アーツカウンシル東京が2009年に始動した「東京アートポイント計画」事業の10周年を記念して刊行された本書には、これまでに行なってきたさまざまなプロジェクトや事業の知見、関係者へのインタビューなどを掲載。「中間支援の9つの条件」「これまでの歩み 2008→2018」「プロジェクトインタビュー」「東京アートポイント計画 2009→2029」の4つのセクションからなる。本書の内容はTokyo Art Research Lab(TARL)のウェブサイトにてPDFでも公開予定。


SEIKO MIKAMI──三上晴子 記録と記憶

編集:馬定延、渡邉朋也
執筆:馬定延、渡邉朋也、三上晴子、今野裕一、高祖岩三郎、四方幸子、Andreas Broeckmann、阿部一直、久保田晃弘、椹木野衣
ブックデザイン:伊勢尚生
発行:NTT出版
発行日:2019年3月29日
定価:3,000円(税別)
サイズ:A5判、256ページ

2015年1月に急逝した現代美術家・メディア・アーティストの三上晴子(1961-2015)の活動の記録を掲載。作品にまつわる論考や批評、関連資料を検証する調査研究の成果をまとめた。作家の主要作品の記録のほか、今野裕一や四方幸子らのテキストや飴屋法水のインタビュー、ウェブマガジンに掲載された椹木野衣の連載などを再録するなど、同時代に協働した人々による多面的な作家像を提示する。

「インカ・ショニバレCBE:Flower Power」図録

編集・執筆:正路佐知子(福岡市美術館学芸員)
執筆:インカ・ショニバレCBE、岩永悦子(福岡市美術館学芸課長)
デザイン:尾中俊介(Calamari Inc.)
発行:福岡市美術館
発行日:2019年3月19日
定価:1,500円(税別)
サイズ:B5判、128ページ

ナイジェリア系英国人アーティスト、インカ・ショニバレCBEの国内初個展「インカ・ショニバレCBE:Flower Power」(2019年3月21日-5月26日、福岡市美術館)のカタログ。展覧会出品作品の画像を多数掲載。インカ・ショニバレによるステートメントのほか、展覧会を企画した正路佐知子による全出品作品解説、エッセイ等で構成。ショニバレが作品に用いる「アフリカンプリント」とも呼ばれる布の歴史や日本とのかかわりについても触れられている。


福岡市美術館ザ・ベスト──これがわたしたちのコレクション

編集:福岡市美術館
デザイン:マチダヒロチカデザイン事務所
発行:公益財団法人 福岡市文化芸術振興財団
発行日:2019年3月21日
定価:2,315円(税別)
サイズ:B5判、384ページ

福岡市美術館のリニューアルと開館40周年を記念して刊行されたコレクションの公式図録。学芸員総出で精選した代表作283点を、ユニークな切り口とともに収録する。コレクションは「古美術」「九州をめぐる美術」「近現代美術」の3部構成で紹介。巻末には、作品リストのほか学芸員の山口洋三と後藤恒によるコレクションの成り立ちを解説するテキストも掲載。


###(メッシュ)Vol.05 刷れる!スクリーンプリン島

編集:岩淵拓郎(メディアピクニック)
デザイン:神崎奈津子
発行:神戸アートビレッジセンター
発行日:2019年3月31日
定価:1,000円(税別)

神戸アートビレッジセンターの美術事業では、2017年よりスクリーンプリントの技法の普及を目的とした専門書「###(メッシュ)」をシリーズで発行しています。 「###(メッシュ)」は、各号ごとに特集を組み、イラストや写真を用いてワークショップ形式で作業手順を紹介しながら印刷を学ぶことの出来る技法の教科書になります。最新号vol.05では、とある無人島を舞台に、島に流れ着いたものを利用し、可能な限り身の回りにあるものを代用して”DIYスクリーンプリント”に挑戦する家族の物語を、アメコミスタイルで紹介します。また、表紙は全てスタッフによる手刷りになります。一枚一枚異なる味わいをお楽しみください。



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2019/04/12(金)(artscape編集部)

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山岸剛『Tohoku Lost, Left, Found』

発行所:LIXIL出版

発行日:2019/03/01

「3・11」からちょうど8年が過ぎ、あらためて東日本大震災の意味を問い直す写真の仕事が立て続けに公開されている。建築写真を専門に撮影してきた山岸剛の『Tohoku Lost, Left, Found』もそんな一冊である。山岸は震災前の2010年から東北地方の沿岸部を撮影していたのだが、2011年5月に岩手県宮古市、山田町、大槌町、宮城県気仙沼市などを訪れ、それから3カ月に一度ほどのペースで被災地に通い詰めるようになった。本書には2017年9月までに撮影された199枚が、フルカラーで462ページにおさめられている。長期にわたって集中力を保って撮影し続けた労作といえるだろう。

ページを繰ると、山岸の関心が主に建造物に向けられていることがわかる。津波の恐るべきエネルギーが、どのように建物を破壊したのかが、克明に撮影されている。当然ながら、その破壊の状況は驚くほど多様であり、同時に津波から街が復興していく過程で建造されていった仮設住宅や防波堤などもさまざまな形態をとる。この写真集の最大の見所が、プロフェッショナルな建築写真家の視点で捉えられた東北地方の被災と復興のプロセスの、多層的かつ厚みのある記録にあることは間違いない。

ただ、写真に添えられたキャプションが、撮影の日付と撮影場所の地名だけというのはやや物足りない。できれば建築の専門家によるより詳細なレポートと、山岸自身のコメントがほしかった。多彩な写真群を、視覚的なリズムに配慮して構成した岡崎真理子によるデザイン・レイアウトが、よく練り上げられていることも付記しておきたい。

2019/03/18(月)(飯沢耕太郎)

カタログ&ブックス│2019年3月

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「闇に刻む光 アジアの木版画運動 1930s-2010s」図録

編集:黒田雷児、五十嵐理奈(福岡アジア美術館)
執筆:黒田雷児、水沢勉、瀧本弘之、横地剛、滝沢恭司、竹山博彦、五十嵐理奈、アンタリクサ、リム・チェンジュ、フィービー・スコット、リサ・イトウ=タパン、レオニーリョ・オルテガ・ドロリコン、稲葉真似、超純恵、徳永理彩、五十嵐純、住友文彦
デザイン:田嶋正純(田嶋デザイン事務所CYAN)
発行:福岡アジア美術館、アーツ前橋
発行日:2018年11月23日
定価:2,160円(税込)
サイズ:A4変形、256ページ

1930年代から近年までのアジア各地での木版画に焦点を当て、多数の民衆に情報やメッセージを届ける「メディア(情報・通信媒体)」としての木版画による「運動」を通じて、アジア近現代美術の歴史を新たな視点で見直す展覧会図録。各章ごとに有識者による解説とコラムを収録しているほか、400点を超える出品作の図版も全点掲載している。


Oh!マツリ☆ゴト 昭和・平成のヒーロー&ピーポー

編集:兵庫県立美術館 小林公、岡本弘毅、出原均、山田修平
執筆:小林公
発行:兵庫県立美術館
発行日:2019年1月
定価:2,400円(税込)
サイズ:250mm×210mm、264ページ

2019年1月より兵庫県立美術館で開催中の展覧会Oh!マツリ☆ゴト 昭和・平成のヒーロー&ピーポー」の展覧会図録。
「20 世紀のはじめから現代へと至る日本の美術作家の表現には、社会的な関心が色濃く表れたものも少なくありません。本展はそうした傾向を示す作品の中でも、特別な存在(ヒーロー、カリスマ、正義の味方)と無名の人々(公衆、民衆、群集)という対照的な人間のありかたに注目するものです。とりわけ大衆とも呼ばれる後者の存在は、どのようにその存在を可視化するのか、そしてどのようにして彼らとの間に連帯を築くことができるのかという切実な問いを表現者に投げかけてきました。無名の人々の集団=本展でピーポーと仮に呼ぶ存在が、立場や考え方によっていくらでも変化し、わかれていくものであるという事実は、その姿をとらえがたいものにもするでしょう。本展で注目する特別な存在=「ヒーロー」は、「ピーポー」が直面する困難やその願いを映し出す鏡としての、あるいはその存在に姿を与える触媒としての役割を担っています」。

*カタログは2冊構成で、既刊は1冊のみ。2冊目も刊行される予定。

[引用部分:展覧会公式HPより]
クリスチャン・ボルタンスキー Lifetime

編集:国立新美術館+国立国際美術館+長崎県美術館
執筆:中井康之、山田由佳子、福満葉子、湯沢英彦、関口涼子
対談:クリスチャン・ボルタンスキー×杉本博司
ブック・デザイン:折原滋(O design)
発行:水声社
発行日:2019年2月8日
定価:3,000円(税抜)
サイズ:B5判変型上製、208ページ
ブックデザイン:折原滋

開催中の展覧会「クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime」公式図録。
自己/他者の記憶、生/死、人間の不在/存在の痕跡をテーマとし、さまざまな素材、表現方法を用い世界各地で創作活動を続けてきた作家クリスチャン・ボルタンスキー。1960年代後半の初期作品(《咳をする男》、〈モニュメント〉等)から最新作(《ミステリオス》、《黒いモニュメント、来世》等)までを紹介する大回顧展「クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime」が開催。多数のインスタレーションビューの他、ボルタンスキーと杉本博司の対談、関口涼子によるテキスト、三館の展覧会担当者らによる論考等を掲載。

毛利悠子 ただし抵抗はあるものとする

編集:十和田市現代美術館
執筆:エマ・ラヴィーニュ、畠中実、島貫泰介、小池一子、金澤韻
ブック・デザイン:佐々木暁
発行:月曜社
発行日:2019年2月20日
定価:2,200円(税抜)
サイズ:A5判上製、140ページ

レコードをスクラッチするレヴェルの小さな摩擦からも、革命は起こっている
現代美術の旗手、作家本人へのロング・インタビューを含む初の作品集。十和田市現代美術館展覧会(2018年10月27日‒ 2019年3月24日)公式図録

失われたモノを求めて 不確かさの時代と芸術

著者:池田剛介
書籍設計:森大志郎
発行:夕書房
発行日:2019年2月27日
定価:2,400円(税抜)
サイズ:菊判・並製、184ページ

現代美術のあり方が、芸術とは何かを問う内的な行為からその外にある現実社会への働きかけへと変化してきているいま、「作品」はどこへ向かうべきなのか──。芸術とは何か、作品とは何かを根本から問い続け、美術作家としてその時々の自身の答えを作品にあらわしてきた池田剛介による、待望の処女論集!!
「ユリイカ」「現代思想」「早稲田文学」「POSSE」等に寄稿した2011年から2017年までの思考の軌跡と、それを束ねる長編書き下ろしで構成。カバー、表紙、扉には本書のために制作した新作を実験的方法で印刷し、書物というモノの可能性を追求する。

台所見聞録──人と暮らしの万華鏡

編集:石黒知子、成合明子
執筆:宮崎玲子、須崎文代
デザイン:川名潤
発行:LIXIL出版
発行日:2019年03月15日
定価:1,800円(税抜)
サイズ:A4判変型・並製、73ページ

住まいに欠かせない、生きるための空間「台所」。
食物を扱うため、その土地の気候風土や文化とも密接に関わり地域によっての独自性も高い。しかし近年では、働く場として合理的で機能重視な空間へと急速に変化し、伝統的な台所は世界的に消えつつある。
理想の台所を求めて、古今東西に広がる小さな空間へと誘う一冊。



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2019/03/14(木)(artscape編集部)

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カタログ&ブックス│2019年2月

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あわいゆくころ──陸前高田、震災後を生きる

著者:瀬尾夏美
発行:晶文社
発行日:2019年2月1日
定価:2,000円(税抜)
サイズ:四六判上製、360ページ

東日本大震災で津波の甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市。絵と言葉のアーティスト・瀬尾夏美は、被災後の陸前高田へ移り住み、変わりゆく風景、人びとの感情や語り、自らの気づきを、ツイッターで継続して記録、復興への“あわいの日々”に生まれた言葉を紡いできた。厳選した七年分のツイート〈歩行録〉と、各年を語り直したエッセイ〈あと語り〉、未来の視点から当時を語る絵物語「みぎわの箱庭」「飛来の眼には」で織り成す、震災後七年間の日記文学。

インポッシブル・アーキテクチャー

監修:五十嵐太郎
編集:埼玉県立近代美術館、新潟市美術館、広島市現代美術館、国立国際美術館
発行:平凡社
発行日:2019年2月8日
定価:2,700円(税抜)
サイズ:A4判、252ページ
ブックデザイン:刈谷悠三+角田奈央/neucitora

実現しなかった建築、という先鋭的テーマの展覧会公式図録。マレーヴィチから現代まで、未完成建築ゆえの実験性と斬新さを一挙紹介。

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2018年2月1日号オススメ展覧会|インポッシブル・アーキテクチャー


霧の抵抗 中谷芙二子展

著者:中谷芙二子
監修:水戸芸術館現代美術センター
寄稿:磯崎新、岡﨑乾二郎、かわなかのぶひろ、小林はくどう、萩原朔美、藤幡正樹、森岡侑士
発行:フィルムアート社
発行日:2019年2月15日
定価:3,800円(税抜)
サイズ:A5判、416ページ
デザイン:田中義久

自然に挑みながら、自然に委ねてゆく──霧の彫刻、ビデオ作品、コミュニケーション・プロジェクトなど、芸術と科学、技術と自然の融合の中で社会と人間の在り方を鋭く見つめる中谷芙二子の柔らかで強靭な〈抵抗〉の軌跡。
霧の彫刻やビデオなどの豊富な図版に加え、中谷芙二子作品をめぐる多彩な論考、中谷自身の過去の論考も掲載し、これまでの活動に込められた精神性を掘り下げます。これまで語られることのなかった歩みが紐解かれる貴重な一冊です。

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2018年12月15日号artscapeレビュー|霧の抵抗 中谷芙二子(村田真)


作字百景 ニュー日本もじデザイン

編集:グラフィック社編集部
発行:グラフィック社
発行日:2019年2月8日
定価:2,800円(税抜)
サイズ:B5判変型、並製、274ページ

フォントではない手描き文字を活かしたグラフィックやSNSで盛り上がる創作デザイン文字など、近年盛り上がる文字デザイン、レタリングの潮流をまとめた作例集。手の動きを活かしたダイナミックな文字からエモーショナルな文字、ポエティックな文字、メカニカルな文字など、デザイナー40組、約800作を掲載。

子どものための建築と空間展

監修:長澤悟
編集:パナソニック 汐留ミュージアム、青森県立美術館
発行:鹿島出版会
発行日:2019年1月19日
定価:2,200円(税抜)
サイズ:四六判変型、278ページ

こんなところで遊びたい。こんなところで学びたかった。
子どもの特権は遊びにほかならない。遊びや学びをどの子にも保証するために制度化された場が学校である。子どものための建築、空間、遊具、道具などには、大人が子どもに成長してほしいこと、伝えたいこと、期待することが表れている。

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2019年1月15日号artscapeレビュー|子どものための建築と空間展(杉江あこ)





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2019/02/15(artscape編集部)

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四方田犬彦『詩の約束』

発行所:作品社

発行日:2018/10/30

映画、文学、漫画をはじめ、およそあらゆる文化現象に通じた書き手として知られる四方田犬彦に「詩人」としての顔があることは、おそらくさほど知られてはいまい。昨年の暮れ、たまたま書店で見かけた本書に手が伸びたのは、詩集『人生の乞食』(2007)や『わが煉獄』(2014)の著者にして、詩誌『三蔵』の同人でもあるこの著者のまとまった詩論を読みたい、という潜在的な意識が働いていたからかもしれない(なお、本書は『すばる』における同名の連載を書籍化したものである)。

果たして、ペルシアの詩人ハーフィズをめぐるエピソードに始まる本書は、そうした期待にたがわぬ珠玉の読み物であった。この著者の本を読むときにつねづね感じることだが、ある些細なエピソードがいつしか作品論へと転じ、さらにそれが抽象的な思弁へと離陸していくその流れが、いつも本当に見事である。本書でもまた、西脇順三郎やエズラ・パウンドといったおなじみの詩人から、吉田健一やパゾリーニといった少々意外な人物まで、この著者ならではの大胆な飛躍と連想から、具体的な詩作品が次々と呼び出される。

本書に収められた18のエセーは、古今東西の具体的な詩をめぐって書かれていながら、いずれも個別の「詩論」に終始するものではない。むしろそこでは、朗誦、翻訳、呼びかけといった言語をめぐるあらゆる営みが、単なる抽象としてではなく、確固たる実体をともなった具体的な営為として浮かび上がってくる。「詩を生きるという体験」について書こうとした、というその言葉に偽りなく、著者の詩的遍歴がそのまま類稀な詩学として結実した一冊である。

2019/02/08(金)(星野太)