artscapeレビュー

山岸剛『Tohoku Lost, Left, Found』

2019年04月01日号

発行所:LIXIL出版

発行日:2019/03/01

「3・11」からちょうど8年が過ぎ、あらためて東日本大震災の意味を問い直す写真の仕事が立て続けに公開されている。建築写真を専門に撮影してきた山岸剛の『Tohoku Lost, Left, Found』もそんな一冊である。山岸は震災前の2010年から東北地方の沿岸部を撮影していたのだが、2011年5月に岩手県宮古市、山田町、大槌町、宮城県気仙沼市などを訪れ、それから3カ月に一度ほどのペースで被災地に通い詰めるようになった。本書には2017年9月までに撮影された199枚が、フルカラーで462ページにおさめられている。長期にわたって集中力を保って撮影し続けた労作といえるだろう。

ページを繰ると、山岸の関心が主に建造物に向けられていることがわかる。津波の恐るべきエネルギーが、どのように建物を破壊したのかが、克明に撮影されている。当然ながら、その破壊の状況は驚くほど多様であり、同時に津波から街が復興していく過程で建造されていった仮設住宅や防波堤などもさまざまな形態をとる。この写真集の最大の見所が、プロフェッショナルな建築写真家の視点で捉えられた東北地方の被災と復興のプロセスの、多層的かつ厚みのある記録にあることは間違いない。

ただ、写真に添えられたキャプションが、撮影の日付と撮影場所の地名だけというのはやや物足りない。できれば建築の専門家によるより詳細なレポートと、山岸自身のコメントがほしかった。多彩な写真群を、視覚的なリズムに配慮して構成した岡崎真理子によるデザイン・レイアウトが、よく練り上げられていることも付記しておきたい。

2019/03/18(月)(飯沢耕太郎)

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